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第二十三話「急転直下! 策謀の島」4/4

 =多々良 央介のお話=


 僕たちはハガネを泳がせて、島の港へと戻る。

 その間、この島に起こっている異常事態をどうやって伝えるか考えながら。

 僕はハガネを港に這い上がらせて、そして今日二度目のみんなの前でハガネの解除。


 クラスのみんなを巨人の危機からは救えた。

 けれどみんなと僕との距離は、むしろ開いているような気がした。


 ――嫌な、予感がする。


 そういえば、火炎王にテレパシーを焼かれた?らしいあきらは大丈夫だろうか。

 僕がそう考えると、すぐに応答がきた。


(……巨人の方は助かったけどよ。まあ、薄々考えてる通りだ。――今、アカリーナと夢さんが問い詰められた)


 あきらに言われて見れば、みんなから少し離れた場所に、二人で寄り添って俯く紅利さんとむーちゃん。

 ごめん、それは僕が背負うべきものなのに……。


 そして、立ちはだかるように待っていたのは、長尻尾の狭山さん。


「なるほど、強いわけだ。それなのにかーちゃんに大怪我させてなあ!」


 彼女の怒りが、声になって僕へ降り注ぐ。

 言い返せることなんて、何もない。

 僕は頭を下げて、謝り、認める。


「ごめん……。あの時は、僕の力不足と勇み足だった……」


 悪夢王、名前どおりの最悪の巨人。

 その動きを止めるために、僕は無茶な突撃をした。


 結果的にはそれも意味があったけれど、そのために狭山一尉は不死身の体で苦しみ続けるという悪夢を見た。

 狭山さんは狭山一尉の容態を見て悲しみ、泣いていた。

 僕が、戦い方を間違えたために。


 もっと戦い方を考えるべきだった。もっと大人たちと相談するべきだった。

 でも、いくら後悔しても、起こった事は取り消せない。


 それが今、僕に返ってきた。


 似たような悪夢はずっと見てきた。

 新東京島で僕がしたことを、幼馴染のみんなが、その家族の人たちが責めてくる夢。

 要塞都市で僕がしたことを、新しいクラスメイトのみんなが、その家族の人たちが責めてくる夢。


 それが――現実になっただけ。


 狭山さんからの返答はなく、軽蔑の鼻息だけ。

 続いて、狭山さんの横に進み出たのは、紅利さんの幼馴染の軽子坂さん。


「気になる事があって、紅利と夢さんに聞いたの。あの赤いガラスに触ると巨人がでるって話だったよね」


 それに合わせるように、男の子の声。

 ガラス細工の、火炎王の光本くん。


「あの炎の巨人が倒された、その日だった……。思い出したくもない……!」


 ――そうだね。

 僕は君に、みんなに酷い事をした。

 だから、本当は最初からこうあるべきだったんだ。


「巨人は、私達から生えて、それが倒されると私達もおかしくなるって。だから……」


 軽子坂さんは、そこで言葉を切った。

 僕が顔を上げると、一人の女の子が僕の前まで近寄ってきていた。

 その子は、強すぎる感情に顔を赤く染めて、目には涙を滲ませて。


 何かを考える間もなく、派手な音と一緒にひどい衝撃が頭に加わって僕の視界がずれた。

 少し遅れて頬に痛みがやってきて、顔を引っ叩かれたのだと気付く。


「リコちゃん……! やめて!!」


 紅利さんの声が聞こえる。

 ――大丈夫だって言ってあげなきゃ。

 これは当然の罰なんだって伝えなきゃ……。


 目の前に立つ歌姫少女グリーン・ベリル、亜鈴さん。

 彼女の声の代わりに、サンプリングされた単調な音声が、彼女の手話に合わせて語り始める。


「私の声、私の歌。あなたが壊したのね。街を壊させないために戦ってたことはわかっても、でも許せないから」


 亜鈴さんは理由を述べて、それからぐっと手を握りしめた。

 ――ああ、もう一度かな。

 ゲンコツなら、歯を食いしばっておかないと――。


 前に出ようとする佐介を抑えて、人を傷つけた分の罰を受け入れる。

