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第二十四話「Drainage divide - Leviathan by far」6/6

 =どこかだれかのお話=


「ケンカはわかる。でもまずはきちんとご飯を食べよう!」


「みんなで家に帰ってから、それで改めてケンカすればいいからねー」


 料理担当の二人、甘粕と辛が熱々の焼き魚と膨らせた圧縮パンを配りながら呼びかける。

 空腹の限界に来ていたケンカ組は、それらを受け取るや否や無人島のディナーにかぶりつく。

 あまり味も良くないそれは、けれど命の味だった。


 彼らの抱えたわだかまりが消えたわけではない。

 今回も央介らに助けられたのは間違いなくとも、央介らに身近な人を傷つけられたことも事実だった。


 けれど食べなければ、休まなければ倒れ――もっと悪い事になることも理解してしまった。

 だから、嫌な相手の差し出したものでも受け取る。

 受け取ってから、それぞれの抱えた気持ちに応じて、問題の巨人隊から距離をとりはじめる。


 その中でも少女は広場からも離れ、坂を下り、港まで歩いてきていた。

 人工の強い照明こそなかったが、穏やかな月の光が地面と海を十分に照らしてくれている。


 少女は港の岸に立って時間を過ごし、その間に聞こえるのは波の音ばかり。

 以前、彼女は歌の取材のために海際の旅館で過ごしたことはあった。

 けれど、今ほど海の闇の深さと、その神々しさを強く感じはしなかったように思う。


 この経験を得て、もっと悲しみと温かさに満ちた海について歌える。

 けれど――。


 少女の思考は歌への情熱と、その不能で堂々巡りになった。

 手に入れた情報から推察すると、央介によって自身の巨人が破壊された。

 その余波で心のどこかが破壊され、そして声も奪われた――という話らしい。


 その事を知って、怒りに任せて動いた。

 けれど、その怒りを向けた少年に救われてしまった。


 歌いたい、歌えない。

 憎みたい、憎みきれない。


 結論が出ない思考の時間はしばらく続いて、しかし不意に中断された。


 たどたどしい足音が近づいてくる。

 靴ではない、裸足でもない、地面を叩くような音混じりの奇妙な足音で、少女は誰が来たのかに気付き、驚いて振り向く。


「紅利、大丈夫? 車椅子は?」


「いざって時のバッテリー消耗が恐いから、歩いてきちゃった」


 少女の居た場所から少し後ろには、義足で歩くことを怖がっていた幼馴染が、その人工の両足と木の杖を支えとして立っていた。


 ――車椅子と義足はどちらも電力を使うが、不慣れな義足よりは車椅子の方が間違いなく速度は出る。

 緊急時に使うべきで、温存しておくべきなのは車椅子。

 幼馴染が、非常時に冷静な選択をしていることが少しの驚きだった。


 そこでやっと少女――亜鈴 翠子は、心配させる程度の時間が過ぎていたことに気付く。


「ごめんなさい。心配させるようなことして」


「うん、今の翠子(リコ)ちゃん、声上げられないんじゃないか、海に落ちたら助け呼べないんじゃないかって」


 紅利は心配を口にしながら、何時でも歌うように語っていた幼馴染の声が未だに合成音声なのを痛ましく感じていた。

 その気持ち程度には気付いて、けれど翠子は軽く怒り顔を作って返す。


「紅利だって、海に落ちたら危ない体じゃない」


 少しおっかない冗談を口にしてから、翠子は微笑んだ。

 二人は互いの抱えた悲しみに、静かに笑い合う。

 それから先に話を続けたのは、紅利。


「でも、今は絶対助けてくれる人がいるから……」


 月明かりに照らされたそれは、幼馴染の見たことのない表情だった。

 恥ずかしそうに、可愛らしく、けれど強い確信を伴って。

 紅利の熱くて強い気持ちが、“彼”に向いているのがわかる。


 そっか、これがいわゆる――。

 そこまで考えてから、翠子も抱えているものを素直に口に出すことにした。


「――多々良くんが悪い人ではないのはわかってる。けど、私から歌を奪ったことが許せなくて」


「うん……。リコちゃんが、お父さんから褒められたお歌を大事にしてるってこともわかってる」


 紅利は翠子の話に理解を示しながら、知る限りの別の親子の話へ移していく。


「でも、央介くんも、央介くんのお父さんが作った巨人が、周りの子を傷つける事を怖がってたの」


 翠子は言い返さない。

 まだ、理解して納得とはいかなかった。

