表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDEN-箱庭の逃亡者-  作者: 春野ミズ
6/13

魂の守り人6

タツミはレイと事件の調査を行い、犯人と思わしき者のいる場所へと乗り込む。

そこで高次元の異能者同士の戦いが始まる。

「有力な情報が入らないな」

 教室の机にタツミは項垂れた。レイとの調査を始めて一週間、その間に失踪事件の犯人に繋がる情報が手に入れられないでいた。

「足を使っての聞き込みも限界があるのかしらね。やっぱり勘違いだったのかしら」

「勘違い?」

「いえ、なんでもないわ。忘れて」

 レイは掌をタツミに向けた。何を聞かれても答えないという意思表示だ。

「あ、ああ。なあ、今日はちょっと遠くなるけど3区か4区にも行ってみないか? 一週間ずっと2区だったろ。それにちょっと居心地悪くなってきたし」

 タツミが第2区の異能取締委員を返り討ちにした噂は第2区内で瞬く間に広がった。

 タツミが道を歩くだけで第2区の学生は道を空けて会釈をする。それだけではなく、取締委員の眼鏡とヘッドホンが腰を低くして傍におり、何か手伝えることはないかとヘコヘコしているのだ。

「うーん、たしかにあの2人は気持ちわるいけど」

 レイが悩んでいるとクラスメートの女子が軽いフットワークで2人に近づいてきた。

「ねえねえ、もしかして学生がいなくなる事件のこと話してるの~?」

「ミナトちゃん、いきなりね。たしかにその話しをしていたけれど」

 ミナトと呼ばれる女子は特徴的な黄金色のツインテールを揺らしながらにっこりと微笑む。

「いきなりごめんね~。でもちょっとした噂を聞いたからさ~。調べてるのなら伝えておいた方がいいかな~と思って~」

「ちょっとした噂?」

「そ~。私も今朝聞いた話しだからさ~。昨日か一昨日だったかな~。またひとり学生がいなくなったんだよね~。で、そのいなくなったであろう時間帯にいなくなった学生の帰り道でうちの制服を着た生徒がいたんだって~」

 ミナトがそういうとレイは目を見開いて身を乗り出した。

「その男子の特徴は? 背格好はどれくらい?」

「わわわ、ちょっと待ってよ~。たしかに男子とは言ってたけどどんな人なのかまでは聞けなかったよ~。でも君たちではないことは確かだよ~。もう2区では有名人らしいもんね~」

 レイの圧力にミナトは気圧されたが、その男子生徒が誰かまでは本当に知らないようだった。

「そう。わかったわ。ありがとう、ミナトちゃん」

「う、うん。また何か聞けたら教えるね~」

 そういってミナトは陽気に手を振りながら自分の席に戻っていった。

「レイ、どうした? さっきの態度は」

 タツミはミナトとは裏腹に深刻な表情をする零を心配した。

「いえ、なんでもないわ」

「そっか。けど、なんでさっきは男子だって決めつけていたんだ? もしかして誰か心当たりがあるのか?」

「私が思っている人物はタツミ君も知っている人よ。むしろ、貴方も少しはその可能性について考えたことがあるんじゃないかしら」

 タツミは一瞬で誰なのか察した。タツミとレイがお互いに知っている人物。そして、標的となる学生の戦闘能力を気にしていないこと、標的は男子学生のみであること、それらを踏まえると心当たりはひとりしかいないのだ。

「まさか、いや、考えたことはある。けど、すぐに除外した。だってあいつがそんなことするわけない。それに確たる証拠もない」

 タツミは思わず頭を抱えた。それほど彼にとっては信じたくないことだったのだ。

「じゃあ逆に聞くけど、戦闘評価の高い学生であろうと外傷もなく誘拐する。被害者が加害者の顔を見ていないというのは記憶を消されているか、見られないようにして意識を狩りとったのかのどちらかでしょ。後者なのだとしたら、加害者もかなりの手練れだと予測できるわ。タツミ君が知っている人の中でそんな芸当ができる人、他にいる?」

