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第一話「ハガネのココロ」1/2

 ちっちゃなブリキ玩具劇場へようこそ!

 ちょっと変則的なヒーローロボットアクション、はじまります。

 ところで「SF」と書いて「スーパーロボット・ファンタジー」と読みます。いいですね?

 =珠川(たまかわ) 紅利(あかり)のお話=


 電動車椅子のAIに帰宅ルートを指示すると、モーターが小さな音をたててゆっくりと動き出す。


「ばいばい」


 クラスメイトの、巻き角の生えた女の子に手を振って、私は学校を後にした。

 事故で両足を失った私の、車椅子の上の日常。


 ゆっくりとした読み上げの市内広報が、町全体に情報を伝えている。


 《……現在、市内各所において、不審者が目撃されています。黒っぽい服装に、黒い眼鏡……》


 ――下校前のホームルームでも、そんな話があったかな。


 丘の上にある学校から出ると、町全体がよく見える。

 町を守るために作られたいくつもの武装ビルが、西日を受けて光っている。


 この町は、昔、戦争があって作られた要塞都市。


 だから警戒態勢もしっかりしていて、いろんなところに監視カメラやゲートもある。

 それなのに、不審者を捕まえられないなんてことがあるのだろうか。

 見上げると、街角を見張ってるカメラがあった。


 ほらね、どこでもちゃんと守られている。


 と、カメラに気を取られて地面から目を離した途端、車椅子があらぬ方向に向いた。

 私は慌ててレバーを引いて、それ以上の動作を止める。


 町を走行中の誤作動なんて初めて。

 どうしたのかな。


 それからは、自動運転にするたび、車椅子は壁に道路に走り出す。

 流石にこれは、と思って携帯でパパにSOSを出したけれど、それでもすぐに来てもらえるわけでもない。


 仕方なく手動操作に、と思った途端、車椅子は身動きもしなくなった。

 操作画面を見ると、車椅子のAIはここは壁の中と判断してしまっている。

 手動にしても危険危険の警報が鳴るばかりで、緊急でもないのに緊急停止してしまう。


 あとはもう、苦手な義足で歩いていくしかないかもしれない――。

 ――そう思ったとき。


「やっぱこの辺だな。居るぜ、連中」


 男の子の声がする。

 周りを見回すと、二人の男の子が歩いていた。


「ごめんなさい。ちょっと助けてくれますか」


 私が声をかけると、彼らはすぐに気づいて、駆け寄ってきた。


「大丈夫? どうかしたの?」


 二人とも、見たことのない顔だった。

 少なくとも私の学校の児童じゃない。


 揃って小柄で、よく日に焼けていて、髪形以外は顔もそっくりで、きっと双子なのだろう。


「車椅子の自動制御がおかしくて、動かなくなってしまって……」


 私の話を聞いた彼らは、何か顔を見合わせていたようだったけれど、それでも快く応じてくれた。

 悪い子じゃないようで、安心。


「そっか。じゃあ押していくよ。どっちに行けばいいのかな?」


 双子の、前髪がアンテナのように立っている方の子が、車椅子の取っ手を握った。

 そのまま押していってくれるみたいだけど――。


「あ、あの、そこまでしてくれなくてもいいの。この壁の中にいる、から外れれば動くと思うから……」


「いーのいーの、こっちも地図がおかしくて歩き回ってたとこだから」


 私の遠慮に答えたのは、双子のもう片方、右目を隠すような髪形をしている子。

 携帯を指先に持って振りながら、そう言った。


「あの、ありがとう。それじゃ向こうが私の家なの。ええと……」


 双子相手だからあなた、とか、きみ、では伝わりにくいことに気付いた。

 何と呼べばいいのだろう?

 私の視線に気づいて、片目隠れの男の子が答えてくれた。


「オレは佐介(さすけ)、そっちは央介(おうすけ)だぜ」


「ごめん、自己紹介もしてなかった」


 少しラフなしゃべり方のほうが片目隠れの佐介くんで、車椅子を押してくれているのはアンテナ前髪の央介くん。

 なんとなく、二人の性格の差を感じる。


「私はあかり、珠川 紅利。二人はどうしたの? この辺の子じゃないよね」


 私の質問に答えてくれたのは央介くんの方。

 何か少し考えながらのように見えたけれど。


「えっとね……、引っ越してきたんだけど、ちょっとこの辺で携帯の地図がおかしくなっちゃって」


「……きっと“この辺に地図とか狂わせる何かでもある”んだろーな?」


 佐介くんの方が、何か、からかうようなことを言う。

 ――と、佐介くんは何かに気付いて、急に飛び出していった。

 道端で地面から拾いあげる動きをして、戻ってくる。


「あったぜ、Dマテリアル。やっぱりだ」


 その手元には、真っ赤な結晶があった。

 宝石、にしては大きい。


「わあ綺麗、何それ?」


 そう言った後で、双子がすごく深刻そうな顔をしているのに気付いた。

 次に口を開いたのは、央介くんの方。


「……えっとね、毒のガラスの欠片だよ。絶対に、絶対に触らないほうがいい」


 流石に冗談だろうと思ったけれど、そこは話を合わせることにした。

 何かのごっこ遊びなのかな?



