魂の守り人9
首謀者との決着。
ミズキが半数ほどのクローンを倒したタイミングで残りの10体のクローンは動きを止めた。
「な、なんだァ?」
急に動きを止めたクローンをミズキは注意深く観察した。
「そんな食い入るように見ないの。変態」
レイがミズキの頭を叩く。平坦な口調とは裏腹にその手には力がこもっていた。
「痛ってェェェェェ! なにすんだよォ!」
「そんなに女の子の裸をじろじろ見ない!」
「お、おゥ」
レイの剣幕にミズキはたじろいだ。
「よいしょっと」
そこへタツミが階下より跳び上がってきた。両脇にはエミリアとクローンの少女を抱えている。
「タツミ君、やったのね」
「ああ。レイも無事でなによりだ」
レイは先程の剣幕が嘘のように消え、タツミを出迎えた。
「で、その2人はどうしたんだよォ」
レイに叩かれた後頭部をさすりながらミズキもタツミのもとへと来た。
「とりあえずこっちの区長の方は失禁するぐらいまで締め上げたから十分だろ」
「なんだよそのババアいい歳こいてチビっちまったのかよォ」
「チ、チビってなどいません! 貴方も出鱈目言わないでください!」
「はは、悪かったな。そしてこっちがエミリアのクローンだ」
「マヤと呼んでください。よろしくお願いします」
マヤはゆっくりと頭を下げた。
「よろしく……ね。この子、自我がない? 服も着てるし」
レイは他のクローンと見比べた背格好は変わらないが他の人よりも人間らしい雰囲気を醸し出していた。
「この子は最初に生み出した個体です。とある理由で自我を持っていますので私の身辺の補佐をさせていたのです」
レイの問いにエミリアが答えた。マヤはそれを肯定するように隣で首を何度か縦に振った。
「そう。まあいいわ。じゃあ本題に入りましょう。エミリアさん、今後、ミズキ君からは手を引いて」
そう言いながらレイはエミリアの真正面に立った。堂々と、といえば聞こえはいいが無防備ともとれる。
「いいのですか? 軽率に私の前に立って。今ならいつでも殺せますよ」
「チビりそうだった人が何言ってるのよ。Sランク級が2人もいるなかでそんなことできるわけないでしょ」
「大した自信ですね。そもそもそちらの男性2人が守ってくれるとは限りませんよ」
「守ってくれるわよ。どうやら私は、私が思っている以上にあの人達に大事に思われているようだから」
レイが恥ずかしげもなく言いきる。タツミとミズキはむず痒くなったのか視線を泳がせた。
「そうですか。まあ貴方を殺すことは私にはできません。私の、いえ、私達の目的に反することですから」
「じゃあその目的とやらを聞きましょうか」
「そうですね。貴方達には話さなければなりませんね。まずはこちらにいるマヤの話から聞いていただきましょう。と、その前に……」
エミリアはタツミを見た。性格にはタツミの胸元だ。
「支部長、今は貴方ひとりですか? ひとりなら一緒に聞いてください。他に誰かいれば聞かれないようにするか、退室していただきなさい」
「バレていたのか」
タツミが胸元の取締委員のバッジをさする。エミリアだけでなくタツミも当然、その異能の眼で気付いていた。
「カメラ、ですね。ここへ貴方達が来たときに装備品のスキャンはしていますから」
「だそうです、支部長。お願いしますよ」
「さて、それではマヤ。お願いします」
「わかりました」
マヤはその場で一礼して再び口を開いた。
「まず、わたしはもともと神でした。この人間界とは違う、天界から来たんです」
タツミ達はマヤの突拍子もない発言に変な声が出た。