魂の守り人3
ミズキの依頼でクラスメートとレイを尾行するタツミ。
そしてレイの異能も判明、タツミは重大なことに気付く。
放課後、タツミはレイを尾行していた。
「なにやってるんだろうな」
哀しみとも虚しさともとれぬ気持ちの悪い感情が胃を重くしていた。なぜタツミがひとりで行動しているのか。答えは簡単でミズキがレイを苦手としているからだ。〝なんか目付きが怖えよぉ〟と言いつつ自身の目付き並びにガラの悪さには気づいていないのがミズキという男だ。
そしてもうひとつの理由としてタツミの女性に対してのコミュニケーション能力の低さだ。
「なんて言えばいいんだよ。ポケットの中身を見せてくれって言ったって場合によっては変態扱いだ。くそ、どう声をかければ」
このような葛藤を抱きながら放課後を迎え、声を掛けられぬまま後をつけ、結果的にひとりで尾行しているという形になったのだ。
レイが公園を突っ切る。遮蔽物が少ないためタツミは少し距離を取った。
「公園から出たな。よし」
タツミは足早に公園内を通過しようとした。しかし突然小さな砂嵐が目の前に現れた。
「なんだ?」
タツミはその異常現象に立ち止まざるを得なかった。幸い公園の中にはタツミ以外に人はいなかった。
そして突如として砂嵐が消えた。だがタツミは違和感を感じ、目を閉じた。タツミは空気が人型にぼやけて視えた。そしてそれがそのまま自分へ向かい突進してくるのを認識した。
「どうなってる」
タツミはかろうじてそれを躱し、人型の空気から距離を取った。すると、その人型の空気の隣で地面の土がみるみるうちに盛り上がっていくのが視えた。そしてその土も今度はタツミの2、3倍ほどの大きさの人型に固まった。
「なるほど。レイの力だな、これは。尾行に気づかれていたか」
タツミは自身の周りに円を描くように灰の物質を浮遊させる。異能を行使する際、どのような状況にも対応しやすいタツミにとっての基本の型だ。
「もしあいつの異能ならキリがないだろうけど」
「ならここはオレが引き受けるぜぇ」
タツミが身構えるのも束の間、公園内に颯爽とミズキが現れた。
「ミズキ。お前、レイは苦手とか言ってなかったか?」
「レイは苦手だがレイの扱う異能が相手っていうなら話は別だぁ。手伝わせてもらうぜぇ」
ミズキは両手に水を纏わせておりすでに臨戦態勢だった。
「そうか。ならここは任せた」
喧嘩っ早い、戦い好き、そんな男がやる気を出している以上、止めるのも一苦労だと思いタツミは素直に任せることにした。
「おうよぉ。バッジと身分証は任せたぜぇ」
「本来、役割は逆だと思うんだが。まあいい。任された」
タツミは素早くその場を後にした。
「アイツのことだからレイの方もしっかりマーキングしてるだろぉ。さてとぉ、そんじゃあ始めるかぁ」
ミズキの気配が高まり殺気を帯びる。人型をした風と土はその場から動かなかった。
「ったく。気付くのが遅えよぉ。主の方はたぶん気づいてるぜぇ。まあここでぐだぐだやっててもしょうがねえ。拳で語り合う方が早いこともあるしなぁ。オレがなんでここにいるのか、教えてやるよぉ」
ミズキは圧倒的な量の水で公園を取り囲むように渦を巻く。
ミズキの異能は水。その水を自由自在に操る操作力、水を異能として出力できる異能量、そして本人の戦闘能力を加味された総合的な階級はSクラス。ひとつの区画に多くて2人しかいないとされる貴重な戦力である。
「レイの異能として収まってるようなやつらには負ける気がしねえなぁ」
そんな男がやる気を出している以上、勝負は一瞬で着いてしまうのだ。
タツミはレイを追いかけて比較的通行人の少ない準工業地帯に来ていた。
「こんなとこにまで来てるとはな。ぎりぎり1区内ではあるけど」
タツミは周辺の景色を見渡しながらゆっくりと歩く。小さな工業系の建物が立ち並ぶ。空には雲が出現してきておりうっすらと陰り始めている。
タツミが行きついたのは廃工場。といってもほとんど取り壊されており工場だった面影はほとんどない。その土地のど真ん中にレイはただ静かに立っていた。
「レイ」
タツミが呼びかけるとレイは自身のポニーテールを揺らしながらひらりと舞うように振り向いた。
「あら、タツミ君。早かったわね」
レイは何食わぬ顔で微笑んだ。隠れて悪戯をする子どものような無邪気さすら感じられる。
「レイ、ちょっと話があるんだ」
「話? 聞いてもいいけど、その前にストーカー行為の罰を受けてもらわないと」
「罰?」
「ええ。私の異能は知ってるかしら?」
「ああ、たしか魂。通称ソウルインサート、だろ」
「その通り。魂を5つまで創造してストックしておくことができるの。その魂は自然界の物質に宿らせることができる。さて、ここで問題。私は今、訳あって使える魂は3つ。うち2つはさっき辰巳くんを振り払うために公園に置いてきた。そうね、私は創った魂それぞれに憑依が得意な系統を定めてるわ。さっきのは気体系と鉱物系。さて、ここにもう1つある魂、これは何への憑依を得意としているでしょう?」
まるでクイズ番組の司会者のごとく人差し指を立ててタツミへ質問する。
「多様性を考えて空気、鉱物以外となると、そうだな、火炎系とか?」
「残念。違うわ。でも生活に関わるレベルであるという考えはいいわよ」
「じゃあ電気か?」
レイは嬉しそうに両手を合わせた。
「正解! それじゃあ次の問題ね。手っ取り早く電気を集めて相手に攻撃を加えるとしたら、どういった手段がいいと思う?」
「電気で攻撃ねえ。静電気とかもあるしその辺から片っ端に集めればいいんじゃないか? いや、それでも十分な電力かと言われると微妙か。おい、まさか」
タツミは恐る恐る上空を見上げる。
「ああ、嬉しいわ。正解よ」
先ほどよりも嬉しさを通り越し恍惚とした表情を浮かべた。レイの性根はきっとSなのだろうとこのときのタツミは思った。
上空の暗雲から閃光を放ちながら巨大な電撃が降ってくる。まさに雷そのものだ。
「まったく」
タツミは天に手をかざし、灰の物質を放出し雷との障壁となるように一帯の上空に広げた。それは落雷を受け止め、そのまま霧散させた。周囲の電気系統に一時的な障害が発生していたが瞬時に回復した。
「さすがね。未知の物質を創る異能、いわばアルケミー。人を守ることだけを考え抜いた最硬の物質。電気なんて通用するはずもないわね」
レイはゆっくりと小さな音をたて拍手をした。そしてポニーテールに束ねていたゴムをほどき、髪を下ろした。
タツミはそんなレイをまじまじと見つめる。
「まさか」
そのとき、タツミの心臓は強く脈打った。