 それでもワガママ寄りだった幼馴染が他人のために動いている事の重さが、彼女の口を止めていた。


「この間の真っ赤な、他の人の足を切り取ろうとする巨人。あれが私が作っちゃった巨人なの。ああいうのが暴れないように、央介くんは無理して、泣きながら戦ってる」


 紅利もそこまで喋ってから、流石に押し付けがましいことに気付いた。

 それでも、大切になった少年のために、幼馴染へ重たい気持ちでの念押し。


「――今日だってみんなが出ていった後に辛くて泣いてたってこと、わかってあげてね」


 翠子は、ズルい交渉をしかけてきた幼馴染から振り返り直って、誰も居ない海側を向く。

 そこまで言われたら、もう何も言い返せないし、ケンカもできなかった。


 少しすると、また背後では紅利のたどたどしい足音、杖音。

 それは遠ざかっていき、どうやら広場へと帰っていくもの。

 翠子にはそれが、自身を信じてこれ以上の干渉を控えた紅利の行動だと十分に理解できた。


 ――心配させっぱなしなのは、良くない。


 そう思ってはいても、翠子の足はなかなか向きを変えられなかった。

 もう少しだけ、海を眺めて――翠子がそう考えた時、埠頭に人影があることに気付いた。


 長い尻尾のある人影。

 自分よりさらに距離を取っている少女。

 猛々しくて、不死身の体で、心配されなさそうな女の子。


 翠子は、ため息一つを吐いてから、合成音声の音量を最大にして彼女へ呼びかけた。


「狭山さーん! 夜も遅いから、避難所に戻りましょー!」


「うっせーな! わかってるよ!」



 二人の大声を背後に聞いて、紅利は安心して足取りを進めた。

 坂を登って見えてきた広場では、巨人のカマドが明々と燃え周囲を照らしている。


 紅利は、それを見て怖さを感じない程度には、自分の抱えた悪夢が薄れてきている事に気付いた。

 薄れてきている――あるいは、別の頼れるもので上書きされている。

 ――そして同時に。


「前に出てきた巨人が現れるなら、私の巨人も……」


 新しい恐怖が紅利の中に芽生える。

 けれど、今の彼女はすぐに決断できた。


 二度目は、大切な少年を悩ませない。


 その決意を抱えて、紅利は歩き続ける。


 See you next episode!!

 島での生存と、脱出のために駆け回る央介たち。

 解決も見えないままに日々は経過していく。

 しかしその最中に意外な事件と遭遇が起こった!

 次回『要塞都市の少年少女は巨人チートで無人島でも楽勝サバイバルライフ』

  君達も夢を信じて!Dream Drive!!


 ##機密ファイル##

 『獣人:鳥人』

 鳥類のEユナイター、鳥獣人。

 大抵は両腕が翼となっており、伝説に語られる妖怪ハルピュイアの姿に近しい姿をしている。


 彼らの内、飛べる鳥の鳥人は空を飛べる。

 当たり前のことを言っているようだが、物理法則からすれば『人間に近しい体重に、人間比まで拡大された程度の翼面積だけで、鳥と人間の筋力を加算した程度の飛翔力』となると、瞬間的なホバリングはともかく絶対に飛べるはずがない。

 それなのに彼らは飛べる。


 これは獣人化に用いている呪術の力によるものとなっている。

 つまり、飛べる生き物の力を宿したから通常物理法則を捻じ曲げて飛べる、のだ。

 また、鳥側の能力だけでなく、人間要素の呪術作用によって筋肉もない羽先が指のように動き、物を握ることもできる。


 しかし、機能的に飛行できる鳥人であっても、その危険性などから飛行が法的に許可されるのは小学校高学年から。

 その際は高度も地表から6mまでであり、更に墜落時に生命を守るエアバッグスーツとヘルメットの着用が法定されている。

 更に高く飛行する場合には、鳥人飛行免許の取得が必要になり、これを受けられるのは成人年齢の16歳から。


 余談だが、哺乳類と鳥類では肺の構造が違う。

 そして鳥人は大抵、鳥類肺と気嚢を持つが、通常時は慣れもあって横隔膜を利用した哺乳類呼吸を行っている。

 しかし飛行状態では運動量の増大もあって鳥人は完全に鳥類呼吸に切り替える必要がでてくる。

 そのため、鳥人は飛行時には呼吸矯正マスクを着用することが多い。

 この矯正マスクは大抵「鳥のクチバシ型」にデザインされており、結果的にフル装備の鳥獣人は擬人化された鳥に見える姿となる。

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