「いない。それにあいつなら女子を狙わずに男子だけに限定していたのも納得できる」

「ええ。だから問い詰めに行きましょう。ミズキ君のところへ」

 レイは何かを決意したかのように吹っ切れた表情をしていた。タツミはまだ困惑していたがレイの提案に従うことにした。



 放課後、水・液体系の異能者で構成されたCクラスの前に来るとタツミは足がすくんでしまった。

「他のクラスってなんか入りにくいよな」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

 レイがお前が行けと言わんばかりにタツミの背中を叩く。

「そうだよな。行ってくる」

 タツミは意を決してCクラスの扉を開き近くの男子生徒に声をかけた。

「ごめん。Fクラスのタツミだけど、ミズキいる?」

「ああ、タツミくんね。ミズキ君から君がもし来たら先に取締委員の支部に行ってるって伝えてくれと言われていたんだよ」

「え、ああ、そうなのか。ありがとう」

「うん」

 タツミはCクラスの扉を閉めて少し離れた位置で待機していたレイのもとに駆け寄った。

「どうも取締委員の方に向かってるらしい。そっちに行こうか」

「あら、そうなのね」

「わざわざ他のクラスメートに伝言を残してくれていたみたいだ」

「伝言?」

「ああ。もし俺がここに来たらってことでさ」

 タツミからの言葉を聞きレイは顎に手を当ててなにやら考え出した。

「どうした?」

「いえ。もしかしたらこの展開を予測していたのかもしれないと思ってね」

「あいつがそこまで考えてるかなあ」

「さてね。とにかく行ってみましょう」

「そうだな」

 放課後でざわつく校舎の中を足早に突破し学校を後にした。



「ミズキなら地下にいるぞ」

 異能取締委員会第1区支部に訪れたタツミは支部長の言葉に絶句してしまった。そもそも取締委員の支部があるビルに地下が存在していることを知らなかったのだ。

「タツミ君、フリーズしてるわよ」

 レイが背中から声をかけるとタツミは正気に戻った。

「ああ、ごめん。支部長、地下ってどういうことですか? この建物に地下があるなんて聞いたことないですけど」

「ああ、言ってなかったからな。そもそも地下の存在は機密事項なんだ。あるモノを守るためにな」

「あるモノ?」

「行けばわかる。それとミズキのことなんだがな、なんというか、その」

 支部長は歯切れの悪い言い方で言葉に詰まる。

「ミズキがどうかしたんですか?」

「あいつのこと、責めないでやってくれ。あいつにはあいつの信念がある。悪いな。俺からはあまり多くは語れない」

「わかりました。あとはミズキから聞きます。それと、あいつが信念を持って行動していようがなかろうが、それが間違いだった場合、俺はあいつを止めるつもりですから」

 そう言ったタツミの瞳に迷いはなかった。

「そうか。やっぱりあいつはいい友達を持ったようだ。あいつのこと、頼んだぞ」

 支部長は拳を前に突きだした。タツミはその拳に自分の拳を突き返す。

「はい」

「ところで、私も着いていっていいのですか?」

 タツミの脇から顔をひょこっと出しレイは支部長に尋ねた。

「ああ、もちろんだ。むしろ君も行くべきなのだろう。ただし、くれぐれも怪我には気をつけてくれ」

「ありがとうございます」

 レイは会釈した。

「タツミ、この子の事も頼むぞ。それと、これを着けておけ」

 支部長がイスから勢いよく腰を上げると懐からバッジを取り出した。

「これは取締委員のバッジ? 俺持ってますけど」

「いいからいいから。これを付けていけ。後で約に立つから」

「はあ」

 タツミは言われるがままバッジを受け取り胸元に装着した。

 支部長はオフィスの奥へと歩きだした。そして壁のある場所に手を当て、押し込んだ。すると壁の一部がスライドし引き戸のように開いた。

