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フィラデルフィアの夜に、針金が傷つきます。


 南方で見つかった不可思議な仮面が美術館にて展示されます。

なぜ作られたのか、どのように使われたのかまるでわからず、蛇と百足が数十と波打ち、見る人の心をざわつかせる物でした。

何よりその仮面の口にびっしりと生えている歯はどうにも人間の歯であるようです。

その様はより一層に嫌ったらしさを強めていました。

 それでもその仮面を見たいと、展示される事になりました。

この街の美術館は最初の展示となったのです。


 初日は招待された者だけが夜中に展示を見る事ができるようひっそりと扉を開かれましたが、仮面の魔性如き雰囲気に人々は招待されていない者さえも集まり、群がり、犇き、熱狂します。

職員の静止も振り切り、その仮面の前には押しつぶされそうになるくらい人々に殺到を続けて。

 仮面はこれ以上にない頑丈なケースに入れられ、ほんのわずかな隙間もなく密閉されていなければ危険だったでしょう。

 数十、数百とある人々の目が凝視していたその時でした。

針金がその仮面の傍らに伸びてきたのは。


 ケースの中、誰も何もできません。

それでも針金は伸び続ける。数か所同時に。

ケースが載った台の下に何もなく、仮面の下に敷かれたシートにここまで大きく伸びる量の針金が潜んでいたとも考えられない。

 職員の静止にも人々は関わらずケースを揺らし、叩き、蹴り上げる。

それでも針金は伸び続け、何かを形作る。

いくつもの伸びた針金が組み合わさり、作られたのは顔。

三つの人の顔。

その口からは何かが聞こえてくる。

 周囲の怒声、罵声を超えて呟く様な、祈りの様な、祝福の様な言葉が三つの口から紡がれていく。

紡がれ語られる、誰も知らない言葉。

美術館にいる全ての人がいつしか聞き入っていた。


 しばらくして言葉は途切れ、終わる。

三つの人の顔は、また針金へと戻る。

そして一つのナイフへと姿を変えた。


「あっ」


 とそこにいた全ての人々が息を飲み、何もできないまま仮面は切り裂かれた。

ぱか、とふたつに割れて。それに続き、歯が一本落ちました。

 無闇な熱量が消え、気が抜けた人々は力なく帰途に就きます。

あの仮面からは特有の嫌ったらしい魔性と言える雰囲気は薄められ、次の日からは見守るような眼差しの人々だけが訪れるようになりました。


 この出来事の一部始終は監視カメラや訪れた人のビデオに収められ、あの三つの針金の顔が紡いだ言葉はもう話者がいなくなった言語のまじないだとわかりました。

 またふたつに割れた仮面は修復できたものの、一本抜けた歯だけはどうしても元に戻らず、すぐ抜けるのでした。


 そして、仮面についてもこの出来事についても、いつまでも何もわからないままでした。


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