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第二十三話「急転直下! 策謀の島」1/4

 =多々良 央介のお話=


 どうして、こうなってしまったんだろう。


 僕――ハガネは、船首部分だけ残った船を抱えて無人の港に立ち尽くしていた。

 甲板の上には、6年A組のクラスメイト全員。

 傍で、むーちゃんのアゲハが周囲の警戒をしてくれている。


 今、僕たちが居るのはオキナワ近く、昔に放棄された無人島。

 船は大破して、大人たちは遠ざけられ、僕たちは孤立してしまった。


「おい! 多々良ぁ!! そこに居るんだろ、何とか答えろよっ!!」


 甲板の上に立っている長尻尾の狭山さんが大声を上げる。

 もう、僕たちのことを隠し通すことは無理だろう。


 狭山さん――彼女のひいお祖母さんの九式一尉が来たことで、僕たち巨人隊を取り巻く環境が変わってしまった。

 それが決定的となったのは、今から2週間前だ。




《他愛もなし……。ギガントばらの強化融合機が居ぬならば、この程度か》


 通信回線を通して、僕たちのいる待機室に九式一尉の声が響く。

 画面の向こうには、光の粒子になって降り注ぐ巨人の破片と、その中に立つ九式一尉。

 そして指揮下で戦闘が終わっても攻撃のフォーメーションを崩さないEEアグレッサー隊。


 彼らが倒した巨人は、魔女妃を含めてもう3体目。


「また出番無かったー!」


 むーちゃんが歓声とも嘆声とも分からない声をあげ、椅子の上で伸びをする。

 “また”という言葉の通り、前回と今回、僕たち巨人隊は準備状態のままで終わってしまった。


 考えてみれば、まずこの間の模擬戦をした米軍対巨人部隊が強かった。

 そして、それよりさらに長年戦い続けている不死身のEエンハンサー部隊ともなれば、手段さえあれば巨人を倒すことは難しくはないのだろう。

 ――そのための装備を、父さんが作ったのだから。


 だから、僕たち子供の、夢幻巨人の力はなくてもいい。

 それはそれで正しいのだと思うけれど……。




 そこから更に数日後。

 大神一佐と父さん、母さんから、僕たち巨人隊にむけて連絡が来た。


「見ての通り、ようやく軍の力だけで巨人相手に勝てるようになった。少なくとも十二分に時間を稼げる。央介君、夢君が駆け付ける間程度には」


「そう、だから央介、夢ちゃん。気兼ねなく修学旅行に行っておいで」


 驚きの話だった。

 無理だと思っていた修学旅行に行ってきていいというのだ。

 ただ、全く巨人隊が不要というわけではなく、何か大きな事態があったら航空自衛軍の超音速輸送機に乗って戻ってくる羽目になる、という話だったけれど。


 それでも、僕たちはオキナワへの修学旅行に行くことにした。


 出発の朝、父さん母さんは笑顔とお揃いのブイサインで送り出してくれた。

 二人の笑顔を見たのはいつ以来だったろう?




「修学旅行……。一度行ったし、今は無理だと思ってたのに」


 ナゴヤ発、オキナワ行きの旅客機の席順は、教室の席順と似たような並びだった。

 隣の紅利さんは機内食を食べながら頷いて、話を聞いてくれている。


「五年生の時にキョウトへ行ったんだ。古い町並みも珍しかったけど、山とか樹木が多いのが不思議だなって」


「今は毎日山の中だもんね。山とか田んぼとか、大分見慣れてきた!」


 そう返して来たむーちゃんも神奈津川市に来てから二ヶ月ほど。

 海育ちの僕らは未だに朝、目が覚めて窓の外を見るとそびえる山というのには、まだ奇妙な感覚を覚えることがある。


「こっちは逆に山育ちで、海のオキナワが旅行先。ふふ、ぴったり逆だね」


 紅利さんは笑顔で答えてくれた。

 これから楽しい修学旅行になる、みんなそう思っていた。


 オキナワ到着は午後。

 ナハ空港に降り立って、久しぶりの南国の海の風が気持ちよかった。

 クラスのみんなにとっては変な臭いだとか暑い、蒸すだとか色々意見があったみたいだけど。


 そこからガイドさんに連れられて、昔の第三次大戦の傷痕であるグラウンド・ゼロ・トライアングルと、その慰霊公園で戦時中のお話。

 すぐ傍に広がる巨大な自衛軍基地で発着する戦闘機の爆音は、要塞都市の子供たちからしても驚くほど。


 ガイドさんは、オキナワの人たちは今も、今すぐにも大陸側の国が再侵攻をかけてくる、そういう気構えで暮らしていると自慢そうに語った。

 そんな危険な国は今の東アジアには無いと思うのだけれど。

 ――いや、僕らはギガントに日々襲われていたんだから、何かはあるかもしれないかな。


 そのあと、まだ日も高いうちにホテルにチェックイン。

 みんなで賑やかに大部屋での時間は、僕と佐介は少し離れて過ごして。


 ホテルの夕食の、南国海鮮&果物料理は僕とむーちゃんには親しみ深いものだった。

 緯度が近いから、かな?


