第二十二話「魔法“巨”少女クマクマ ☆彡 ナリヤ」3.5/5
=どこかだれかのお話=
怪物と戦うべく走り去るドレスの少年らを、物陰から窺う一人の姿があった。
「バレないかな? あの偽物に着せたドレス」
少年の声が問う。
「さーねー。でも友人の巨人を大暴れさせるわけにもいかないし。早くハガネになってもらわないと」
やはり物陰から、少女の声が答える。
けれど、その場には少女一人の姿しかない。
山桜の花咲き赤葉茂る杖を携えた少女、たった一人。
「“邪気払い”サボるからあんな荷物が降ってくるし、ナーリャちゃんからも巨人出ちゃったんだよ?」
少年の声は口うるさく、少女の非を咎める。
対して少女は、腰のぬいぐるみポーチを押さえつけながらの反論。
――まるでそのポーチの中に誰かが居るように。
「いそがしかったんだもん! お仕事以外の事件持ち込んできた多々良クンが悪いんだもん!」
「あーはいはい、もっと忙しくなるよ。真っ黒い呪術の塊がこっちに向かってるからね。余波だけで町中荒れる……」
少女とぬいぐるみポーチの中の何者か。
奇妙な二人は長年の親しみと付き合いからくる憎まれ口と状況報告をぶつけあってから、少女は大げさに肩を落とす。
その様子を察したぬいぐるみポーチはひとりでに飛び上がって、彼女の頭をぬいぐるみの手で撫でて、慰めはじめる。
「やだなー。もう多々良クンたち、別の要塞都市にでも行かないかなー」
少女は疲労にぼやきながら、手にしていた杖を魔法の光に変えて空中に溶かす。
正真正銘の魔法少女が、そこに居た。
「一都市に魔法少女と、超能力エスパー少年に、巨大変身ヒーロー。詰め込み過ぎでしょー……」
「要塞都市はいろんなものを呼び集めちゃうからね。こういうバッティングも起こるさ」
ぬいぐるみポーチは、仕方ないねというような身振りをしてから少女の肩から飛び降り、元の場所に戻る。
「それにしても、ナーリャちゃん美人さんだったね。海外の女子体操選手とかそういう感じ」
「それよりナーリャの巨人が私の真似ってのが辛いんだけど。そんなに依存させちゃってたかなー」
小豆色のジャージを着た少女は気苦労から大きなため息を吐き、とぼとぼとシェルターの広間に帰っていった。