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第二十二話「魔法“巨”少女クマクマ ☆彡 ナリヤ」5/5

 =多々良 央介のお話=


《巨人隊、対象の危険度に再考が必要だ。一度、距離をとりたまえ。相手が熊の特性を持つとなれば戦術を変えなければならない》


 大神一佐の命令が携帯端末から聞こえる。

 ――熊の特性。


「熊で、戦術を変えるって、どういうことなんですか!?」


 僕たちは、国道上でアゲハ化ハガネとアゲハを後退させながら、魔女妃と距離をとる。

 相手は時折突進を仕掛けてくるので、余裕はあまりない。


《熊という生き物は、高揚状態だと痛覚を麻痺させるのが上手い。そして頭蓋や骨格に分厚い肉は銃弾をはじくほどに頑強。打撃は全く通らないと思った方がいい!》


 痛覚を、麻痺。

 ええと、痛さを感じなくなるってことかな。

 そうなると?


《本来なら肉体へのダメージは残留するのだが、相手が巨人となるとそれも作用するか怪しいものだ》


「実質ダメージ無効ってこと?」


 映像の向こうの大神一佐が頷く。

 殴っても無駄。半端な攻撃も無駄。

 そうなると――。


「じゃあ、この間大神一佐が教えてくれた関節技で……?」


《それもやめた方がいいな。巨人というのもあるが、熊獣人ともなればフィジカルは人と熊の相乗。関節を極めようにも骨格力と筋力双方でぶち壊してくる……》


 大神一佐の苦しげな表情。

 ひょっとしたら、大神一佐は過去に熊獣人と戦って、そして苦戦したことでもあるのかもしれない。

 じゃあ、その経験と警告をきちんと参考にしないと。


 その上で一佐から更なる指示。


《うむ……。相手の能力と状況を見よう。魔女妃は今までの挙動を見る限り、膂力では野生王より上だが、俊敏性では下。そして打撃が通らなくとも、切断や刺突による縫い留めは有効となる》


