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第二十三話「急転直下! 策謀の島」3/4

 =多々良 央介のお話=


 無人島で、遭難状態となった神奈津川小学6年A組。

 隠し事ができなくなって、原因である僕たちにクラスメイトからの質問が続く。


「それで? なんであたしらの町にやってきたんだ? 元の島で戦っていればよかったじゃないか」


 少し、()()を効かせた声で訪ねてきたのは、長尻尾の狭山さん。

 ――彼女は、僕たちが要塞都市に逃げ込んだということを察したのかもしれない。

 その質問に対し、佐介が言葉を選んでの回答。


「それか。――オレたちは戦うことはできるようになった。でもオレらの住んでた新東京島は戦うのに不向きだった。要塞都市じゃないし、周りが海だから敵が入りやすい」


「だから陸地の要塞都市で守ってもらうって話だったんだ。それでも巨人は襲ってきて、みんなを巻き込んでしまったけれど……」


 狭山さんは、意味は理解しても納得はしていない様子で、鼻息一つ。

 代わりに応えたのは、巻き角の辻さん。


「ありがとう、多々良くん。とりあえず説明に不足はないわー。でも……悪い人たちが襲ってくる理由が少し弱い気もするかしらー? 相手が技術を盗んだっていうなら、襲い掛かってくる意味もないしー……」


 なんとか僕たちが説明の義務を果たせたらしいことを辻さんが告げてくれた。

 一方で、彼女が口にした『襲ってくる理由が弱い』というのは、僕にとっては考えもつかない事だった。


 僕がギガントという犯罪組織が存在することを知った頃には、既に何度も巨人や相手の工作ロボットに襲われていた。

 だから、悪の組織ギガントは『そういうものだ』としか考えられなかった。

 しかしそうなると、考えつく相手の目的となれば、何かこう証拠の隠滅だとか、技術の独占だとか――?


 僕が戸惑って引いてしまった時に、辻さんに語りかける、一人。


「で、でも葉子ちゃん。本当なの。悪い人たちが街の中に入ってきてて、巨人にハガネを襲わせてるの」


「――紅利さん!?」


 思わぬ発言に、そして彼女の行動を止めようとして、僕は声を上げた。

 今この場で紅利さんが僕の事に言及すれば、彼女は共犯者みたいになってしまう、そう思って。


 けれど彼女は僕に視線を送ってきて、構わないというように首を振る。

 結局、僕は彼女の意思と決定を尊重する他になかった。

 というよりは既に声に出して知れてしまって、止めようもなかったのだけれど……。


「わ、私、最初の事件で、Dマテリアルを街に撒いてる……ギガントの悪い人達に攫われて、央介くんに助けてもらったの」


「最初の事件――。ハガネと馬型の巨人と戦ったって話だっけ」

「その前に、テロだか事故だか何だかで道路封鎖があったよ」

「あの時は、まだ多々良は居なかっただろ? ……あれ? 翌日に転校してきたっけか?」


 クラスの子たちがそれぞれに情報整理をする中で、紅利さんは車椅子の上で頭を下げる。

 その姿を見ていると、胸が、痛い。

 彼女が何か悪い事をしたわけではないのに。


「だから、その、央介くんがハガネを動かしてるとか、色々と知ってて。私も黙ってて、ごめんなさい」


「チッ……珠川もか。他に知ってる奴は?」


 狭山さんの舌打ちは音高く、完全に周りに、僕たちに聞かせるつもりでのものだった。

 不機嫌な彼女の機先を制するように、手を挙げる女の子が一人。


「私、知ってたのです。佐介くんの血の臭いが変なことをお父様に聞いたらこっそり教えてくれたのです」


 吸血少女の有角さん。

 僕たちの事に気付いているってあきらが教えてくれていたけれど、なるほどそういう経緯。

 一方で佐介がさも驚いたというように反応してみせる。


「うわ、マジかよ。機密情報駄々洩れじゃん」


「えへへぇ。お父様は軍の情報部なのです。娘に甘々なのでちょっと危なっかしいのです」


(どっちかというと吸血鬼一家は同族が優先で、モラル面でズレてるってのが原因だと思うけどな……)


