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フィラデルフィアに、指に巻かれる針金がありました。
暗い表情で、机の前に向かい、ただただ巻き続けていました。
目の前には分解されたピストル。部品のバネが床に転がりました。
何人もの人に向けたもの。弾丸を向けたもの。
やってしまった現実。
一瞬でも逃れようと、巻き付けてました。
単純な作業に溺れ、逃げようと。
殺し屋。
そうなってしまった者。
あまりの空腹と貧困で、人の一番大切なものを奪うようになった者。
音。
血を流し倒れる人影。
うめく声。
焦げたような匂い。
最後の最後、こっちを見てきた顔。
顔。
顔。
顔。
その目。
見開いた目。
感触残る引き金。
いつしか麻痺して慣れると言われたそれは、頭から離れないようになっていました。
頭を机に打ち付け、トーンとかすかな音。
指に巻き付けた針金が、縦に落ちた音。
トーン。
トーン。
トーン。 トーン。
トーン。 トーン。 トーン。
トーン。
トーン。
10の指から落ちた針金が、音を出します。
それに続いて、音。
トン。
トン。
短い、精巧な作りのバネが、弾んでいます。
ピストルの部品の、バネ。
男が指に巻いた針金と、ピストルのバネが、奏でます。
トーン。
トン。 トーン。
トーン。 トーン。
トーン。
トーン。 トン。
トーン。
トーン。
トーン。
トーン。
見とれます、夢か現か、薄暗い部屋の中、心地良いリズムの中で。
バネは、いつしか音を止めました。
どこにも見当たりません。
男もまた、同じように。
ただ喧噪の中に耳を澄ますと。
トーン。
トーン。 トーン。
人影と共に。
トーン。