「こんな仕掛けがあったなんてな」

 タツミは呆れ半分でその壁がスライドする様を見ていた。

「無事を祈る。行ってこい」

「はい」

 タツミとレイは支部長に見送られる形で壁の向こう側へと入っていった。小さな灯りに照らされた通路からすぐに階段が見え下の階層へと降りていった。



「長いわね、この階段。もう疲れたわ」

 レイが不満を口にした。薄暗い灯りの中、殺風景な場所を延々と進んでいくのだ。肉体だけでなく精神的にも疲れる。

「といってもまだ10階分くらいだぞ。それにもう少しで終わりだから安心しな」

「どうしてわかるの?」

「眼はいいんだ。誰よりもね」

 タツミの返答にレイは意味が理解できず首を傾げた。

「どういうことよ」

 溢れた疑問にタツミは答えずただ微笑むだけだった。

 階段を下り終えると重厚な扉が待ち受けていた。タツミがその扉を片手で押すと意外にも滑らかに開いた。

「なんだこの空間は」

 扉の先は立方体の空間。壁は真っ白で照明は階段と違って真夏の太陽のように煌々とその空間を照らしていた。

「よく映画とかで監禁されるような場所ね」

「そうだな。もしくは闘技場といったところか。レイ、そこにいろ」

 タツミは前に歩き出した。するとタツミ達が入ってきた扉とは反対側に位置する扉が開き、ミズキが現れた。

「よぉ。こんなとこに何しに来たんだぁ?」

 白々しく言いながらミズキはタツミの前まで歩み寄った。

「ちょっとな。それにしても驚いたよ。支部の地下にこんな空間があったとはな」

「おう? オマエ、今まで支部では眼を使わなかったのかぁ?」

「使う機会なんてなかったからな。それよりもだ、ミズキ。最近学生が失踪する事件が多発している。何か知らないか?」

「知らないか? ときたかぁ。タツミ、オマエもわかってんだろぉ? 誰がやってんのかぁ。だからここまで来たんだよなぁ?」

「信じたくはないが、お前なのか?」

「ああ、そうだぜぇ。オレにもやらなきゃいけねぇことがあってよぉ。タツミ、それにレイにも、邪魔されるわけにはいかねえんだよぉ」

 タツミはひとつ息を吐いた。そして力強く吸うと同時に下肢に力を込めた。

「そうかよ。だったら、問答無用でいく!」

 タツミは大きく踏み込み異能を使わずただの純粋な己の拳でミズキの顔面を殴る。

 殴られたミズキは後方に吹き飛ばされる。

「痛ってえなぁ!」

 まともに殴られたにも関わらずミズキは即座に立ち上がった。

「質問だ、ミズキ。お前が学生達を拐った目的はなんだ?」

「普通順番逆じゃねぇ!? なんで先に殴るんだよぉ!」

 ミズキは左の頬を抑えながら涙目で訴える。

「気分だ」

「まじかよぉ」

「冗談だ」

「冗談かよぉ。じゃあどういうことだぁ」

「覚えてるか? 俺達がガキだったころ、レイがいなくなった。俺達はあいつを守れなかったからだと思っていた。だから俺達はどんなことからも大切な人を守れるように互いに強くなろうと誓った」

「ハッ! ああ、覚えてるさぁ。オレが意識不明の状態から目を覚ましてからのことだったよなぁ」

「そして俺達は力をつけた。だけどその力を間違った使い方をしないように互いが互いを律するようにした。今の一発はお前が学生を拐ったことに対しての罰みたいなものだ。理由がどうであれ許される行為ではないからな」

「ったくぅ、そういうことかよぉ。まあでも感謝しねえとなぁ。これで許されるとは思っちゃいねえがそれでも少しは気が楽になったぁ」

 ミズキは笑う。誓いを立てた相手がタツミで良かったと心から実感した。

「で、ここからはただの喧嘩だ。俺に隠れてコソコソとしていたお前に対する俺の不満を単にぶつけるだけだ」

「ふっはははは! いいぜぇ。まさかタツミがこうも喧嘩っ早くなるとはなぁ。珍しいもんだぁ。どうあれ今はオマエを先に進ませるわけにはいかねぇ。喧嘩上等、久々にやってやらぁ」

