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第二十二話「魔法“巨”少女クマクマ ☆彡 ナリヤ」2/5

 =多々良 央介のお話=

「魔法少女って……」


 熊内さんが語る、彼女の不思議な依存に佐介がツッコミを入れた。

 彼女曰く、魔法少女には何度も助けられたという。

 でもそれは都市伝説で、実在は怪しいものだったはず。


「ナーリャは夢見がちなの。もうそろそろ中学生なんだから卒業なさい」


 あきれた口ぶりで諭すのは、熊内さんとは友達の木下さん。

 こちらはこちらでシビアな言い方すぎるような。


「でも助けてくれたのは本当だもの、感謝しなきゃ」


 木下さんの否定に気を悪くするでもない熊内さんはのんびりと答える。

 少なくとも彼女は、魔法少女の存在を確信している。

 そうなると僕も、興味がわいた。


「魔法少女が助けてくれたって、どういう? 出会ったの?」


 途端に、熊内さんは目を輝かせながら僕の質問に答えだした。


「ええ、桜色のドレスを着てるとってもかわいい女の子だったの! 空飛ぶホウキに乗ってやってきてね!」


 ドレス、女の子、空飛ぶホウキ。

 まさしく魔女、魔法少女のイメージそのまま。

 お話ではよくある――でも僕が聞いたことがあるのは黒いワンピースとか魔法使いのローブとかそういうのだったような。


「大きなオバケ犬に追いかけられた時とか、夕方の学校に閉じ込められちゃった時とか」


 僕の想像中にも熊内さんが話を畳み掛けてくる。

 助けられたと言えば助けられたうちに入るのだろうけれど、どっちも勘違いとかで済む範囲のような。


「あと……恥ずかしいんだけどおトイレで紙が無かったときも助けてくれたの。」


 一気に範囲が小さくなった。

 いくらなんでもそれは。

 僕の疑念を代わりに口に出したのは、佐介。


「それ本当に魔法少女……?」


「本当よ? オバケ犬ってこんなにおおきかったし、学校の扉だって私の力で開かなくなってたんだもの」


 熊内さんの身振り手振りの説明。

 彼女の大きな体で説明されると、オバケ犬とやらは2m以上の大怪物だったらしいし、学校の扉もその剛腕でどうにもならなくなっていたらしい。

 それが誇張なく事実なら、異変……かな?


