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第二十五話「要塞都市の少年少女は巨人チートで無人島でも楽勝サバイバルライフ」4/8

 =珠川 紅利のお話=


 朝ご飯、そしてみんなでの歯磨き時間の後、央介くんと佐介くんはハガネを出してサトウキビを刈り取ってから島の探検に出発していった。

 目的は、この島にみんなを閉じ込めている壁の原因探し。


「すぐに、助けにくるから」


「そこで燃えてる火炎王と同じで、でかい方を倒しても足は消えないかもしれないしな」


 二人は出発前にそう言って、お留守番の私に信号弾銃を渡してくれた。

 もし私の巨人(紅靴妃)が出てきてしまったら、すぐに場所がわかるように、と。

 私は、安全装置がかかった信号弾銃の引き金をぎゅっと握りしめて、いざという時の覚悟を想う。


 それでも、自由になる足がある今、私はキャンプ周りのお手伝いができるようになった。

 足手まといじゃない、それがとても幸せ。


 お仕事は、ナイフの数だけお料理ついでのお魚の干物つくり。

 続いて、みんなの服の毎日のお洗濯

 最後にサトウキビの選別。


 でも、お料理は上手下手があるからメンバーは固定されていて、洗濯は洗い桶の容量上で人数限界がある。

 結果的にサトウキビの選別がほとんどの子のお仕事。


 と、思っていたら――。


「カブレる植物とか虫がいるかもだからー、肌の手には布巻いて作業するようにしてねー」


 ――葉子ちゃんからの新しいお達しで、獣人体質じゃない子にはアンゼンキテイというのが加わった。

 そうなると、今の私たちが自由に使える布というのは少ないので、自然と作業人数は制限され、巻き布をバトンタッチ交代しながらの作業に変わる。


 手に取った植物がサトウキビかどうか、虫がついていないか、周りの子たちとおしゃべりしながらのお仕事時間。

 簡単なお仕事だけれど、一本一本が地味に重たい植物をあっちへこっちへ動かすのは体力を結構使う。

 そうやって確認が終わったサトウキビは、夢さんのアゲハがネジネジ槍(バタフライ・キッス)を回転させて器用に皮を削り、更にジュースを絞っていく。


 そうやって繰り返しのお仕事を続けていたら、お日様が高い所に登り切る前に最初の交代。私たちはお昼ご飯まで長めの休憩時間ということになった。


 することがなくなった私は、キャンプから少し離れて港まで歩く。

 ――やっぱり、ちょっとだけ恐かったから。

 楽に歩けるこの足が、巨人を呼び寄せてしまうような気がするから。


 けれど、人を避けて向かった港の施設には先客がいた。

 同じく休憩時間になった男の子ふたりが、ぼんやり海を眺めていた。


 クラスでもあんまりアクティブじゃないほうの二人。

 ウサギ獣人の稲葉くんと、カメラ少年の面矢場くん。

 ちょっと珍しい組み合わせ。


 でも、二人に遠慮して強い日差しの下に居続けるというわけにもいかない。

 私は同じ港の施設の屋根の下、せめて彼らとは反対側の地面に腰を下ろした。


「はぁ……」


 ――彼らのため息が聞こえる程度の距離しかとれなかったけれど。

 その海を眺める二人は、どういう加減か同時に呟いた。


「サメ泳いでないかなあ……」


「ゼラス泳いでないかなあ……」


 えーっと。

 稲葉くんはサメ好き、面矢場くんは怪獣好き。

 二人は顔を見合わせて、それぞれの怪発言を聞き返す。


「えっ? ゼラスなんか居たら困るだろ?」


「えっ? サメなんか居たら困るだろ?」


 同時にぶつかりあった質問。

 二人は互いに首をかしげて。


「えっ……?」


 ――なんだろう、このとんちんかんな考えの衝突事故。

 というか、この二人がそんなこと言ってたら本当にそういう巨人が出てきて大変になるのでは。

 そう私が思った瞬間だった。


 周囲に、大きな音が響いた。

 それが何かの破壊音だと私が理解するまで少し遅れた。


 私が音のする側に振り向けば、海岸から少し登った所の林の木が倒れていく。

 それも一本だけではなく、何本も。

 木が、何かになぎ倒されていく!


