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第二十五話「要塞都市の少年少女は巨人チートで無人島でも楽勝サバイバルライフ」3/8

 =多々良 央介のお話=


「いただきまーす!」


 クラスの皆が一斉に挨拶。

 誰かが呼びかけたわけでもないのに、三度の食事では毎回のお決まりになっていた。

 それと――。


「多々良を許したわけじゃないからな!」


 少し遠めの位置に陣取った長尻尾の狭山さんからの一言。

 これも、毎食前のお決まりになっている。


「狭山さん、携帯越しにものすごい大声で怒られてたのに、懲りないなあ」


「あれ、狭山一尉の声でしょう? 雷が落ちるってああいうのなんだね」


 狭山一尉が大怪我をした事件に関しての非は僕にある。

 そのことを狭山一尉には伝えたけれど――。


『作戦上の被害は兵士ではなく指揮官にある。そしてJETTERの協力者としてできることをしようとした央介君は気にしなくていい。聞き分けの無いバカ娘が悪い』


 ――この一点張りだった。

 あとは……狭山さんに直接謝って、なんなら気が済むようにしてもらうのが一番かな。


 覚悟を決めてから口にする朝食のメニューは、少し心もとない量になってきた非常食のパンにさっき獲れたての魚を塩焼きにして、酸っぱい果汁で味付けしたもの。

 ここまでは前日までと変わらない。

 けれど、今朝からはもう一品がある。


 一品と言っても、一人につきキャラメル一つ程度の大きさの茶色い固形物。

 それを口に放り込めば、素朴だけどとっても甘い。


「多少焦げて雑味も口当たりも酷いけれど、これが精一杯だったよ」


 それを作り上げた料理人、甘粕くんが苦笑いをしながら自分の文を頬張る。

 甘粕くんと辛さんが一晩かけて完成させた新しい食料は、量や完成度はともかく元気の味がする。


 ――これは、昨日朝の発見だった。


「もっと早く気づけば良かったんだよ!」


 ウサギネコ獣人の奈良くんが誰にともなく抗議する。

 みんなもそれぞれに複雑な気持ちで“僕たちを取り巻く大量の食物”を眺めていた。


 それは、この無人島のそこらじゅうで大きな藪を作っていた竹のような笹のような、巨大化させた雑草みたいな植物。

 奈良くんが何度か甘い匂いがすると訴えていた植物。

 みんなは彼の空腹が感じさせる妄言だろうとスルーしていた話。


 しかし、通信の向こうのオペレーターさんが、僕たちの背後に映っていたそれを見て気付き、慌てて知らせてくれた。


 食料が減っていくと悩んでいた僕たちの周りにあったのは、サトウキビの藪だったのだ。

 かつてこの島に住んでいた人たちが作った畑に残されて、野生化したままずっと伸びっぱなしになっていたのだろう。


「サトウキビってことは、これ食べられるのか!?」


「皮を剥いて齧れば甘味は感じると思うけれど、あんまり美味しくないと思うね。工場を通してやっと砂糖になる物だから……」


 甘党の甘粕くんが砂糖についての知識を語る。

 続けて、辻さんからも知見が出た。


「それに、きちんとした栽培状態にないからー、含まれている糖分の量も減っていると思うわー」


「じゃあ意味ないじゃん!!」


 奈良くんが悲鳴を上げて倒れ伏し、感じたガッカリを体で示す。

 けれど――。


「減っているならー、その分濃縮すればいいのよー」


「そういうことだね。幸い火には困らないのだから、ひたすら煮詰めていけばいいんだよ」


「……煮詰めていくとどうなる……?」


 地面に突っ伏したままの奈良くんが、そのままの状態で質問。

 こんな時だけど、彼のふわふわにオーバーアクションな姿は見ていて飽きない。