 そのまま央介くんに押されて、国道にある防壁ゲート近くまで来た頃、車椅子が調子を戻した。


「――あ、大丈夫みたい」


「そうだね、こっちの地図もだ」


 彼らも携帯を操作して確認しながら答える。

 本格的に地域で故障でもしていたらしい。


「ありがとう、えっと、二人は引っ越してきて、神奈津川(かなつがわ)小学校?」


「そーだよ。珠川さんも?」


 答えてくれたのは佐介くん。

 央介くんの方は、少し引っ込み思案なのかな。

 ――そっか、転校生。


「ええ、六年生」


「ああ、同学年だったんだ。ひょっとしたら明日からも、よろしくね」


 二人とも小柄だから、少し下の学年かと思っていたけれど、まさかの同学年だった。

 その歳でガラス片を持ってきて毒のガラス、なんて、ちょっと子供っぽい遊びだと思うけど……。


「それじゃあ、たぶん明日!」


「この辺、危ないから近寄らないようにね」


 二人はそう挨拶して、また来たほうに戻っていく。

 ――うん? 戻るの? まあ、いいか。


 快調になった車椅子は、国道を渡る地下道を越えて、

 すこし進んでから、急に路地のほうに向いた。


「あ、あれ」


 まただ、またおかしくなってる。

 勝手に細い路地に進んでいってしまう。


 路地の先には人影があった。

 車椅子の幅を考えると、これは危ない。


「ごめんなさい! 車椅子がおかしくて…!」


 人影がはっきりと見えた。

 小柄で、驚いたような顔をしていて、黒いサングラスに、黒い作業服をつけていた。


 市内広報が、ゆっくりと情報を伝えている。


 《……現在、市内各所において、不審者が目撃されています。黒っぽい服装に、黒い眼鏡……》


 周りには今、その人物が落としただろう、真っ赤な結晶。


 これは、毒のガラス。

 これは、わるいひと。


 パニックになって、叫びそうになったとき、横から伸びてきた手に口を覆われた。

 私は口を覆った誰かに吊り上げられて、車椅子が倒れる。


 やっぱり、私って不幸なんだ。




「だからさあ!」


 小柄な不審者が怒鳴る。


「俺たちのしてたのは、ちょっとお金もらって~、受け取ったゴミを捨ててたんです~、ぐらいにしかならねえの! それが!」


 私は、捕まった場所からどれだけ連れてこられたのか、廃工場に居た。

 椅子に縛られていた。

 怖さで、涙も出なかった。


「完! 全! に! 児童誘拐犯だ!!」


 小柄の怒りが向いているのは、のっぽな不審者。


「だだだだだって、叫ばれたら、すぐに警察とか飛んできて……!」


 小柄な男はわざわざジャンプしてのっぽの頭を殴る。

 殴ろうとする。

 でも外れた。


 それで余計に怒りを募らせたらしい小柄。


「このロケート・コンフューザーが周囲の地図情報狂わすから、サツは明後日の場所しか探さねえって説明されただろうが! 脳みそ腐ってんのか足高ァ!?」


 小柄は手に持った機械をぶんぶん振って強調する。


 地図がおかしかったの、この人たちがやったんだ。


「でもよ長手! お前の顔ばっちり見られちまったんだぜ? それは流石に、その、まずいだろ……?」


 おろおろしながら答えるのっぽ。

 対して、小柄はますます怒気が激しくなる。


「顔も! このマスクが! ごまかしてんの!!」


 小柄が身に着けているサングラスに見えたそれは、信じられないような高性能な機械らしく、小柄が手で叩くたびに彼の顔の輪郭を切り替えていった。

 何……? 何が起こっているの?


「それにおめぇ! 今、長手って名前呼んだ! この女の子がいるところで!!」


「あっ!! ……いや、先にお前がオレの名前呼んだだろ!?」


「えっ……!?」


 とんちんかんな口喧嘩の末に、黙り込んだ二人の不審者。

 先に口を開いたのは小柄の方だった。


「あー……、なんだ、まあ、いいじゃねえか、なあ……佐藤!」


「サトウってなんだよ?」


「話を合わせろっつーんだよぉ!!?」


 本当に頭の悪い会話が続く。


 こんな人たちに捕まって、家に帰れない。

 昔、事故で足を無くして、好きなこともできなくなって、今度は誘拐。

 自分は一体なんなのだろう。惨めさがこみ上げてきて、ようやっと涙があふれる。


 誰か、助けて。


「ほら泣いちゃったじゃないか! 小さな女の子なんだぞ! 足も不自由で!」


「なんでこんな酷いことしちゃって……俺ら……」


「じゃあさっさと自首でもすれば?」


 二人の愚痴に割って入る声。

 そこに、二人の男の子がいた。



 不審者たちからは建物の反対側。

 前に立っていたのは、片目隠れの佐介くん。


 ――どうして、彼らがこんなところに来たのだろう!?


