神の子3
エミリア達と今後の方針を確認する。そして第一の任務として男禁制の第3区へと赴くこととなる。
週末の休日、タツミとミズキ、レイの3人は取締委員会へと赴いた。
「なんだよォ、用ってのはァ」
エミリア、マヤ、支部長の姿を確認するなりミズキが柄の悪い絡み方をする。
「目下の任務が決まりましたのでお伝えします」
エミリアが答えた。
「たしかにレリックを集めるとは聞いていたけど、具体的に何をするのかは聞いていなかったわね」
「その通りです、レイさん。先日は大まかな話をして貴方達の意思を確認するためでした。本格的な始動は本日からだと思ってください」
「わかったから早く本題に入れよォ」
「わかりましたよ。せっかちですね。ではまず、第3区の区長、つまり現騎士団の団長に会いに行きます」
タツミ達の頭には疑問符が浮かんだ。
「エミリア、なぜ騎士団団長への謁見が必要なんだ?」
「簡単に言うと私達の目的に賛同、協力していただくためです」
「おィ、オレ達だけじゃあ不安だって言いてえのかァ?」
「ミズキ、そういうわけではないと思うぞ。レリックがアトランティス大陸に多く存在しているとして、アトランティスの主戦力がレリックである可能性は高い。異能者と同等以上の力を持っているのなら人手は多い方がいい。ましてやレリックを集めるんだ。大陸全土を敵に回してもおかしくはない。最悪戦争にでもなった場合、騎士団の協力は必須だ」
タツミは冷静にミズキを諭した。
「タツミさんの言う通り、万が一の事態に備えてのことです。ついでに言うと災厄を引き起こした際に首尾よく国民を避難、保護するためです」
「そういうことなら、たしかにオレ達だけじゃ数が足りねえなァ。それで、第3区にはいつ行けばいィ?」
「できれば今日にでも行っていただきたいです」
「えらく急ね。ああ、もしかして年度末だからかしら?」
レイはなにかを思い出したようで納得の表情をした。
「そうです。来月は4区対抗戦があります。それに貴方達にも出場して頂く予定です。なので第3区のことは、忙しくなる前に片付けておきたい案件なのです」
「急だけどさっさと済ませるとしようか。対抗戦のことはそれが済んでからエミリアに聞くことにしよう」
「そうね。あ、その前にタツミ君とミズキ君はこのまま第3区へ行っても大丈夫なのかしら?」
レイの疑問にエミリアが答える。
「それに関しては女装用に制服を用意しています。ただミズキさんに関しては顔立ちからして男だとすぐバレてしまうでしょうから、今回は隠れながら潜入していただきます」
「いくら第3区に女性しかいねえからってそこまでする必要あんのかよォ?」
「あります。第3区は無許可での男性の立ち入りが禁じられており、もし発覚すれば騎士団から罰が下ります。一応許可は取っていますが末端の団員まで通達されていないかもしれません」
「念には念を入れてか。それにしてもまさか女子の制服を着ることになるなんてな」
タツミは躊躇いなくエミリアから女子用の制服を受け取った。
「なんでオマエは抵抗なく着ようとしてるんだよォ」
「抵抗がないわけじゃないけど、あまりこういう経験もできるものじゃないだろ。じゃあ早速着替えてくるよ」
タツミは制服を持ったままトイレへと向かった。
「ところでエミリア区長、ひとつ質問があるんだが」
「どうしました? リチャード支部長」
リチャード・カルロス。第1区異能取締委員の現支部長で、タツミらの上司である。ここまで無言で話の成り行きを見守っていた彼が挙手をした。
「タツミとミズキを第3区に送るのは期間としてはどれぐらいだ?」
「基本的には本日中。けれど団長がどのような対応をするかで変わります。万が一拘束されるとしても学生ですからそんなに長くはならないと思いますが」
「じゃあその間の第1区の取り締まりは誰がするんだ?」
「下らない質問ですね。そんなの貴方がすればいいでしょう」
「だよな……はあ……」
リチャード支部長はあからさまにがっかりした。
「拘束される可能性があるの?」
レイがエミリアに質問した。
「言い方が悪かったですね。拘束といってもあちらの城に泊まっていくように言われる可能性がある程度です。第3区の区長は人を試すというか、実力を測りたがる方なのです。今回はこちらが協力を要請しにいく立場ですから、彼女の要望にはできる限り応えるようにしてください」
「わかったわ。貴方は行かないのよね?」
「申し訳ありません。立場上、第1区を長く空けるわけにもいきませんので。代わりにマヤを同行させます。第1区区長の代理人として」
「そういうことなら仕方ないわね」
「レイ、そういうことだからよろしくね」
「え、ええ。よろしく」
マヤの口調がいきなり馴れ馴れしくなったことに対してレイは面食らった。
「ごめん。馴れ馴れしかったかな。タツミはこっちの方がいいってことだったからつい」
「いいえ、いいのよ。私もそっちの方がいいと思うわ。見た目は私達よりも若いのだもの。変に堅苦しくなると違和感があるもの」
「ありがとっ!」
マヤが何百年も生きている神とは思えぬほどの無邪気な笑顔を見せたとき、丁度タツミが戻ってきた。
「楽しそうだな、マヤ」
「タツミィ、オマエの格好の方が十分愉快だぜェ」
ミズキが複雑な表情でブレザーにスカートを身に纏ったタツミを見た。
「あら、結構似合ってるじゃない」
「うんうん! かわいいよ」
レイとマヤは特に抵抗なくタツミの身なりを受け入れていた。
「レイとお揃いの制服になったな。クラスメートという設定で行こうか」
「もともとクラスメートだし設定が変わったのは性別だけでしょ」
「たしかにそうだな」
タツミから笑みがこぼれた。
「オレの知らねえうちにタツミがオカマに近づいていってやがるゥ……」
ミズキだけはしばらくひとりでぶつぶつと呟いていた。
「さて、出発前に大事なことを伝えておきます」
タツミが女子用の制服のまま支部を後にしよとした際、エミリアが後ろから声をかけた。
「なんだ? 改まって」
「タツミさん、貴方は我が第1区の秘密兵器のような存在です。私自身、貴方の能力があれほどとは知りませんでした。そしてその力を上手く隠せています。ですので……」
「今まで通りに異能は使えない、あくまで戦闘ランクはA、ということにしておけばいいんだな」
「理解が早くて助かります。あの棒切れ程度であれば隠し持っていたと思わせられるので使っていただいて構いません。そしてミズキさん」
エミリアがミズキを見る。
「貴方は主戦力です。力を使う場面があれば派手に使ってください。貴方がSランクであることは公表されていますので問題ありません。むしろ注目を浴びすぎるぐらいでいいのです。タツミさんの力に目が行かないように」
「あまり器用なことは得意じゃねえからなァ。丁度いい役割分担だと思うぜェ。それで、レイはどうすんだァ?」
「レイさんの異能も本来はシークレットですが、神の力ではなく人の異能として公表していますし今さら隠すのもかえって不自然です。ですが人間に魂を入れていたことに関しては外部に漏らさないように」
「まあそうでしょうね。了解したわ」
「では、マヤをよろしくお願いします。お気をつけて」
タツミ達はエミリアとリチャード支部長に見送られ支部を後にした。