 僕がそう覚悟を決めた時に、幼馴染の声。


「ベリル。お願い、やめて……! どうしてもって言うなら、むーが代わりになるから……」


「いいんだ、むーちゃん! 歌唱妃を、亜鈴さんの巨人を壊したのは、僕なんだから!」


 幼馴染の優しさに、だけど彼女にはありもしない責任を取らせまいと釘を刺す。

 僕には、彼女の声を奪った罰、その事を彼女に黙っていた罰、どちらかが残っているのだから。

 亜鈴さんは動かず、しばらく沈黙を続けて、それから振り向いて手話を始めた。


「夢さん。医者の娘同士だって、仲良くなれたと思ったけど、残念です」


 亜鈴さんはそれだけ告げて、僕の前から離れていった。

 その、彼女が歩き行く方向に、かなりの人数のクラスメイトが集まっている。


 彼らの中央に立っていたのは、長尻尾の狭山さん。

 場に合わせて黙っていた彼女が、再度口を開く。


「まあ、そういうわけで、あたしらは噓つきのハガネと一緒に居るのはめちゃくちゃ気分が悪いって思ったんだ」


 狭山一尉の娘である長尻尾の狭山さん、確か家族が警察関係者の軽子坂さん、僕が声を奪った亜鈴さん、火炎王の光本くん。

 他にも何人かそちらに集まっていて、揃って鋭い視線を僕へと向ける。

 きっと、僕が悲しいことや辛いことを与えた子たち。


「だから、大人達が迎えに来るまで。いや、その後でも、顔も見たくない!」


 狭山さんはそう言い切った。

 それは当然の話だった。


 でも……、伝えなきゃいけないことがある。

 そう思った時に、代わりに声を上げたのは佐介。


「それどころじゃねーぞ。この島はバリアみたいので閉鎖されてて出入りができないんだ!」


 でしゃばりロボット……。

 たしかに今、無理に反論すれば余計に憎まれる。

 それでもそのぐらいは、今の状況では……僕は守られなくたっていい。


 佐介にそれ以上を喋らせないように意識を向けると、辛そうな顔をして見返してくる。

 それを無視して、続きの説明は……僕の口から。


「さっき、沖に向けて攻撃して確認したんだ。多分、敵の作った壁があって、この島を覆ってる。だから大人達が入ってこられるか、すぐに迎えに来られるかが怪しい」


「――っ! ……それでも、うちのかーちゃんとひいばーちゃんみたいなのが何とかするッ!」


 僕の説明に噛みつくように反応したのはやはり狭山さん。

 だけど、その声には間違いなく動揺が混じっていた。

 それでも彼女は姿勢を崩さない。


「方針は変わらない! 救助が来るのを待つにしても、お前らみたいな最低な嘘つきとは一緒に居たくない!」


 そう狭山さんは言い切った。

 彼女の周りの、僕やハガネに良い感情を持っていない子たちもそれを肯定するようだった。

 食い下がって、佐介が口を挟む。


「さっきみたいに巨人が襲ってくるかもしれないのにか!?」


 更に正論を訴えたのは、巻き角の辻さん。


「だめよー。遭難の最中は感情を抑えないと、被害が大きくなっちゃうわー。なるべく大勢で纏まって行動しないとー」


 口調はのんびりでも彼女の焦りが感じ取れた。

 けれど、それにも反駁が返る。


「抑えきれなくてぶん殴りそうなのを堪えてるんだ。遭難中に余計な怪我人なんか出したくないから、ここから離れる、OK?」


 感情的な理論を唱えたのは馬蹄の男の子、日々野(ひびの) (せい)くん。

 でも、それを咎める事なんて僕にはできない。


「さっきの話で、狙われているのは多々良って話だったな。じゃあ今、その傍にいるのは一番危険ってことになるだろう」


 理性的な答えを返してきたのは鷹翼の男の子、小鳥遊(たかなし) (はじめ)くん。

 その答えが彼が狭山さんの側を選んだ理由。


 彼らの行動は当たり前のことだった。

 ハガネ――僕のせいで大切なものが壊されたり、家族を傷つけられた怒り。

 そんなの……、抑えることなんて、でき、ない。


 ――あれ、目眩が、する。

