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第二十二話「魔法“巨”少女クマクマ ☆彡 ナリヤ」4/5

 =多々良 央介のお話=


 なんとか異変と問題を切り抜けられた僕たちは、異変の影響で豪奢なドレス姿にされた兵隊さんに拾ってもらえた。

 遠い目になった彼の運転する車で敵巨人所在地近くの兵器搬出エレベーターまで送ってもらい、現場にいたテフと合流。

 後はいつも通りに出撃の準備。


《巨人隊に連絡、狭山一尉は現在要人を迎える別任務に出ています。援護の不足に気を付けてください》


 オペレーターさんもドレス姿にされているらしく、首元にレース飾り。

 これは父さんや大神一佐も被害にあっていると考えるべきかな。

 ……うん、多少気構えておかないと笑ってしまうかもしれない。


「了解、ハガネを出します」


「アゲハ、続きます!」


 エレベーターの中でむーちゃんと距離を取ってから、僕はDドライブを胸元から取り出し構える。

 むーちゃんも同じように続く。

 ドレス姿なのはちょっと格好悪いけれど、いつも通りにやる。


「Dream Drive! ハガネ!」


「Dream Drive! アゲハ!」


 僕たち二人は光に包まれて、巨人を構築していく。

 やってみた限り、ハガネを出すこと自体には問題はなかった。

 視界に映るハガネの手は――あれ、こんなデザインだったっけ?


「……おーちゃん。とんでもないことになってるよ!」


「オレ、これに融合できっかなー……。まあ、やるだけやるさ」


「え?」


 何がどうとんでもないのか確認する前に、エレベーターは地上に達した。

 陽光がシャッターから差し込んできて、僕たちの巨人を照らす。

 戸惑いの唸りを漏らしたのは、大神一佐の声。


《なん……だと……!?》


 異変が起こっているのはわかってる。

 何が、どうなったかが問題。

 外部カメラの映像を、手元の携帯端末で確認する。


「ひでえ」


 真っ先に佐介がぼやく。


「ひどいとはひどいなー」


 むーちゃんが佐介の感想に憤慨する。

 その理由は――。


「ハガネ、外見が変異。特徴が当機アゲハに98%合致。敵性巨人による特異現象と推定」


 テフが、ハガネが陥っている状態を説明してくれた。

 ハガネとアゲハが出撃するはずが、アゲハとアゲハでの出撃になってしまったのだ。


「……ハガネまで着せ替えられてる!」


「だいたい予想してたさ。あーあー」


 僕の叫びと、佐介の呻き。

 で……でも夢幻巨人にはなっているはず。

 アゲハハガネを少し動かし、動作に問題がないことを確認する。


「攻撃能力は!?」


「やってみてるが……なんか捻じ曲げられてる感じ。何が出るかわかんねえ」


 なるべくなら実験してから動きたかったけれど、相手の巨人は既にこちらを捉えていた。

 テディベアドレスの魔法少女巨人は、楽し気にスキップしながら近づいてくる。


《対象の形状から、戦闘コードを発行します。現対象のコードは“魔女妃”》


「攻撃誘導されてる、と考えるべきだよね」


「可愛らしい動き通りの攻撃力ならいいんだけどな」


 佐介と喋りながら、周囲を警戒する。

 いつ、プリンセスのアトラスが飛んできて合体するかわからない。

 先んじて動いたのは、むーちゃんのアゲハ。


「相手が普通の巨人なら! バタフライ・シャインで、どーん!」


 ハガネの後方でアゲハは、いつも通りに磁力破壊装置を構える。

 その銃口から照準光が伸び、見えない破壊の力が相手に向かって放たれる。

 ――はずだった。


 泡が弾けるような、可愛らしい音が響く。


 射線から離れていたハガネの中から、僕は見た。

 アゲハのMRBSから色鮮やかな何かが飛び出すのを。


「お、お花咲いたぁ!?」


 MRBSの銃身から噴き出たカラフルなそれは、緑の茎枝から咲く色とりどりの花。

 ――何が起こってるの!?


《アゲハのMRBS、機能していません! 電力が……途中でどこかに抜けてます!》


《武装ビルの砲撃機構においても類似の現象が発生! 支援の照準を行っていたリニアランチャーに植物様の巨人構造体がとりついています、発射不能!》


《兵器類を拒絶しているのか!? ……すまない巨人隊。支援は少し手間取るようだ!》


 艶やかな和服を着た大神一佐の生真面目な連絡。

 巨人の起こす怪現象だけど、こうなると笑えない。


「とーさまの作った磁力共鳴粉砕機……。いいもん! アゲハは格闘戦だって!」


「アゲハ、戦闘力は通常時の32%にまで低下。当機テフの格闘支援により53%まで改善可能。央介さん、支援を願います」


「当然ッ!」


 僕はアゲハからの射線上にアゲハ化ハガネを戻し、魔女妃を待ち受ける。

 途中、アゲハハガネが背負っている翅が左側だけ動いて魔女妃を狙う。

 それが佐介の行動だとはわかったけど、現状だとどうなる!?