「刺突って、アゲハのキッスとか?」


「手持ちドリルね、準備する」


 先ほどからバタフライキッスで牽制していたアゲハは、ドリル飛び出る二丁拳銃を構えなおす。

 続いて、アゲハハガネの両手元にも同じ物が用意された。

 これは佐介が頑張ってコピーしたか、もしくは今のドレス化現象の中だとそれしか出ないのか。


 外から見れば完全にお揃いになった巨人。

 見た目だけなら巨人の女の子二人と、巨人の女の子一人の戦い。


「これで相手の手足をぶっ刺して動きを止める、か。物騒だなあ」


「ナーリャちゃんごめんねー。ちくっとするからねー」


 こちらが態勢を変えたにもかかわらず猛進してくる魔女妃。

 武器を構えたハガネとアゲハで立ち向かう。


 今の狙いはアゲハ。

 相手の大振りの腕撃が一撃、二撃と襲い掛かった。

 むーちゃんはそれを冷静に見ながら、後退り。


「飛びつきは、あんまりしてこない!」


《熊は肉食獣の中でもトップヘビーな体格だ。下半身を使った飛び掛かりはそこまで伸びない。油断はするべきではないが》


「じゃあ距離を測るのは楽だね!」


 ハガネをアゲハと並列させて、魔女妃と均等に距離を保ち続ける。

 理屈が分かってくると、攻撃を見切るのは簡単だった。


 相手の攻撃は、左右の薙ぎ払いと叩きつけ、そして両腕を使った圧し掛かりだけ。

 そして一発一発は重いけれど、必ず足を止めて放ってくる。

 フェイントもしてくるわけではない、となれば――。


「ここっ!!」


 魔女妃が右手で大きく振りかぶった袈裟懸けの一撃を放ってくる瞬間、僕はその行く手にバタフライキッスの先端を置いた。

 次の瞬間、最大の破壊力を持つ相手の一撃は、自身の力で杭に深く突き刺さった。

 僕は僕で、そのまま潰されてしまわないように、ハガネの全力で堪える。


 幸い、相手の掌がドリル槍に深く突き刺さったことで、攻撃の速度も威力も減衰されて、それ以上の負荷はかからなかった。

 対する魔女妃は、自分の身に何が起きたか把握するのに少し手間取ったようだった。


 我に返った魔女妃は自分の掌に杭が刺さっている事に気付いて、それを振り抜こうとする。

 でも、させない。

 ハガネを奥へ踏み込ませて、相手を押し倒しにかかる。


 魔女妃は、復讐の意を込めて残る左腕で反撃を狙ってきた。

 けれどそれを受け止めたのはアゲハのバタフライキッスによる突き刺し。


 アゲハハガネとアゲハは完全に左右対称になって、魔女妃の刺し貫いた両腕を吊る形で押し込んでいく。

 そのまま国道横の土手に押し付け、地面ごと突き刺して縫い付ける。

 ここから! ――えーと。


「おーちゃん、代わる!」


 むーちゃんのアゲハが右側に割って入り、新たなバタフライキッスの槍で魔女妃の右腕を貫く。


「央介さん、アゲハ単独による魔女妃の長時間拘束は不可能。即刻の対処を!」


 幼馴染とその補佐体のアシスト。

 相手を留め置ける時間が尽きる前にハガネは一度飛び退いてから、高く跳ぶ。

 狙うは相手の頭へ、必殺の一撃。


「アイアン・スピナー、ちゃんと出ろぉっ!!」


 瞬間で形成させた鋼鉄の螺旋。

 それには少し花弁が付いていたような気がしたが、勢い任せで相手を貫く。


「これで……っ!?」


 上方から狙って、道路法面の上に跳ねる逆放物線のスピナー。

 慣性でまくれ上がりそうなスカートを押さえて後方への残心に移る。


 その瞬間、アゲハが吹き飛ばされて宙を舞うのが目に飛び込んできた。


「きゃあーっ!!」


「むーちゃん!?」


 それを行った魔女妃の頭部には、スピナーの貫通痕。

 相手は、顔に風穴を開けたままで反撃を行ったらしい。


「スピナーが、まともに当たってるのに!?」


《……あ! そうか、これも痛覚麻痺だ!》


 通信に、父さんの叫びじみた声。


「ど、どういうこと!?」


《スピナーは強力なダメージを巨人中枢に与えて、そのダメージへの退避反射を利用して巨人の出現を不能にするものだ。熊が短期間的なダメージを無視するなら、瞬間最大威力のスピナーはむしろ分が悪い!》


「え、えーとっ!!」


 ――よくわからないけど、こいつにはスピナーまでもが効かない。

 それを知らずに勝負を焦ってしまった。

 その結果、余計な被害が――。


「むーちゃん、大丈夫!?」


「いったーい! ……でも、大丈夫! 投げ飛ばされただけ!」


 魔女妃から離れた場所に吹き飛んだアゲハは、手を振って無事をアピールしてきた。

 胸を撫で下ろしながら、敵の様子をきちんと確認する。


 魔女妃の左手にはアゲハが突き刺しっぱなしにしていったドリル杭。

 右腕に刺さっていた一本が無くなっているのを見るに、そちら側を振り解いてアゲハごと投げ抜いたのだろう。

 無理に必殺技を狙ったのがまずかったなら、瞬間的な威力が駄目なら。


「むーちゃん! もう一度、相手の両手を縫う! 動きが止まった瞬間に、今度は急所になりそうなところを切断する!」


「りょーかい! でも、えっぐい!」


 ハガネをアゲハ傍に駆け寄らせ、魔女妃の動きを警戒する。

 相手も幾度か攻撃を受けて、慎重に、そして猛々しさを増したようだった。


《手負いの獣は危険だ! 今までの想定を一度頭から捨てて――。……なに、もう来ている?》


 大神一佐からの通信は、途中で何か話が逸れた。

 だけど僕たちにはそれを聞いている余裕はなかった。

 迫る、魔女妃の突進。


 圧しかかるように振り上げた両腕、狙いはさっきと同じ。

 相手の掌を、ハガネとアゲハのバタフライキッスで突き刺して受け止めて。


 けれど、そこにかかる重圧は先ほどの比ではなかった。

 二体の夢幻巨人を丸ごと押し潰しかかる魔女妃の暴力。

 相手を刺し貫く頼りのドリル槍には折れそうなほどの力がかかって。


「なんっつー馬鹿力……!」


「ダメ! もう一本刺すなんて、とても無理!」


 狂暴さを増した魔女妃の力は、ハガネとアゲハ二体がかりでもまだ抑えきれない。

 相手の武器の両腕を縫い留めている以上は、相手も何もできない。

 でもそれは、僕たちが消耗しきるまでの話。


「潰され、る……!」


 何か、何か手はないか。

 魔法少女に助けてもらおう、なんて考えるな。

 自分自身で出来ることを、最期の最後まで――!