「おトイレの時もちゃんと彼女だって名乗ってくれたの。……あ、名前はヒミツにしてほしいって言われたんだった。ごめんなさい」


 そして、彼女は熊内さんに名を伝えるまでしていたらしい。

 僕、ハガネは作戦上で所属をはっきりさせるために名乗りはするけれど、それはあくまでも軍側の通信内でのこと。

 夢幻巨人と魔法少女では、随分と立場が違うみたいだ。


 しかしそうなると、ある疑問が出てくる。

 傍にいる佐介とむーちゃんにその疑問を共有するべく、小声で尋ねる。


「……巨人じゃないのかな」


「可能性はあるけどな……」


「むーん……、それっていつ頃の話?」


 むーちゃんは疑問を晴らすために、一歩踏み込んだ質問。

 流石の幼馴染、ナイスアシスト。


「えーとね、3年生とか4年生の時。」


 となると2~3年前。

 父さんたちがDマテリアルの技術を完成させたのは1年前。

 それなら巨人の類とは――


「違う?」


「違うな」


「違ーう」


 どうやら僕ら三人が心配する範囲ではなくなったようだ。

 そんな僕らの秘密談義をよそに、熊内さんは話を続ける。


「みんながピンチの時にはちゃんとやってきてくれるんだから」


 よっぽど魔法少女に信頼を寄せているのだろう熊内さんは、大きく胸を張った。

 そこへ、横で渋い顔をしていた木下さんからの諌言。


「そんな都合のいいお助け魔女が居たら苦労しないし……怪我する子も出ないでしょうに」


 木下さんが一瞬だけ視線を僕らの後方に送るのが見えた。

 確認すれば、机に向かう車椅子の紅利さん。


 ――ああ、そうか。

 助からなかった、大怪我をした女の子。


 木下さんが魔法少女を否定気味な理由が分かった。

 少なくとも“彼女”が居たとしても、万能ではないのだ。


 けれど、熊内さんは木下さんの目くばせに気付かずに自説を続ける。


「最近は、そういう時に先にハガネが出てきちゃうから、とかかも?」


 自分の秘密の方に火の粉が飛んできた。

 うん……まあ、巨人の事件はハガネが出ていくというよりは、僕らがこっちに来たからついてきてしまったからで……。

 そういうピンチの自業自得には、魔法少女は厳しいのかもしれない。


「ハガネが困ってるときにも助けりゃいいのにな。結構苦戦してるように見えるぜ、アレ」


 悩んで凹む僕の代わりに、佐介が冗談めかした受け答え。

 熊内さんは楽しげに頷いて応じた。


「きっと助けに行くと思うわ。妖精を連れて、ホウキに乗って飛んできて――」


 熊内さんによる空飛ぶ魔法少女のジェスチャー。

 ……あれ、ホウキってこう自転車みたいに跨るイメージだったけど、彼女の仕草はまるでサーフボード乗り。

 でも、おそらくそれが彼女が見た魔法少女の姿なのだろう。


 と、それまで陽気にしていた熊子さんの動きが静かになった。

 彼女は自分の両手に目を落としていて、明らかに辛そうなため息を吐く。


「わたしも、ああいうドレスが似合う女の子だったらなあ……」


 それは、とても切実そうな呟きだった。

 熊獣人の、立派な体格に強い力は、多分女の子だとあまり求めないもの。

 そして人からかけ離れた彼女の姿。


 とても解決できない熊内さんの抱えた問題。

 声を掛けづらくしていた僕らの前に、一人が踏み込んで訴える。


「ナーリャ。あなたは心が優しくて可愛いのだから、ドレス着れば十分似合うの!」


 急に肯定の言葉をぶつけていったのは、ジャージ姿の木下さん。

 今まで否定的な意見が多かった彼女の熱意ある姿に、僕は驚いた。


「クマのぬいぐるみにドレス着せたのだってあるでしょ。ああいうのだってちゃんと可愛い」


 木下さんから熊内さんへの、精一杯の励ましの訴え。

 ちょっと熊内さんが求めている要素とはズレているような気がしなくもなかったけれど。

 それでも、彼女はキツいばかりの性格ではなく優しさをもっているのがわかる。


「それにあなたがそんなに辛いなら、それこそ魔法少女がやってきてドレスの似合う女の子にしちゃうかもね」


 ――やっぱり木下さんがキツい性格なのも間違いない。

 きっちり憎まれ口みたいなのを差し挟んでくる。


「……でもお母さんからして熊だし、お父さんも熊っぽいし……、人間の女の子になってもきっと……」


「前向き! いつも言ってるでしょ。綺麗なお花は空に向かって咲くの!」


 尻込みする熊内さんに、木下さんは強く言い切った。

 そういえば彼女の名前は木花(このはな)、今の訴えは名前そのものの話。


 木下さんは、カッコいい女の子なんだ。

 それこそヒーローとか、魔法少女……とはちょっと違うか。

 ――うん、“たたらの鋼”も名前負けしないようにしなくちゃ。


 そんな感動を噛み締めていた僕をつつく、佐介。

 なんだよ、もう。


「いや、クラスの情報収集なら専門家がいるよな、と思って」


 小声の佐介。

 情報収集の専門家、ああそうか。


 ――で、本当に居るの?


(え? あ? ああ、魔法少女か。えーと……そうだな。居る、と思う)


 なんか、酷く曖昧な返答。


 テレパシー先のあきらを確認すれば、狭山さんが持ち込んできた荷物を開封して並べている最中。

 サイオニックのESPなんて魔法少女と同じような都市伝説なのに、すぐ前の席に居る。


(それを機械化しだした科学者の息子に言われたくないなあ)


 それはまあ、そうだけど。

 っていうか、魔法少女自体の心を読むとかできないの?

 熊内さんの話からすれば、かなり近くに居るみたいだったけど。


(いや、その、今の今まで魔法少女の事も忘れてたから……。あれ、でも熊内が助けられたってことは覚えてるぞ。あれ……???)


 あきらから伝わる、困惑。

 魔法少女同様に、こっちもこっちであんまり万能じゃないらしい。

 あるいは魔法少女はESPを妨害するような力でも持っているのかも?


「ダメだこりゃ、役立たずだな」


 佐介が小声で呆れ声。


(うっせーぞポンコツ!)


 あきらの怒りのテレパシー。

 人の頭を中継局にしてケンカしないでほしい。


 僕らが誰にも気づかれない秘密会議をしている間、目の前では戦いが始まっていた。

 片や励ましをうけて元気を取り戻した熊内さん。

 片や僕の幼馴染のむーちゃん。


 熊内さんは、武術の構えのように手足をきびきびと動かして、最後は何かを掲げるように片腕を掲げた。

 それを見たむーちゃんは食い気味に何かを答える。


「マドーガール・トランステラのオペラ・セリス!」


正解(せーかい)!」


 え? どういうこと?

 そして今度動き始めたのはむーちゃん。

 その場でくるくると回ってぴたりと止まり、突きだした指先で稲妻を描く。


「簡単簡単、メテオプリンセスのくるるちゃん」


「正解ー!」


 ……ああ、なんか記憶にある。

 これはむーちゃんが以前好きだったアニメの真似だ。

 そういうジェスチャークイズの勝負らしい。


 むーちゃんのアゲハも何かのアニメヒロインのデザインとハガネを混ぜたみたいなデザインだし、影響が大きいのかもしれない。

 それにしても、幼馴染のコミュニケーション能力。


 少し呆れ気味にそれを眺めていると、僕と同じような距離感でいる木下さんが目に留まった。

 何となくお互い様のような気がして苦笑を向ける。

 向こう側も同じように返してきて。


 次の瞬間、彼女が何かに反応したように飛び上がった。

 疑問に思う間もなく、学校内に警報が響き渡る。


「……なんで? ナーリャは……」


 木下さんが愕然とした様子で何かを呟くのが聞こえて、でも意味は掴みかねて。

 彼女の呟きが何なのか考えようとしたけれど、あきらからの急かすテレパシーが大音量でその思考を押し流す。


(まずいぞ。央介! 巨人が収束始めてる!)

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