 軍の情報部に対する、あきらの諜報活動。

 吸血鬼――やっぱり怖いかもしれない。


 けれど、有角さんが手を挙げてくれたことで、紅利さんだけにみんなの意識が向くということは無くなった。

 それこそ僕は、紅利さんはクラスの情報を僕に流していたスパイだ、なんていう見方をされそうだと危惧していたのだけれど。

 少し、心が軽くなった。


「へえ。軍にいる親、ね……」


 狭山さんが呟く。

 狭山さんのお母さん、狭山一尉は僕たちをいつも守ってくれている都市軍の兵士。

 ――だから、彼女の抱えている怒りの理由は、分かっている。


 そして、それぞれの立ち位置がはっきりしたことで、クラスの皆は堰を切ったように口々に質問を始めた。


「じゃあ全部ハガネが、多々良が街に来たから起こった事だったのか?」

「シェルターまで水没したのも?」

「みんな裸にされたのも!?」

「辛い地獄にされたのも?」

「甘い地獄だったでしょう?」

「公園の木がボール食べちゃう怪物になったのもかしら?」

「町中をサメが泳ぎ回ったのも?」


 僕たち巨人隊はそれぞれの質問にきちんと頷いて答え、ただ身に覚えのない事件に関しては首をかしげて否定する。

 ――そして、最後に彼女からその質問がやってきた。


「かーちゃんが……死にそうになった時も、か?」


 氷の刃で突き刺されたような感覚に、僕は思わず立ちすくむ。

 狭山さんの声には震えるほどの怒りが乗っていた。


「そうだよな。あの時、多々良が居たもんな。その時から、ずっと嘘ついてた……!」


 クラスメイトのみんなは、狭山さんの空気に圧されて質問を止めた。

 一方で、何人かの子が声を上げ始める。


「お父さんが事件捜査で真夜中も出かけるの。怪我しないか不安で……」

「うちの母さんは防衛塔勤務だけど、この間の事件でゾンビに襲われたって」

「親父が巨人の後片付けで帰ってくるのが遅れるって、その度にお袋が徹夜しててさ……こないだそれで体調崩したんだよ」


 ――みんなは、要塞都市の子供達。

 その中には当然、軍や警察に勤めて、巨人の危機に曝されている親を持っている子がいた。

 彼らの正当な訴えが、一度は納得に向かっていた巨人に関わる話の方向を変えていく。


 それにハガネの戦いによる被害はそこだけに収まっていないという部分はまだ伏せたまま。

 被害者の子が事件の符合に気が付けば、隠し通すのは難しい。


 ああ……、新東京島と同じだ。

 ハガネ――僕は、結局身近な大勢を傷つけて回ってきて――。


(――っ!? 央介、すぐ近くにいる! 巨人だ!!)


「えっ!?」


 僕の悩む時間すら許さないように、あきらからの鋭く激しいテレパシー。

 彼から誘導された方向に視線を合わせると、廃港の建物に真っ赤な手を掛け、巨人が姿を現す。

 その姿は――。


「――か、火炎王!? まさか……!」


 それ以上を口にするのは何とか抑えることに成功した。

 でも、火炎王ということは、まさか光本くんが今発生させた……!?


(いや……光本も気が立ってはいたが、こんなに速く、しかも一度閉じた巨人を出せるとは……あちゃちゃちゃちゃちゃっ!!)


 悲鳴のテレパシーを最後に、あきらからの呼びかけが止まる。

 そういえば火炎王みたいな全方位攻撃型の巨人はダメだって言ってた。

 心配して、クラスの列の中のあきら自身を確認すると、頭痛でも起こしたように頭を両手で抑えている。


 ――早く解決しないと。


 そうするうちに、クラスのみんなも巨人の存在に気付いて悲鳴を上げた。

 火炎王はゆっくりと、だけど確実に僕たちのいる船揚げ場へ向かってきている。

 こちらを狙ってきている!


 それでも冷静な子は居て、学校のいつも通りに行動をとった。


「みんな! 落ち着いて、避難!」


 けれど――。


「避難って、どこに!? ここシェルターなんてないよ!!」


 ここはいつもの学校ではなくて、要塞都市でもない。

 みんなを守る防衛機構は何もなくて、あるのは――。


「央介、やるぞ! いつも通りだろう!!」


 ――佐介が声をかけてきた。

 そうだ、今、みんなを護れるのは僕たちだけ。


 それでも、また巨人を倒さなきゃいけない。

 その被害が投影者に降りかかる。

 けれど、この無差別に攻撃してくる炎の巨人を止めなければ、それどころでは収まらない。


 悩んで、悔やんで、逃げ出したい。

 でも、僕にはそんな時間も場所も、権利も何もない……!