《制御がきかねええええええええ!!》


 それは木を倒し、何故か悲鳴を上げながら私たちのいる港の施設に向かってきていた。

 そしてついに林を突き破って姿を現したのは、馬の頭の巨人。

 央介くんが、街にやってきてから初めて戦った巨人。


 だけど何かがおかしい。

 何か、姿が違うような気がする。


《駄目だ! コイツのPSIエネルギーは介入できねえ!?》


 何か大きなものを引きずった馬の頭の巨人は、林を抜けたところで一度立ち止まった。

 立ち止まって、足を踏み鳴らす。

 この巨人は、また走りだそうとしている。


 ――こちらに向かって。


 私と、港に居た男の子二人は巨人から逃げ出した。

 だけど島内の林から現れた巨人から離れるため、私たちは間違った方向に逃げてしまった。

 海側の、逃げ場がない船着き場へと。


《Help me !! ですわー!!》


 巨人から、助けを求める声が聞こえてくる。

 助けて欲しいのはこちらの方なのに。


 私たちが、それ以上の逃げ場がないことに気付いた時、巨人は私たちの方に向かって突進してきた。

 巨人が現れたら、夢さんのアゲハがやってくるはずだった。

 だけど今、それが間に合うとは思えなかった。


 あとは海に飛び込む他はない。

 そのまま追ってきた巨人まで海中に落ちてきたら、どうなるのかわからないけれど。


(ワタシ ハ……)


 巨人の大きな足がこちらに向かってくる。

 その向こう側に、夢さんのアゲハが見えた。


「間に合って! 夢幻巨人アゲハ!!」


 でも、今アゲハのいる場所はどう考えても遠い。

 単純な足し算と引き算。

 ――ダメ……!


 央介くんが傍にいたなら。

 央介くんのハガネなら、こんな巨人なんて。


 ――急に、私の小さな巨人の足が焼け付く幻肢痛を訴える。


(ワタシハ アナタノ 足……!)


 幻肢痛と一緒になにかの声が聞こえて、私が後ろの海に飛び込むのを躊躇った、その次の瞬間だった。


 真っ赤な何かが、私の目前を薙ぎ払った。

 それは、目前に迫っていた巨人を大きく跳ね飛ばして。


《ぎゃあああああああああああ!!!!??》


 強烈な“足払い”を受けた馬巨人は、悲鳴を上げながら上下逆さまになって海に落ちていく。

 それが立てた大きな水飛沫は、何が起こったかわからない私たちをずぶ濡れにする。


「バタフライ……って、あれぇ!?」


 ようやく島の奥から私たちのそばにまで夢さんのアゲハが駆け付ける。

 そして夢さんは私の目の前で起こった事を向こうから見ていた。


「……今の、紅利っち、かな???」


「えっ……?」




 事件のあった港に央介くんたちが呼び戻された時には、馬の巨人とそれにくっついていたものは海から引き揚げられて、アゲハの糸でぐるぐる巻きにされていた。

 やじうまのクラスの子たちが遠巻きにしている中で、夢さんから色々な報告を受けた央介くんは困惑しきった顔で私に尋ねる。


「な、何があったの、紅利さん。むーちゃんから……紅利さんが巨人を倒したって……」


「え、えーと……」


 私も、はっきりとした回答は持っていない。

 央介くんに助けて欲しいと祈ったら、何かがどうにかなって目の前の巨人が吹き飛んだという程度。

 途端に頭の中に響く、あきらくんの声。


(紅靴妃、だと思うんだけどな。それが一瞬だけ発生して相手を蹴り飛ばしたんだ)