 南国の日差しで、熱射病になったのかな……。


 制止の声が上がる中で、狭山さん達は陽炎の向こうへ歩いていく。

 人数は4、5……9人。

 口々に、彼らなりの相談をして。


「どうする? 泳いで壁とかいうの確認しにいくか?」

「馬鹿言え。クソ暑いんだから水と屋根のあるとこ探すぞ」

「ここ観光地だって説明はあったし、道路は残ってるんだから、その先に昔の家とかあんだろ」

「地図アプリは……ああ、もう! オンライン専用かよ、使えねーな!」


 聞き取れたのは、それぐらい。

 追いかけた方がいいのか、どうなのか、判断ができない。


 ――ただ、彼らの中に想定外の一人が居た。

 佐介が、慌てて声をかけていく。


「お、おい! あきら……!?」


「あー……。この間、多々良のハガネがブリキオーの巨人倒しただろ? まあ好きにはなれないよな。それじゃ」


 まるでつっけんどんな、あきらの対応。

 でも――。


(こっち側のフォローする。なんかあれば連絡するよ。……央介、ちょっと休んだ方がいい)


 言葉とは真逆に、あきらからの優しいテレパシー。

 ああ、うん、助かる、よ……。


 あきらへ何とか返答を返しながら、僕は地面が揺れるような目眩の中に居た。

 久々の船での船酔い、火炎王との戦闘の後遺症、炎天下での熱射病――原因は、なんだろうか……。


 ――何か、とにかく……辛い。


 胸が苦しくて、泣きたくて、胸が突き上げられる。

 亜鈴さんに叩かれた頬も、痛い。

 狭山さんが言った、嘘つきという言葉が頭の中で響く。


 ちょっと、一度だけ、みんなの前を離れよう……。

 もう、これ以上は、迷惑を掛けられないから――。



 See you next episode!!

 少年、多々良 央介に試練が与えられた。

 しかし戦い以外に力の使い道を見つけた時、彼のほんとうのヒーローとして活躍を少女は目の当たりにする!

 次回『Drainage divide - Leviathan by far』

 君達も夢を信じて!Dream Drive!!



##機密ファイル##

『沖ノ鳥諸島海底要塞』


 日本自衛軍、三大海底要塞の一。

 新島であり、国際的にも議論の対象となった沖ノ鳥諸島を守るために建造されたもの。

 深海海底にキロメートル単位の対水圧ドームが複数連結されており、更にその地下施設とで2万人程度が生活している。

 外部との交流が少なく立地的に極秘基地のような雰囲気があるが、非軍事の関係者居住区も多く、一般的に情報が公開されており、観覧希望者は入場も可能な“番外要塞都市”ともされる。


 基本情報が公開されているのは、深海底という環境は核攻撃等の投射、熱光爆発によるリスクこそ減らしているが、D兵器のような物質による防御が不可能な兵器が存在する時代ゆえに、位置を秘匿しきれない巨大施設ではあまり意味がないため。

 当然、何らかの防御策は講じているかもしれないが、それこそ機密情報となっている。

 交流が少ないのも単に交通の便が最悪だからである。


 この要塞には軍事基地以外にもいくつかの側面があり、沖ノ鳥諸島の科学特区による研究の内、高い危険性や軍事要素の強い案件の実験場としても機能。

 その他、各種軍事技術の実験、海生獣人・Eエンハンサーへの教育、軍事教練等も行われている。


 なお、ここで研究されているものの内には、ゼラスをはじめとするRA生命体に関するものがある。

 そして同生命体群は身体機能としてPSIエネルギー出力を行っているという説が過去に提唱され、しかし同説は一部の研究機関・自衛軍のみでの秘匿情報となっていた。

 黒野 夢――アゲハの研究・訓練がこの海底要塞で行われていたのは、ここで実験対象となっているRA生命体のPSIエネルギー反応に紛れさせ、外部からの検出を困難にするという附子島少将の思惑によるものである。

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