 ミズキは自らの周囲に水を纏わせる。

「ちょっと2人とも」

 レイが手を伸ばそうとするが闘争心に火がついた2人をみて、その手を引っ込める。

 とても止められそうもない、何を言っても無駄だろう。そんな雰囲気に包まれていた。

「なら、行くぞ」

 タツミは今までとは違いただの棒ではなく、正真正銘刃のある灰色の剣を取り出した。

「不殺剣ではなく殺人剣かぁ。いいぜぇ、やる気じゃねえかぁ。来いよぉ」

 ミズキは大量の水をタツミへ放出する。それはまさに滝の様だった。

「はあ!」

 タツミは剣を振り上げ滝を真っ二つにする。

「相変わらず剣を持たせたら出鱈目だなぁ。人間やめてやがるぜぇ」

 普通なら大量の水による水圧で押し潰され壁に叩きつけられるところだ。ミズキもそうだがタツミも異能者としての身体能力を高めている。さらに剣術を習った経験があり、滝を切り裂くという荒業を実現させている。

「普段から隣にお前がいたんだ。これぐらい出来るようになって当然だろ」

 タツミはミズキへ急接近して剣を連続で振るう。滝を切るほどの斬撃はそのひと振りひと振りが必殺といっても過言ではない。ミズキはそれらを避け、水で弾き完璧に捌いていた。


 レイは2人の死闘を少し離れて眺めていた。

「戦闘評価の基準はわからないけど、タツミ君も異能を使っていればおそらく余裕でSランクになってそうね。あの男とこれだけ互角に渡り合ってるもの。Aランクの私ですらこの戦闘には手出しできそうにないってのに。あの二人に取り締まられる異能者に軽く同情しちゃうぐらいね」

「僕もあの辰巳には歯が立たなかったからな」

「あら、ライト、戻ってきたのね。神のポジションに行ったはずでしょ」

 レイは自身の右肩付近を見た。傍から見れば何もないのだがレイには自分が作った魂が靄の様に見えている。

「僕は神だ。空にいるのが正しいと思ってる。けど君が地下に入っていくのを見たからな。ここではあまり役には立たないかもしれないけど空にいるよりはマシだと思ってね」

 小さな声が青白い靄から聞こえる。電気に憑依するのが得意なライトの声だ。

「あ、あの、わたしたちがいるから大丈夫です。けど、ありがとうございます」

 風切り音と共にフウカのか弱い声が聞こえる。

「僕は神だぞ。君達を見守る義務がある」

「ライト、それはわかってる。君は神だ。だが私達が地上に戻った際に即座に強力なフォローができないだろう。いざというとき、それでは困るのだ」

 今度は灰色の靄から声がする。

「テツヤ、そうは言うけど、この前あのミズキってやつにボコボコにやられたそうじゃないか」

「テツヤはしょうがないわよ。あの公園で使えるのは地面の土ぐらいなものだし。公共の場であまり派手なことはできないわ」

 責められるテツヤをレイは庇った。

「レイ、あれは私の力不足だ。フウカと2人がかりでありながら手も足もできなかった。人間の異能とはあんなにも強いものなのか」

 テツヤは落ち込んだ。表情はわからないがその声色でなんとなく感情は察知できた。

「そもそも貴方達は単独で戦うことは想定していないわ。あくまで私と一緒にいて、全員の力を合わせて戦うの。あまり個人で比較したり競ったりするようなことはしないで」

 レイは3つの魂全てに向かい注意した。3体は同時に元気のない返事をした。

「ところでライトはいいとしてフウカとテツヤはどうして出てきたの?」

 レイは普段魂を身の回りに自由自在に出て来れるようにしている。しかし普段からこうして出てきて互いに会話することは少ない。

「ど、どうして、ですか。ミズ……ミズキ君に言われたのです。これからのオレを見ていろと」

 レイの問いに対しフウカが答えた。

「それはあの公園でやられたときに?」

「は、はい。そうです。理由は教えては頂けませんでしたが。どのみちあの戦いの余波からレイちゃんを守らないといけませんから。こうして出てきていた方が都合はよいのです」

