84
フィラデルフィアの夜に、稲妻が落ちます。
何も見えない夜の事です。
酷く静まり、いつもある喧噪さえ聞こえてきません。
じっとりと湿った空気が重りとして圧し掛かってきます。
光。
突如として。
光。轟音。
稲光が落ちた。
雷。
突如として大雨が降り注ぎ、稲妻もまた爆弾の如く着弾する。
雷
何かが、煌めいた。
雷。
何かが、うねり、歪み、この地の土の中から出てくる。光を帯びて。
雷。
輝く細長い何かが稲妻の弾着のたびに、見える。
雷。
蛇の、蛞蝓の、蚯蚓の、蛭の、その如くのたうち、這いずり。
雷。
蛇の、蛞蝓の、蚯蚓の、蛭の、その如くのたうち、這いずり回り蠢き犇き。
雷。
這いずり周り蠢き犇き、何かを形作ろうとしている。
稲光が雷光が、白銀に反射させる。
這いずり回り蠢き、細い細い銀色の針金が何かの意思に従い、動く。
それは、十本の棒を作り。
十本の棒の土台を作り上げ。
合掌した。
大きな雷鳴。雷光。稲光。轟音。
合掌する、祈りを捧げる手の形が、ぬかるんだ土の上に作り上げられています。
その向こうには人の顔に見える汚れが、壁に描かれていました。
煤と汚れとカビによって、まるで誰かが描写したかのような、悲しそうな、微笑んでいるかのような、御顔が。
大雨が涙として、全てを流し去ろうとするかのようです。
大きな雷、稲妻が漆黒の中、照らし続けました。
光。
朝日が、一筋入り込みます。
澄んだ空気の中、祈る何者かの顔と手がそこにはありました。
誰もまだ見つけていない、祈りが。