 ああ……私の悪い巨人(紅靴妃)、だったんだ、さっきのは。

 央介くんも何か頷いている辺り、あきらくんからのは私たち二人への同時配信テレパシー。

 私は、もらったヒントから私に考えられる程度の答えを口にする。


「その、この足から……、巨人が出ちゃったのかな」


 それに答えたのは、夢さん。


「たぶんねー。巨人はそもそも自分を守るために作られた防御システムだから、それが正しい形で動いたんだと思う。やったじゃん! お手柄!」


 夢さんはそう言って、視線を一度縛り上げた巨人――それにくっついていたギガントの悪い人たちの乗り物“アトラス”に向けて、それから私に向き直って、笑顔。

 これは巨人を出してしまったことを気にしないように、気遣ってくれているような気がする。


 それでも、何もできなかった自分が央介くんたちの役に立てたことは間違いなくて、困り混じりの照れ笑いで返す。


 続いて声を上げたのは、佐介くん。


「そういう事だけに巨人が使われりゃ父さんたちも喜ぶんだがな。でも――」


 佐介くんは、語り始めの最初に柔らかな笑顔を見せてから、途中で表情を厳しくしてから横を向いてアトラスを睨む。

 それとほぼ同じ動きした央介くんが、続きを口にする。

 とても、硬くて怖い声で。


「――こういう奴らがいるから、正しく使われない……!」


 央介くんはそういうと、ペンダント――Dドライブを握りしめて、すぐ傍にハガネを作り出した。

 そのまますぐに央介くんと佐介くんはハガネの中に飛び込んで、戦う状態に早変わり。


「アイアン・カッターで馬頭王からアトラスを切り離してから、巨人にトドメを刺す。 むーちゃんはアトラスを捕まえて!」


「おっけい!」


 私が見ていない所で夢さんとテフさんもアゲハに変わっていて、そこからは巨人二人でのとっても手際のいい解体作業。

 ハガネが回転ノコギリで馬巨人にくっついたアトラスを切り離し、アゲハがそれをしっかりと掴んで、一方残った巨人はハガネの必殺ネジネジが貫く。

 そしてアゲハは切り離されたアトラスを顔近くに寄せて大きな声で語りかける。


「逃げ場はないよ! 降伏して、この島の機能を止めなさい!」


 夢さんはそう言ってから、アゲハにアトラスを軽くシェイクさせた。

 軽く、といってもちょっと強烈なジェットコースターぐらいの動きだと思うけれど。


《降りっ……! 降りる! 降伏する!》


《白旗! 白旗上げるから!!》


 途端にアトラスから悲鳴が響き、何やら長い棒が飛び出て、そこから更に大きな白旗が広がる。

 何その機能。

 続いて、アトラスの表面の一部がスライドして開き、そこから男の人が二人バンザイの姿で出てきて――アゲハの一振りで海に落とされた。


「佐介、拘束」


「あいよ」


 突然の海に溺れるギガントの人たちを、ハガネの鎖が縛り上げる。

 二人の身長は両極端で、背の高いのと背が低いのと。

 ――あれ? この組み合わせはどこかで見覚えが。


(あっ、こいつら!)


 あきらくんが急に反応する。

 もしかして――。


「……アトラスって時点で何となく思ってたけどさあ」


(中にもう一人いる。まだ降伏せず頑張ってるみたいだが)


 佐介くんと、あきらくんがそれぞれ反応する。

 私も出てきた二人の姿を見て確信した。

 そして――。


「――なんで、おまえらがこの島にいるんだよ!!」


 央介くんがはっきり怒りを表に出して声を荒げる。


 このアトラスは、要塞都市で襲ってきていたいつものアトラス。

 そして乗っていたのは、私とも因縁ある凸凹コンビに、ギガントのヘンテコお姫様だった。

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