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EDEN-箱庭の逃亡者-  作者: 春野ミズ
2/13

魂の守り人2

新人類開発地区、その第1区に設置されている異能取締委員会第1支部へタツミは事件の報告のため訪れる。

そしてミズキが大きなミスを犯してしまう。

 タツミはとある小さなビルの一角を訪れていた。

「お疲れ様です」

 扉を開けオフィスのような空間に入り、大きめの声で挨拶をした。

「遅えぞぉ」

 真っ先にミズキが出迎える。

「いや、悪い。つい話し込んでしまってな」

 タツミは片手で手を合わせるような素振りをして、傍にあったソファに寝ている男性を確認した。先ほど廃ビルに置きっぱなしにしてきた男だった。

「おお、ちゃんと回収してくれてるな」

「当たり前だろぉ。そのまま野に放ったままだとオレ達の責任になっちまうだろうがよぉ」

「ありがとう」

「いいってことよぉ。奥で支部長が待ってるぜぇ」

 ミズキが指さした方を見ると大柄な男が1人、パソコンと向かい合っている。


 タツミが訪れているのは新人類開発地区の中でも最初に設置された第1区を担当する異能取締委員会である。

 大陸中央に位置するこの地区はそれぞれ4区の一部地域からなっており、1区に1つの学校が置かれている。

 異能者の集まる地区の特性として治安が悪くなり甚大な被害を生じてしまう可能性も少なくはない。それを予防、阻止する目的でこの委員会は設立された。ここはその第一支部である。

 もともとミズキの入学時の好成績を耳にした支部長がミズキを勧誘し、ミズキがタツミを道連れに委員へと引き込んだのだ。


「支部長、異能の不正使用で1人連行しましたよ」

 タツミは支部長のもとへ歩み寄り先ほどの件の報告を済ませた。

「うむ。ご苦労。というより連行は他の人がしただろ」

「バレてましたか」

「ったく。まあいい。すでに騎士団は呼んである。あとは引き渡すだけだ。ガキどもの見張りはしておくから適当に解散していいぞ」

 支部長は椅子に座ったままタツミの顔を見て返事をした。基本的にパソコンの前に座ったまま立ち上がることのない男だ。いつもパソコンでゲームをしている姿をみてタツミは半ば呆れるとともに緩い雰囲気で活動できることに安心していた。

「わかりました。それじゃあ」

「ああ、待て」

 支部長は思い出したように手を叩く。

「なんでしょうか」

「お前、同じ学校の女子の前で異能を使ったんだって?」

「ミズキから聞いたんですね。たしかに使いましたよ」

「ふむ。それで、その娘の反応は?」

「少し驚いていました。でも話してみると別に迫害されているような感じはしなかったです」

「いい娘みたいだな。それで、学校でも公表するのか?」

「それは悩んでいます。皆が皆、レイのような人とは限りませんから」

 タツミはうつむいた。いつかは話さなければいけないと思いつつもなかなか踏ん切りがつかないでいた。

「たしかにな。以前よりはだいぶマシになったが、やはり今でも自然覚醒した異能者は異端児扱いされている。そういった子はそもそもこの地区には来ないものだが。稀によく知らずに来てしまう者がいるのも事実。まあどうするかはお前が決めることだ。俺がとやかく言う資格はないが、心配する資格ぐらいはあると思ってる。お前の上司としてな。だからまあ、あれだ。たとえ良くない結果になったとしてもお前にはこの場所がある。俺が言いたいのはそれだけだ」

「ありがとうございます。支部長もたまにはいいこと言うんですね」

「ったく。お前たちはひと言余計だ。気を付けて帰れよ」

 支部長が親指を立てて拳を突き出した。タツミも同じように拳を作り前に出す。毎回行われるこのやり取りに全く意味を見出せずタツミの中ではただの流れ作業と化していた。

「はい。お疲れさまでした。」

 そしてタツミはミズキとともに第一支部を後にした。


「今日もゲームしてたなぁ」

「いつものようにレーシングゲームみたいなやつだったな」

「空中を飛び回るやつなぁ。オレはゲームといったらFPSだけどなぁ」

「ミズキは異常に上手いもんな。俺はああいうのは苦手だな。敵に照準合わせるの難しすぎないか?」

「そこは慣れだぜぇ」

「まあそうなんだろうけど。でも、一緒に連れて歩く人を守りながらとかもう無理だろ」

「ああ、あのゾンビだらけになるところ、オマエ何回しても突破できねえもんなぁ」

 ミズキはけらけらと笑った。ミズキのゲームの腕前(FPSに関して)は確かに尋常ではないことは素人のタツミにもわかっていた。逆に自分の実力が壊滅的であることも自覚はしていた。