「出ろぉっ!!」


 翅の先端から飛び出したのは、金属製の蝶と、それが引きずる細い糸。

 これは、バタフライシルク!?


「くっそ! チェインのつもりなのに!」


 佐介が悔しさを口にしながらも、その狙いは狂っていなかった。

 蝶は近づいてくる魔女妃に絡み付き、何重にも繭糸で縛り付ける。

 両腕を胴体に縛り付けられた魔女妃は戸惑ったように動きを止める。


「このまま止まっててくれれば……!」


 むーちゃんの願うような声。

 けれど、魔女妃は少し藻掻いた後に力を籠め始めた。


「ダメだぁ!」


 佐介が叫ぶ。

 同時に魔女妃を拘束していた糸が千切れ飛んだ。


 そして魔女妃が唸り出す。

 何か、嫌なものが背筋を走る。

 魔女妃の目は赤く輝き、先ほどまでとは雰囲気を変えてハガネへと突進してきた。


 そのまま魔女妃は、腕を大きく振りかぶっての一撃。

 僕はハガネの両腕を交差させて、それを受け止める。


 受け止めようと、した。


「ぐっ、ああっ!!?」


 絶叫が口から漏れた。

 激痛が僕の腕に走る。

 外では、腕を振り抜いた魔女妃と、砕け散ったハガネの両腕。


「おーちゃん!?」


「ちっくしょうっ!!!」


 佐介が、そしてアゲハが更にシルク線の弾幕を展開して、ハガネと魔女妃の間に割って入るのが見えた。

 僕は両腕の痛みを堪えながら、両腕を粉砕されたハガネを後方に飛び退かせる。

 魔女妃は絡み付く糸を、そして目の前にいたハガネを狙って更なる一撃を加えてきていた。


《央介君、戦闘継続は可能か!?》


 通信から、大神一佐の声。

 う……。返答、返答しないと。


「――ちょ、ちょっと再生に時間がかかりますけど、大丈夫です! 痛たたた……」


「この見た目で肉弾型かよ! 魔女妃ってネーミング大ハズレじゃねえか!」


「むーが、アゲハが前衛へ交代します!」


 ハガネの前方の視界が遮られる。

 クロークを全開にして前に立ちはだかったアゲハ。

 むーちゃん、無理はしないで――!


「テフ! バタフライ・キッス!」


「了解」


 アゲハの翅に遮られて見えない向こう。

 構えから察すれば、アゲハが始めたのはドリル槍による連続突き。


 幼馴染の奮闘と、下手をすれば返り討ちの危機。

 焦る気持ちと両腕の幻肢痛を堪えて、ハガネの両腕を再生にかかる。

 復元できたのは辛うじて装甲のない骨格だけ。それでも――


「物は、握れるはず! 佐介、武器を! ロッドまで野生王みたいに制限か!?」


「あん時と違ってアイアンロッドは……多分いける! それともまた骨がいいか!!」


 佐介の軽口は、むしろ切羽詰まってる時に出てくる印象がある。

 ロッドも何か問題を抱えているのかもしれない。

 けれど、猛獣である相手にはとにかく得物が欲しい!


 次の瞬間、アゲハハガネの手元に長得物が飛び出す。

 僕はそれを手に取って構える。けれど――。


「なんか魔法のステッキになってるけど!?」


「わー、ハガネがかわいいー」


 むーちゃんは攻撃を継続しながらも、こちらを観察する余裕があるらしい。

 アゲハハガネが構えた鉄棍はいつものシャープな姿ではなく、花だか貝殻だかで可愛らしく装飾されたファンシーな形。

 低く唸りながら、佐介が苦渋の回答。


「多分、強度は……変わらない、はず!」


「なら、やってみるさ!」


「えー、それで殴るのー? ハートの吹雪とか出してほしかったなー」


 幼馴染の無責任な感想を頭から追い出しながら、彼女のアゲハを跳び越える。

 狙いは、バタフライキッスに怯んで止まる魔女妃の頭蓋。

 アゲハハガネを前転させる勢いで、魔法のステッキを思いっきり叩き付けた。


 轟音が響き、間違いなく兜割りの一撃として相手に届いたことを証明する。

 僕は更に打ち据えようとして、けれど危険を感じステッキに力を籠め、相手の頭を圧し除くことで逆に飛び退く。


「やっぱりマジカルステッキじゃ無理!?」


 むーちゃんも同時に後退しながら、攻撃の成否を訪ねてきた。


「いや、手応えはあった。けど……!」


 かなり重く入ったはずの一撃だった。

 けれど、魔女妃は倒れもしない。

 こいつ野生王とは、耐久力が違う!


《PSI波形の解析完了。神奈津川小学校6年A組、熊内ナーリャ。彼女は……ヒグマ獣人です!》


《ヒグマだと!? ……巨人隊、対象の危険度に再考が必要だ。一度、距離をとりたまえ!》


 大神一佐からの緊急命令が、通信を突き抜ける。

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