《そのまま刺し留めておけ。子等よ》


 通信回線から聞き慣れない声が響いた。

 同時に、ハガネとアゲハ、魔女妃の間の空中に飛び込んできたのは一台の装甲バイク。


「え!?」


 バイクに跨っていた人物は、光る武器を抜き放った。

 一瞬遅れて、それが父さんの作ったDロッドだと理解する。


 飛んできたバイクは魔女妃の胴体に衝突し、派手に壊れて部品をまき散らした。

 一方でその乗り手だった人物も同じ勢いで相手に向かい、そして輝くDロッドで魔女妃の胸を刺し貫いた。

 ――この人、巨人と戦いにきている!?


「熊殺しのマタギの術を知っているか、子等!」


 高いけど、たけだけしい声。

 小さな生身一つで巨人に立ち向かう戦士は、僕たちに呼びかけてきた。


「熊を仕留めるならば、彼奴が死を自覚するまで心臓を裂き、殺し続ける!」


 その人の声は、不敵な笑いを含んでいた。

 絶対に負けないという確信を持っているかのように。


「この時、熊が暴れようとも、体が削られても、怯んではならぬ! 自由になった熊の(かいな)が仲間を殺す!」


 ついに痛みを感じはじめたのか、魔女妃の赤い目が異様な輝きを放った。

 同時にその顔全体が大きく上下に裂けて、大顎に変じる。

 こいつはまだ、攻撃を狙っている!


 相手の狙いは、少し力で劣るアゲハ。

 そこへ、一喝が響く。


「下がれ! 娘の方!」


 魔女妃は、自身の首を千切るような無理な捻じ込みで噛みつき、アゲハの顔を食い千切ろうと狙う。

 けれど謎の戦士さんから先に出ていた指示によって、アゲハは飛び退いていた。


 しかし、それで魔女妃の片腕が自由になってしまった。

 その腕は空中に弧を描き、胸を刺し貫いていた戦士を簡単に叩き潰した。


 血肉が、飛び散る。


「う、あっ――!!」


 僕は、叫ぶしかできなかった。


 助けに来てくれた誰かが。

 僕たちの力不足のせいで――。


「……獣の死に狂いか。確かに並みの兵では防げぬ。だが――!」


 声だけが響いた。

 同時に、魔女妃の胸元に突き刺さっていたDロッドに赤黒い渦が絡み付く。

 次の瞬間、渦は一か所で結晶し、人の姿に変わった。


 ――再生!?


 ああ、そうか。

 この戦士さんは自分を投げ捨てるような無茶をしたんじゃない。

 自身の体は吹き飛んだ程度ではダメージにならないと知っていての攻撃だったんだ。


 でも、そんなことができるのって――。


 僕は、魔女妃にトドメを刺し続けるその“Eエンハンサー”を確認しようとした。

 だけど、再生の加減なのか、その人が裸になっていると気付いて、それも長い髪の女の人だとわかって慌てて目を逸らす。


 でも、その前に目に入った物があった。

 長い尻尾。

 それには見覚えがあった。


 気付けば、生身の戦士が更に数人。

 それぞれに魔女妃の両脚、そしてアゲハが離れた右腕をDロッドで縫い留め吊り上げ、相手の身動きを封じていた。


 その一人は、見覚えのある狭山一尉。


 あれ――?

 そうなると戦場に、長尻尾が二つ?