 答えるのは、甘粕くん。


「サトウキビを絞った汁を煮詰めて、固めた物が黒砂糖っていうんだよ」


 それを聞いた途端に、奈良くんは飛び起きた。


「黒砂糖! オイラ大好き!」


「それじゃあ決まりだ、キャンプ班(人の子組)の新しい仕事になるね。問題はこれだけのサトウキビを伐採、収穫、そして機械で行う搾りをどうするかだけど……」


 甘粕くんの視線は、当然僕たちに向いた。

 僕は頷いて、そして言葉にして応える。


「まかせて。ハガネの怪力なら全部こなせる」


「アゲハもね!」


 そしてそのまま始まった一連の作業は、昨日の丸一日を費やすことになった。


 急なスコールの中で、ハガネが手に構えたアイアン・カッターを一振りすれば、サトウキビは抵抗もなくバッサリと刈り取られる。

 ところどころ地面ごと切ってしまっているのはご愛敬。


「手持ちの刃物が少ないのはともかくー、藪の中は何がいるかわからないからー、ハガネ頼りばかりでごめんなさいねー」


 辻さんからの気遣いの言葉に、僕はハガネの手を振らせて応える。


 ハガネでサトウキビを刈っていくまでは、大した時間はかからなかった。

 ちょっとしたお家一軒二軒分の範囲を刈っただけで、明らかに物凄い量になったのだから。


 そうして刈り取られたサトウキビは、ハガネとアゲハで抱えてキャンプに運ぶ。

 続いて、キャンプへ運んだサトウキビを、他の植物や虫とかの混じり物がないかをみんなで確認。

 これに、結構な時間を取られた。


 その合間に――。


「アイアン・スピナー。僕は、甘味の邪魔を倒す!」


 ――巨人・偽神王が襲ってきて、さっさと撃退したのはむしろ良い気分転換になったぐらい。


 そしてやっと確認が終わったサトウキビは、更に皮を剥いた方がいいとのことだった。

 早速、自衛軍司令部から送ってもらった参考映像を元に、佐介に頑張ってもらってハガネの手のひらを皮むき機の回転刃に変化させ、サトウキビの硬く繊維質な皮を剥いていく。

 その刃構造は、学校に置いてあって、だけど誰も使わない鉛筆削り機の刃に似ていた。


 しかし、こうなると今のハガネは巨人というよりも。


「万能漁業・農業機械になった気分は?」


 僕が冗談交じりに佐介に尋ねてみれば。


「うーん……こちらコンバイン・OK」


 佐介も冗談で返してきた。

 なるほどハガネがトラクターで、その接続式収穫装置コンバイン・ハーベスターは佐介というわけか。

 とりあえず、工作機械として使われることに機嫌を悪くしているということはなさそうだ。


 最初はサトウキビの皮むきどころか全部をみじん切りにしてしまったり、一本一本剥いていく効率の低さから束ねて剥こうとして結局上手くいかなかったり。

 そうやって試行錯誤を繰り返すうちにだんだんと効率は上がり、お昼を大分過ぎた頃には大量の剥きサトウキビが出来上がった。


 ――それらからは、なんとも甘くて爽やかな、ちょっと青臭い香りが上がる。


「甘い! うまい!」


「つまみ食いすんな、奈良!」


「いや、どうせだからちょっと食べてみよう」


 甘粕くんの提案で、剥きサトウキビをナイフで一口サイズに切り、みんなで口に放り込む。

 それはちょっと奇妙で、かなり青臭くて、わずかな甘味でも、甘味に飢えていた僕たちにとっては、三時のおやつとして十分だった。

 ほろ甘いからと長く噛んでいると口の中に大量の硬い繊維が残る欠点はあったけれど。


「それで、これを絞るんだったよね?」


「ああ、この鍋の上で纏めて思いっきりやってくれたまえ。クオリティは気にしなくてもいいよ」


 カマドの傍に置かれた、港湾施設の屋根板を折り曲げて作った鍋。

 加熱と洗浄を繰り返しても、まだ変な味がすると評判の大鍋。


