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フィラデルフィアの夜に、光が輝きます。
街々は莫大なエネルギーを投入して装飾を輝かせ、この世のすべてをまるで煌めかせているかのようです。
そんな寒い夜の片隅に、一人うずくまっています。
誰も気づかれず、たとえ触れてもいないものと扱われる存在でした。
好かれるわけでも、嫌われるわけでもなく。
見えないものとして。
街の光の中であっても。
その男はこの世にあって気にも留められないままです。
飢え。渇き。寒さ。絶望。
そんな言葉が軽く思える状況の中、ただ座り込んでいるだけでした。
無限に思える人々が行きかっているのに。
ずっと無気力に見ている地面。
そこに何かがあります。
街の光を浴びている人々には見えない、光を目に捕えました。
手を伸ばす。
なんだ。
一片のビニールの破片が、風に逆らって進んでいる。
摘まみ上げた。
その破片が酷く暴れ、指から落ちる。
どこに落ちたか。見渡すと。
歩く人々の足元。見もしない空間。
そこには無数の輝く光が、進んでいる。
一方向へ。
ビニール、金属片、プラスティック。
光を反射させる、破片。
それらが、気づかれることなく進んでいく。
男はポケットをまさぐる。
ゴミばかり出るポケットから、アルミ箔を取り出す。
転がしてみるも、ただ転がるのみ。
いや、何かが素早く飛びついている。
歩み出した。
男はもう一つアルミ箔を取り出し、その光と共に歩き始める。
人が走るより遅く、歩くよりは早く。
光は進む。
男を引き連れ。
街灯りの雑踏から物陰へ。
男と共に。
暗渠へ入る。
男を友に。
そして、漆黒へ。
反射して光るはずの破片たちが、闇の中で光り続けている。
真っ黒な狭い湿った空間を、男は腹ばいになって進んでいる。
どこからともなく集まった光の破片が集まり、光の大河となって、その中を男は泳いでいく。
広い空間に出た。
輝く光にあふれた世界に。
壁も床も、男の体さえも。
きらめ輝いている。
膨大な光は、それらの破片を蟻のように細い針金が持ち上げ、掲げているのを見せつける。
金属、プラスティック、ビニール、アルミ箔。
どこにも、どこからも光は差し込んでなんかいないのに。
それらが、光を放っている。
そして、一斉に。
わっ、と歓声を上げるかのように。
光が、天へ昇っていったのです。
青い空が、見えました。
男の目に、ようやく太陽の光が差し込んできたのです。
どれくらい、深い光が差し込んでこない下水の底にいたのでしょう。
男はずっとあの光の洪水を思い起こしています。
太陽の光もましてや街の光も及ばない、あのきらきらの光を。
指に挟んでいるアルミ箔だけは、事実だと伝えているように思えました。