「連れの女が弱すぎる。もう少し自衛してほしいもんだ」

「オマエぇ、ゲームと現実じゃキャラ違うよなぁ」

「ゲームで操作しているキャラは自分じゃない。しかもスペックも違いすぎる。現実と同じ様にはいかないだろ」

「いや、そこを楽しむんじゃねえかぁ。じゃあよぉ辰巳はどんなゲームならいいんだぁ?」

「やっぱりRPGだな。世界の隅々まで探索し尽くしたいじゃないか。それで大したボリュームもないとがっかりするけど」

「ああ、オマエの探求心は海よりも深いからなぁ。そういうものが合ってるのかぁ」

 ミズキは何度か頷いた。

「そういうことかもしれないな」

「まあまたオレん家でゲームしようぜぇ。またボコボコにしてやるよぉ」

「できれば銃を使わないタイプのゲームで頼むよ」

 タツミは苦い顔をしてミズキはそれを見ておちょくっているかのように笑みがこぼれるのだった。


 タツミらの所属する異能取締委員会は専用のバッジと身分証が与えられる。バッジは傍から見ても一目で取締委員だと判別できるように、身分証は個人と所属支部がわかるように写真つきのものとなっている。だが、基本的には取り締まりの対象者は一旦各支部に連行され、そこで騎士団に引き渡している。支部には顔パスで入ることができるためあまりこの身分証を使うことはないのだ。

 取締委員には不法行為をしている者、またはそれが疑われる者を鎮圧し拘束、連行できる権利が与えられている。その権利を有した身分を証明するバッジと身分証はこの上なく貴重なものであることは確かだ。


「やべぇ。なくしちまったぁ」

 そしてミズキはこの日、バッジと身分証をなくしてしまった。

 ミズキは学園に到着したときに気付いた。平静を装って席に着いてはいるが内心冷や汗をダラダラと流している。

(どうするぅ? とりあえずタツミに探してもらうかぁ)

 心ここにあらずといった状況で昼休みを待った。

 昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴り響くとミズキはCクラスを飛び出してタツミのいるFクラスに向かった。


「それで、タツミ君の異能はどういうものなの?」

 昼休み、タツミは同じクラスのレイに尋問を受けていた。もちろん周りの生徒には聴こえない程度の声量でだ。

「言わないとだめか?」

 タツミは苦い表情で答えた。

「別に答えてくれなくても支障はないけど、秘密にされているのはなんだか悲しいわ」

「ああ、ごめん。そうだよな。俺の異能はひとことで言うなら鉱物系だよ。正確には少し違うからFクラスでも問題はないんだろうけど」

「それはまたどうして? 見るからに鉱物系だったけど」

「ああ。あれはこの世界にある物質の構造を参考にして作り上げたオリジナルの物質なんだよ。この前出したのはただただ硬さを求めた物質。やろうと思えば柔らかさやしなやかさ、透過性の高い物質とか作れなくはないんだよ」

「へえ。鉱物というよりは異物の創造ということね。納得したわ」

 レイは満足げに頷いた。

「あまり驚かないんだな」

「え? そうね。そもそもこのクラス自体、普通の異能者がいないもの」

「そういうことか。レイの異能もかなり珍しいよな」

「……そうね。私のは」

 レイが話し出そうとした途端、教室の扉が勢いよく開いた。

「タツミいるかぁ!」

 同時にミズキのよく通る声が響く。

「ミズキ。昼休みに珍しいな。しかもあの慌て様、只事じゃなさそうだな。悪い、ちょっと行ってくるよ」

「え、ええ」

 タツミは足早にミズキと教室を出ていく。

「ミズキ、か」

 レイは2人が去っていく様子を意味深な表情で見送った。


 タツミとレイは屋上に移動した。

「なんで屋上?」

 タツミが疑問を口にする。

「ここだと風の音もあるから小声で話せば誰にも聴かれずに済むからよぉ」

 辺りを見渡すと昼食を摂っている生徒がちらほらと居た。

「その言い方、やっぱり深刻な問題か?」

「ああ。実はな、取締委員のバッジと身分証を失くしちまったぁ」

 ミズキは眉間に皺を寄せ俯く。タツミは少し冷めた目でそれを見た。

「そうか。どんまい」

 タツミはひとことそう告げてその場を去ろうとしたがミズキからがっちりと両手で腕を掴まれる。

「頼むってぇぇぇ。オマエの眼で探してくれよぉぉぉ」

 ミズキが飼い主に見放された子犬のような目つきでタツミにせがむ。

「ああ、わかったわかった。冗談だって。そんな目をするなよ気持ち悪い」

 なんだかんだで面倒見のよいタツミは口を歪めながらもミズキの両手を優しく解いた。

「さすがタツミぃ。話が分かるぜぇ」

 タツミは呆れてため息をつく。

「で、いつ失くしたことに気づいたんだ?」

「おう。学校に着いてからだぁ。正直バッジはブレザーに付けたままだし身分証はポケットに入れっぱなしだからよぉ、いつ失くなったのかさっぱりだぁ」

 ミズキは両手を上げ、お手上げ状態であることをわざとらしく演じた。

「そうか。家で失くした可能性もあるけど一応この学校も視ておくか。万が一、他の生徒に盗まれでもしていたら大変だからな」

 タツミは目を閉じて少し下を向く。ミズキはその様子を静かに見守る。5分ほどしてタツミが目を開ける。

「どうだったぁ?」

「ああ。生徒が持っている」

「マジかよぉ。どっかで落としちまったかぁ。で、誰だかわかるかぁ?」

「レイだ」

 タツミの答えにミズキは苦い顔をした。


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