 その上で、ハガネは20㎏ほどのサトウキビの束を手にする。

 もっと沢山できるとは思うのだけれど、まずは実験から。

 サトウキビの束をハガネの両手で押さえつけ、更にそのまま圧力をかけていく。


 途端に、合わさった手の隙間から液体が溢れた。

 重力に従って流れ落ちる汁は結構な量で、鍋で水音まで立てる。


「すげえ! これ全部サトウキビから出てるのか!? ……うん、甘い!」


「あんまり絞り過ぎると灰汁で不味くなっちゃうから気を付けてー」


「絞り過ぎるとダイヤモンドになるんじゃないっけかー」


「どんな超高圧だよ、それ」


 クラスの皆は歓声や助言を上げながら、様子を見守る。

 次はアゲハも搾りを試してみて、絞った液体を鍋へと流し込んで。

 ハガネとアゲハでサトウキビを絞って絞って、大きな鉄板鍋をサトウキビの絞り汁でいっぱいにして。


「あとはこれを煮詰めて煮詰めて濃縮して、飽和溶液になった所で冷却すると黒砂糖として結晶化する……はずなんだけども」


「みんなで交代して鍋の番。暑いから交代交代でやっていきましょうね」


 料理の主導は甘粕くんと辛さん。

 彼らの指示に従って、キャンプ班がその役目を請け負った。


 それから、午後はキャンプ班が焦げないようにかき混ぜ、真夜中はテフが監視してくれて、さっきようやく出来上がった。

 結局、鍋の全部が上手く固まったわけではなく、鍋の縁側にくっついた固形物を拾い上げて、だいたい人数分に分けたもの。

 それがさっきの朝食に出てきた新食品というわけだ。


 結局、お腹がふくれるほどの分量はなく、繊維の欠片も混ざっていて食感も良くはない。

 それでも、文明的なものが何もないこの環境で、自然に無い強烈な甘さはとてもうれしいものだった。



「うまくもなかったけど、ごちそうさま」


 量もないご飯を早々に食べ終わったのは、長尻尾の狭山さん。

 彼女の傍には既にウサギネコ獣人の奈良くんが控えている。

 そして、狭山さんからの号令。


「獣人調査隊! 食べ終わった順で、番号!」


「いち!」 「にぃ!」 「はえーよ……。さん」 「はーい。よん」


 順に奈良くん、ウマ獣人の日々野くん、ハヤブサ鳥人の小鳥遊くん、そしてヒグマ獣人の熊内さん。

 これは、三日目ほどから狭山さんたちが自発的に始めた活動。

 身体能力に自信のある獣人の子たちが、この無人の島で利用できるものを探しにいってくれている。


 ――熊内さんは別として、狭山さんたちは何かと理由を付けて僕たちから離れていたいのかもしれない。

 それでも今は携帯同士での通信もできるようになっているし、緊急時には信号弾を上げると約束をしている。


 ちなみに、おととい昨日と獣人調査隊が活動して、発見できたものと言えばレモンに似た果物。

 そのまま食べるには未熟過ぎるのかとてもすっぱかったけれど、魚の味付けにはもってこいだった。


 また、巨人の発生はキャンプ近くだというのを遠くから観測したのも彼らによるもの。

 狙われているのは僕とむーちゃん――巨人隊だけという小鳥遊くんの推論は正しかったのかもしれない。

 それなら、むしろ行動して確認しなければいけない。


 そしてそれは大神一佐や父さんと作戦会議して決まっていた事でもあった。

 ――クラスみんなの安全が確保出来次第、ハガネかアゲハがキャンプから離れて巨人バリア発生装置を探索。


 遭難当日の1日目、火周りの2日目、洗濯の3日目、大雨で何もできなかった4日目、収穫の5日目。

 そして、6日目の今日からが新しい調査隊、巨人調査隊の出動開始だ。

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