「皇国がE兵器は死を知らぬ! 刻限切れだ、熊の仔よ!」


 目を逸らしているので見えないけれど、裸のEエンハンサーの戦士さんが勝利を宣言する。

 同時に、ハガネの目の前で魔女妃の全身に光の皹が広がり、そして砕け散っていった。

 ついでに僕の体を包んでいたドレスも。


 ちらっと見えてしまった裸の戦士さんは、地面に降り立っていた。

 戦士さんは光り輝くDロッドを流しに構え、残る敵が周囲に居ないか警戒していたみたいだった。




 何が起こったのかもよくわからない内に、普段の服に戻って、地下基地に戻って。

 謎の戦士さんの正体はわからないまま。


 しばらくすると、少し挙動不審な狭山一尉が僕たちを呼びに来た。

 僕たちも同席したほうが良い、という。

 僕、むーちゃん、佐介、テフの4人で言われるままについていく。


 到着したのは簡素な広間。

 父さんと、大神一佐。他にも軍の人たち。


 広間の片側には狭山一尉と、そこから整列したちょっと獣人入りの隊員さん二人。

 ああ、この人達が狭山一尉以外のEエンハンサーなのかな。

 それにしても三人とも、気を付けの姿勢が過剰なぐらいで酷く緊張しているように見える。


 その中には、さっきの戦士さんは居ない。

 どういうことなのか戸惑って広間を見渡すうちに、大扉が開いた。


 靴音を響かせながら入ってきたのは、真っ黒い軍服を着込んだ9人の隊員さん達。

 先頭は長い髪の、あの戦士さん。

 よかった、ちゃんと服着てる。でもサングラスも付けていて表情はよくわからないかな。


 でも、こうやって落ち着いて見ると凄く小柄で、年齢は女の子といってもいいのではないだろうか。

 それと髪形もあって、日本人形に軍制服を着せたみたいな――日本人形には尻尾は生えてないかもしれないけれど。


 隊員さん達は、大神一佐の前に一直線に揃って並び、命令もないのに同時に姿勢を正した、

 そして、端に居た長尻尾の戦士さんが一歩踏み出して堅く敬礼。


「陸上自衛軍EE(ダブルE)アグレッサー、九式(くしき)アルエ最先任一尉、以下9名、着任いたしました。以降、当都市での対巨人訓練、及びギガント敵性巨人への対処任務にあたります」


 アグレッサー。

 前の米軍との訓練の時に出てきた謎単語。

 調べてみたら、攻撃する部隊とかそういう意味で、軍隊訓練の時に敵役をする、すごく強い部隊のことだという。


 ダブルEというのは多分、Eエンハンサーのことだから、Eエンハンサー相手に手ごわい相手をする部隊。

 ……あれ、この人たちって物凄く強いことにならない?


 でも、“くしきあるえさいせんにんいちい”というのはどういう意味なんだろう……。

 一尉は、狭山一尉と同じ? じゃあ、くしきあるえさいせんにんが名前?

 いや違うかな、くしきあるえが名前として……さいせんにんって何だろう、名前? 役職? 再千人? 歳仙人?


「EEアグレッサーの着任を認める。また、仮着任状態での緊急出動、そして事態対応に感謝する」


 大神一佐の重々しい言葉。

 それに返されるアグレッサー隊員さん達の一斉の敬礼。

 ちょっと、圧倒される。


 九式――隊長は何か電子書類のタブレットを取り出して、大神一佐に手渡し、一佐はそれにサインを書き込む。

 九式隊長は敬礼を返して、元の位置に戻った。


「では、関係者同士の自己紹介を。ただ九式一尉は、当方の狭山とご縁があると聞きましたが……」


 大神一佐は何か言葉を選んでの対応をしていた。

 でも、九式一尉。一尉は一佐より下の階級なのに?

 それと、同じ尻尾の狭山一尉と、ご縁。


「は。この狭山瑠美は、我が不肖の孫にあたります」


 ――えーと。

 ふしょーの……孫!?