「……むーちゃん、みんなの避難誘導と、何かあったらアゲハで守って! 僕は港右側、開けた方で戦うから、その逆側――建物の影に!」


「わ、わかった! 終わったらアゲハも向かう!」


「そいつはありがたい。けどそんな時間無いかもよ? なんせ真横は!」


 むーちゃんの呼びかけには、まず佐介が答えた。

 真横、その意図は簡単に分かる。

 火炎王の弱点は――。


「――海! 勝つのは、楽か!」


 僕は、待機状態のままだったDドライブを握りなおして瞬時にハガネを形成する。

 すぐに佐介が飛び込んできて、融合が終わる。


「夢幻巨人ハガネ、敵性巨人の鎮圧および遭難者の救助を開始します!」


 形成直後、ハガネは火炎王に向かって突進した。

 両手には既に極太のアイアン・チェイン。

 火炎王との戦いは、ただ焼ける痛みに耐えるだけのもの。


 向かっていくハガネに火炎王が炎の弾丸を放ってきた。

 背後の皆の方に飛ばないようにハガネの体で受け止めながら、相手の首に鎖を巻き付けて、締め上げる。


「――あっぢぃ!! さっさとやるぞぉ!!」


「ぐうっ!!」


 佐介の悲鳴、僕の呻き声。

 鎖で火炎王のガラスの体を固定できたところで、ハガネのかかとを軸に巨人二体の向きを回転させて海に向ける。

 そのまま相手の重心を空中に向けて引き抜き、鎖を使った背負い投げ。


 船着き場の地面へ火炎王を叩き付けてダウンをとり、更にその首を鎖で吊り上げ、引き摺り、引き付ける。

 最後はハガネに相手を羽交い締めにまでもっていかせた上で、そのまま海へ道連れと倒れ込んだ。


 海の圧倒的水量は火炎王を一瞬で消火してくれた。

 こうなってしまえば、後にやることは決まっている。

 僕は火炎王が陸へ這い上がらないように、外海側へと蹴り出した。


「――アイアン・スピナー」


「央介、軍が傍にいないのに攻撃方法を言う意味あるっけ?」


 佐介は鋼鉄の螺旋を形成しながらも、普段との環境の違いを指摘してきた。

 それもそうだけど、癖になっちゃってる。


 ハガネは火炎王を打ち貫いた勢いで、波止場近くの海中まで突き進む。

 振り向いて確認したけれど、ガラスの体の火炎王は水中では酷く見辛く、残り火が蒸発させる海水の気泡と、アイアンスピナーの貫通点、全身に広がるひび割れの光だけ。

 崩壊のスピードが少し遅いような気がするけれど、それ以上の動きはない。


 とりあえず状況を解決したことを告げるため、ハガネを泳ぎ浮かばせて海上にその頭を突きださせる。

 そのまま巨人の大きな手を振れば、港で同じように応じる数人。


 遠目に車椅子の紅利さんはわかりやすくて、服の色からすればむーちゃん。

 それ以外にも何人かがこちらに手を振ってくれているようだった。

 僕は、ほっと一息を吐く。


 ――その時だった。


「……なんだ? あの虹色の……」


 佐介が、何かを見咎めて警戒を訴えた。

 僕は再度、意識を戦闘状態に切り替える。

 そこへ佐介が更なる状況報告。


「央介、6時方向……だけじゃあ、ないな! 海側、全部だ!!」


 海側、真後ろの――全部!?

 僕はハガネを振り向かせて、佐介の言う警戒対象を探す。

 だけど、何もあるようには――。


「目を凝らせ。ある距離から海全体に変な虹色がかかってる!」


 佐介がそう言うと、ハガネの主砲が前方に照準を合わせて、アイアン・チェインを放った。

 それは沖の方へと飛んでいって――。


 ――空中の“何か”に衝突して、はじき返された。


 それでやっと、僕にも佐介の言っていた距離が分かった。

 薄い虹色の領域が、そこに広がっていた。


「――何かの、壁!? 見えにくいけれど……」


「あそこだけじゃあない。上下左右全部、多分海中にも広がってる。それにアレは多分、船をぶったぎった奴だ」


 そこまで言われると、僕にも嫌な予想が生まれる。


「これ、島の外の全体が虹色になってるっていうよりは――」


「多分そうだな。オレたちが虹色の中――バリアの中に閉じ込められちまってるんだ!」


 佐介は結論を叫ぶと同時に、ハガネ主砲からアイアン・カッターを連射した。

 本人曰く、ハガネで可能な限りの切断力を持たせた攻撃。

 その円盤カッターの群れは虹色の壁に切りかかって、けれども壁を突破することもなく弾かれ、まるで傷が付いた様子すらない。


「――間違いなく巨人、だな。それもスピナーでも効くか怪しいレベルに頑丈な奴……!」


 攻撃を終えて、その手応えからの佐介の分析。

 状況から僕も判断して、結論に辿り着く。


「こんな都合のいい巨人……ギガントか。この島が丸ごと罠だったのか……!」


「だろーな。――とりあえずみんなと合流しよう。この事は……すぐバレるだろうし言っちまったほうがいいな」


 孤立無援に巨人襲来という事態を切り抜けて、もっととんでもない事態の中にいることが分かって。

 僕は、暗澹とした気持ちでみんなの待つ港へとハガネを向かわせる。


 そこでは、最後の問題が待っていた。

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