「そう。ならちゃんと見ておきなさい。あの男が貴方達に見ておけというのなら何かあるんでしょうよ」

 レイは魂3体と共にタツミとミズキの戦いに注意を移した。


「知ってるかぁ?」

「なんの話しだ?」

 際どいやり取りの中、不意にミズキがタツミに喋りかける。

「オレの目的だぁ」

「知るわけないだろ」

「じゃあオレの正体は知ってるかぁ?」

「は?」

「オレはオマエの知ってるミズキじゃねえってことだぁ」

「なにを……」

 タツミは一瞬戸惑う。ミズキの言葉が理解できなかったからだ。しかし、その一瞬の戸惑いをミズキは逃さなかった。

「隙ありだぜぇ!」

 ミズキの水を纏った拳がタツミの腹部にヒットする。強烈な一撃と共に水を弾丸のように拳から放出する。拳と水の勢いでタツミは後方の壁まで吹き飛ばされる。

「気ぃ抜いたなぁ。そんな余裕なんてねえだろうがよぉ」

 ミズキはさらに水を極限まで圧縮し槍のような刺を複数、タツミへと射出した。

 タツミは灰の物質で壁を作り水の刺を防いだ。そして腹部をおさえながらゆっくりと立ち上がる。

「ミズキ、どうしてあんなことをした。お前はそんなことするような男じゃないだろ」

「タツミぃ、約束、いや誓いがどうの言ってたなぁ。あのとき守れるものはなんであろうと守ると誓ったぁ。その誓いのためにオレ達は強くなったぁ。だけどなぁ、世の中には力じゃ解決できねえこと、力を以てしても越えられない力ってもんはあるんだぁ。オレは大事なもんを守るために手段を選んでねえだけだぁ」

「お前の守ろうとしているものは何なんだ」

「安心しろぉ。オレの守ろうとしてるもんは何も変わっちゃいねえよぉ」

 ミズキの曇りのない真っ直ぐな視線を受け、タツミは嘘ではないと信じた。

「だとしても、多くの異能者を誘拐したのは間違ってる。そんな手段しかないなんて、おかしいだろ」

「甘いんだよタツミぃ。だけどそれでいぃ。オマエはそのまま真っ直ぐでいろぉ。それがアイツの傍でアイツを守るのに相応しいからよぉ。いいかタツミぃ、オレは今からあの扉のさらに奥に向かう。オマエは着いてくるなぁ。オマエはここで、オレのやることをよく視てろぉ。オマエにしかわかんねえこともあるからよぉ。というか、そのためにオマエをここに呼んだんだからなぁ」

 ミズキは身を翻しタツミに背を向けてこの空間へ入ってきた入り口へ向かい扉の向こうへと姿を消した。

「よく視てろか。納得できないことは多いけどお前がそういうなら視ておこう」

「タツミくん、大丈夫?」

 ミズキの姿がなくなるとレイはタツミのもとへ駆け寄った。

「ああ、レイ、大丈夫だ」

「見た感じ大した怪我もなさそうね。よかったわ」

 レイは安心したのかひとつため息を吐いた。

「結局、ミズキのはっきりとした目的はわからなかったな」

「よく見てろって言ってたわね。それとさっきの戦いのなかで何か話してたわよね。変な表情してたけど」

「ああ、それな。あいつが自分は俺の知ってるミズキじゃないって言っててな。何を言ってるんだと思ってつい一瞬気を抜いてしまった。いや恥ずかしい限りだ」

「え、ミズキじゃないって言ったの?」

「たしかね。変な冗談言うよな、まったく」

 笑うタツミとは裏腹にレイは神妙な面持ちで口を閉ざした。

「レイ、どうした?」

 タツミはレイの様子がおかしいのに気付いた。

「たぶん、あいつが話してもいいと判断したんでしょうね。タツミ君、彼は本当にミズキじゃないのよ」

「おい、レイまでどうした」

 タツミはからかわれているのかとも思ったがレイの真剣な眼差しにその考えは払拭した。

「説明するわ。少し記憶を遡る必要があるけど」

 タツミは無言でレイの続ける言葉を待った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