 周囲にどよめきが広がる。

 僕も佐介もむーちゃんも、テフまでもが狭山一尉と九式一尉を交互に見て。

 体格差からすればむしろ狭山一尉の妹、下手すれば娘まである九式一尉にまた目が向く。


 その中で進み出る、狭山一尉。

 祖母、らしい九式一尉の前で敬礼をして。


「我が身に宿る力の祖である九式一尉。拝謁は恐悦です! 今後、ご教授、ご鞭撻のほど、畏みお願いいたします!」


 狭山一尉の何かとても難しい言い回し。

 多分、意味としてはよろしくお願いしますとかそういうのだと思うのだけど。


「うむ」


 対して九式一尉は一言だけ頷いて、片手を差し出す。

 握手、みんながそう思った。

 狭山一尉は少し固まり気味のまま、その手を握り返して。


 次の瞬間、轟音が広間に響いた。


 狭山一尉は、さっきまでいた場所から忽然と姿を消していた。

 代わりに上から降り落ちる破片。

 みんなが恐る恐る轟音の元を見れば、天井に大の字になってめり込んだ狭山一尉。


「常在戦場。軍人たるもの身内相手と言えど気を抜くな。以後の訓とせよ」


「……ふぁい」


 九式一尉は手を払いながら、天井で答える孫の方を見るでもなく告げた。

 そのまま唖然としている大神一佐に向かって、端末を差し出す。


「修理費は此から。娘なら返しの技ぐらい狙うのですが、孫は鍛えが足りないようで」


 ……この人、こわい。

 そして次に、九式一尉はよりにもよって僕たちの方に歩いてくる。


 僕はなんとかむーちゃんの前に立って、佐介が僕の前に割って入って。

 せめて投げ飛ばされるなら僕たち男子だけで。

 そう覚悟しても、体が震える。


 そんな僕たちに九式一尉はサングラス越しに視線を合わせ、語り掛けてきた。

 サングラスの奥に輝く、真っ赤な瞳は優しく薄められている。


雄の子(おのこ)がこの程度で怯えるな。それに軍人ではない君にすることではない。君らは巻き込まれただけの子供なのだからな」


 投げられる、わけではないらしい。

 でも、気を抜くなとさっきこの人は言っていた。

 僕は巻き込まれただけという話に少し引っ掛かるものがあっても、声も出せずにお辞儀だけ返す。少し遅れて、佐介も。


「うむ。例があったとはいえ十分な警戒。油断なく時間差を持っての礼。戦士として佳い動きだ」


 九式一尉は、僕たちの頭を撫でていく。

 その最中もこのまま押し潰されるのではという恐怖は消えない。


「子らよ、此れよりこの都市は我々が護る。実践訓練も兼ねて。なんなれば、君も休暇をとるといい。戦士には休息も必要だ」


 初めて微笑みを見せた九式一尉は、そう僕たちに告げた。

 一尉が軍刀と一緒に腰に帯びているのは、父さんが作ったDロッド。


 そっか、この人達も巨人と戦える人なんだ。

 そして――巨人に勝てる人達。


 ――この先の僕たち、巨人隊はどうなるんだろう?


 See you next episode!!

 要塞都市からはるか南の無人島。

 物語はそこで大きな転換点を迎える。

 しかし央介、そして少年少女たちは緊急事態から脱出することができるのだろうか?

 次回『急転直下! 策謀の島』

 君達も夢を信じて!Dream Drive!!


 ##機密ファイル##

『実在する都市伝説・魔法少女レポート 蘭華書房 月刊ネオ・アトランティスより』

 諸君は、都市のビル間を縫って飛ぶ魔女を見たことがあるだろうか。

 ――実はこれを見たという者は多い。


 もちろんそれらは鳥や鳥獣人、ドローン、ただのいたずらなど実体ある飛行物体の誤認という事例が大半。

 しかし検証を重ねていくと、大勢が目撃したにもかかわらず、機械映像には何も映っていないという不自然な目撃例があるのだ。

 それらにおける共通項は、年若い少女が飛んでいたという部分。

 これこそが都市伝説として有名な“魔法少女”だ。


 これはフィクションではよく持ち上げられる題材となっている。

 メディアを見れば、そういうものを題材にした作品がいくらでも流れている。

 それこそ百年以上も前から定番のコンテンツとなっているものだ。

 しかしこれに関して、都市伝説の魔法少女が先か、それともフィクションが先かは結論は出ない。

 どちらかがどちらかを模倣した、という考え方もできるからだ。


 さて、まず魔法少女というのは一人ではなく多数、そして各地に存在するものと思われる。

 何故ならば大都市や要塞都市、あるいはパワースポットがあるとされる地域でそれぞれに目撃されているからだ。

 そして目撃者が印象として彼女らの装いの色を上げるが、同じ都市では同じ色のものが目撃され、別の都市となれば別の色となる。

 それは彼女らが各個に独自の形態を持つ、とすれば説得力のある話となる。


 また同じ地域では魔法少女に限らず怪異の報告もあがる。

 そしてそういうものが現れた、襲われたという話の中には、魔法少女がそれらと一緒に居たという証言もあるのだ。

 これらは魔法少女自身が怪異と誤認されたものか、あるいは怪異の内には彼女らによって引き起こされたものがあるのかもしれない。


 時に、魔法少女に助けられたという証言がある。

 しかし、その記憶は酷く曖昧な事が多く、最初の連絡段階でははっきりそうだと答えていた人物がただの誤解だったと答えを変えていく。

 稀な事例だが魔法少女との遭遇を日記に書き留めていた人物が、その日記を該当部のみ損壊してしまったという事例もある。

 まるで彼女ら関わる記憶や記録が失われる方向へ操作されてでもいるかのように追跡が困難。

 これが魔法少女が都市伝説にとどまる原因と言えるだろう。

 だが、真に誤解や虚報であれば同時期に大勢が目撃した、という情報とは食い違ってしまうことも確かなのだ。


 ある程度共通する要素としては、魔法少女の活動期間には活動期と空白期が発生しがちということ。

 親から子へと、先輩から後輩へと代継ぎが行われているのではとも雑談には上がるが、魔法少女の生態、あるいは社会が一切不明のため未だ推論の域を出ない。


 ただ一つ言えるのは、彼女らは都市伝説と言われる中でも実在に極めて近い存在ということだ。

 我々は、今後も魔法少女についての検証を重ね、それらの正体に迫ろうと思う。

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