「ねえ、おじさんたち。さっさと手を揚げてごめんなさい、ってしたほうがいいよ」


 双子たちの背が小さい分、不審者らとは体格には大きな差がある。

 のっぽの方とは倍近いかもしれないのに、恐れる様子もなく、佐介くんは薄く笑みを浮かべてすらいる。


「女の子にケガ、させてないよね。ギガントの工作員さん」


 静かに語りかけてきたのは、車椅子を押してくれたアンテナ髪の央介くん。

 彼は佐介くんとは違って、静かに、でも間違いなく怒っている顔。


「もう、警察にも、自衛軍にも知らせてあるよ。どれだけ地図を狂わせても、目で数えた番地まではごまかせない」


 突然のことに驚いたのか不審者たちはうなっていた。

 だけど、小柄は不敵に笑い始めた。

 それが何か悪い事だというのは私でも察しが付く。


「そうかよ、ちびすけども」


 そういうと小柄は隣にいたのっぽの腰のあたりをつつくと同時に、作業服のポケットから、鉄砲を取り出し、構える。

 一瞬遅れてのっぽも、つつかれた位置からあたふたと同じものを取り出した。


「サツ? 軍? そりゃあ、おっかねぇ。でも今ここにいるのはお前ら、ガキだけだ!」


「お、おとなしくしろよ!? 本物の銃なんだ。ケガじゃすまねえぞ!?」


 私は、おびえるしかなかった。

 人攫い、鉄砲まで持っている。


 どうして、この双子はこんな危険な場所に子供だけで来たのだろう?

 倒れた車椅子を見つけて?

 それでも攫われた場所から離れたこの廃工場を見つけられるとは思えなかった。


 ――そういえば、彼らは最初から何か居ると言って、探していたような?

 地図を狂わせている何かがある、そう言っていて……。


 それでも二人の大人相手に敵うはずもないのに。

 それなのに――。


「それ本当にタマが出るの? セーフティは外れてる?」


 片目隠れの佐介くんは、からかうように、怖がりもせずに前に出た。


「おいガキ! 遊びじゃねえぞ!? う、撃て、足高! ちょっと脅かし……!」


 小柄がせっついたことで、のっぽは慌てて引き金を引いた。

 連続した銃声が響いて、弾が当たって壁が壊れる音がして――。


 ――佐介くんの服の、お腹のところが弾けた。


「きゃあああああああああああああああ!!!!」


「うわあああああああああああああああ!?!?」


 私の叫び声と、のっぽの叫び声が廃工場に響いた。


 佐介くんは、撃たれた所を押さえて、そこを見下ろす。

 きっと大怪我、そう思った。

 けれど、彼は苦痛を訴えるでもなく、顔を上げて不審者たちを睨みつける。


「おい、服が破けたじゃないか。お気に入りだったんだぞコレ」


 ……当たり所がよかった、偽物の鉄砲だった、なんていうはずはない。

 同じ弾は壁を壊していたのだから。

 なのに衝撃を受けたでもなく、佐介くんはまた一歩前に出る。


「ば、ばばばっばバケモノ!?」


 のっぽは慌てて鉄砲を構えなおし、乱射する。

 弾のほとんどは外れて飛んでいって辺りの物を壊して、それでも多分二発ぐらいが佐介くんに当たった。


 特に、一発は佐介くんの顔を直撃していた。

 けれど、弾は彼の肌に傷一つ付けずに、激しい火花と破片になってはじけ飛ぶ。

 この男の子、鉄砲が効かないの!?


 そのうちカチンカチンと空打ちする音がして、鉄砲が空になったことが私でも分かった。


「バケモノで悪かったなぁ」


 何もできなくなったのっぽに対して、佐介くんが優勢と怒気を明らかにして飛び掛かろうとしたとき。


「動くなぁ!!」


 私の頭に、冷たくごつごつとした金属のものが押し当てられる。

 それが鉄砲だと気づく。


 ――小柄が私を人質に取ったのだ。


「こっちまでバケモノってことは無い、だろう」


 鉄砲をものともしなかった佐介くんが、動きを止める。


「ダメだ、佐介」


「言われなくても」


 央介くんの制動を受けてやっと佐介くんは構えを解いた。


 私の傍の小柄は、一度ため息をついてから話を続ける。

 鉄砲が、頭にぶつかって、痛い。


「……よし、いい子だ。そのまま動くなよ。連絡もなしだ」


 私の顔に、銃口がとんとんとぶつかる。

 こわい、よう……。


「人質がいるってことは、忘れるなよ? ……おい足高! 逃げるぞ!」


 そう小柄が声をかけると、のっぽは慌てて私を縛り付けられた椅子ごと持ちあげた。

 私はのっぽの肩に担ぎあげられて、そのまま視界はぐらぐらと揺れ、置き去りの双子が遠ざかっていく。


 助けて、と声を上げようとして――

 ――でも、小柄の銃が向けられるかもしれないと思い、喉がこわばる。

 ただ、遠くなる双子を見つめるのが精いっぱいだった。


 視界の中の彼らは少し歩み出て、アンテナ髪の少年、央介くんが叫ぶ。

 まるでヒーローみたいに。


「すぐに助けに行くから!」


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