 明けて、朝。


 僕たちは、ツアー会社が急遽サービスで組んでくれた無人島クルーズに行くことになった。

 元々は人が住んでいた島だけど戦争で住人が減り、今では定住する人が居なくなって大自然に戻りつつある島。

 その海と砂浜を独占できる、というのだ。


 シャチ獣人船長さんの操る大型クルーザー、何人かの子が慣れない船に酔い、カナヅチの女の子が海上に大いに震え、みんなでワイワイ大騒ぎを僕は少し離れて見守る。

 そして、船が無人島の港へ接舷して、まずは島をバックにクラス全員の記念撮影。


 そのための、甲板先端にクラスで集合。

 大きなトランクを引きずったむーちゃんが遅れてやってきて。

 なんでわざわざそんな荷物を持ってきたのか、周囲の子が首を傾げて。


 ――でも僕は知っている。

 むーちゃんは、姿は写らなくてもパートナーの彼女と一緒の写真が欲しかったんだ。


 そして先生が学校用の携帯端末を構えて、写真を撮るためにみんなを笑顔にする掛け声。


「さあ! 駆け付けるのも早い、撮るのも早い、天才写真家でーす! 思い出の写真を撮りますからねー! 粉砂糖・チーズ・サンドイッチ!」


 僕は戦いを忘れて、子供っぽくブイサインをレンズに向ける。

 シャッター音が響いて、その時だった。


 虹色の光が、写真撮影のために並んでいた僕たちと、先生との間を切り分けていった。

 光は、そのままクルーザーを切り裂き、船体後方に大人達を乗せたまま海の向こうへと跳ね飛ばした。

 切り取られた船の先端部は当然に、埠頭近くでバランスを崩して急激に傾く。


 ――海。

 船の構造体ごと転覆したら、巻き込まれて助からない子が出る。


 クラスのみんなが悲鳴を上げる。

 例外は、むーちゃんと佐介と僕。

 助けてくれる大人は、傍に居ない。


 僕は、決断するしかなかった。


「――Dream drive! ハガネ!」


「Dream drive! アゲハ!」


 瞬間に形成した巨人のハガネで海に飛び込んで、船の先端を支えて立ち泳ぎ。

 反対側を支えるのはアゲハ、そのまま甲板の角度をなるべく安定させて、港の船揚げ場まで運ぶ。


「ハガネ!? 何でこんな所に……!!」


「助かっ……うわわわっ! 揺れる揺れる!!」


 泳いで運ぶ途中、甲板が傾く度にみんなが怖がった。

 車椅子の紅利さんは、佐介が守ってくれているから、そこだけは安心。

 けれど、クラスの何人かが気付きだす。


「多々良は!? 弟の方だよ!」


「黒野さんも居ない!」


 甲板上でウサギネコ獣人の奈良くんが僕を、ハガネを指差す。

 きっと、彼の鋭い感覚は何もかもを見逃さなかったんだ。


「あの……さ、アレだよ。多々良が光って、そっから……ハガネが生えた」




 どうして、こうなってしまったんだろう。

 繰り返し、頭の中で誰にともなく問う。

 それはもう愚痴といった方が正しいのかもしれないけれど。


 今のところ、周囲に敵の気配はない。

 僕は、むーちゃんに繋げた携帯端末に小さく呟いて、指示を出す。


 甲板上のクラスメイトからは、ハガネの咄嗟の救助に対する感謝の声も聞こえる。

 ハガネが舳先を支えて甲板を水平に保ちながら、翅のないアゲハが踏み台になり、みんなを安全な地面に降ろしていく。


 人数を数える。問題ない。

 怪我人も出ていないと、あきらからテレパシーがくる。

 けれど――。


「多々良ぁ! お前、嘘ついてたんだ! あたしに!!」


 甲板の上で立ち尽くしてハガネを見上げて叫ぶ長尻尾の狭山さん。

 他にも何人かが向ける目。

 それは決して好意や感謝の表情だけではなく、怒りを混ぜた困惑の睨みが混ざっていた。

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