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 フィラデルフィアの夜に、針金が踊り出しました。

それは一人の白い服の浅黒い肌の男。

 異国の歌をかすかに口ずさみ、足を遠心力につけて振り回しています。

かすかに人の形を取る針金が、男に合わせ、足を高く振り上げ空気を切り裂きました。


 誰もいない街角。

誰も入らない突き当たり。

白い服の浅黒い肌の男が、針金を手に現れ、それを放り投げました。

 動き出します。踊り出します。

知られていないステップで。知られてない腕の振り方で。

後ろを振り向き屈み、足を人の頭の高さに。

両手をついて、逆立ちして回転力のままに両足伸ばして、独楽のよう。

片足着いて、もう一方、人の顎、その高さ。


 ピュンピュン音鳴り出す。

針金、人の形作りだし。

男のステップ。男の腕の振り。そのままに。

針金足蹴り上げ。

男はそれに合わせて足、下、伸ばし。

針金飛び跳ね、横回転。蹴り。

屈んで男、つま先、天に向け。

ねじり避け、針金。着地して距離を取る。


踊る男。踊る針金。

回る針金。回る男。

 歌う男。歌う針金。

男はペレレ、ペレレと口ずさむ。

何の意味なのか、何の歌なのか。

針金、ピュン、ピュンとリズム。

同じ様に、同じなリズミカルに。


 それは奴隷の踊り。

舞いとして隠した、祖先の闘いの武器。

遠く離れたここ。

孤独なここ。

今はただ、針金と踊る。



 男が去り、また静かに。

針金はただ、地面に転がる。




 もういない。

男はもう来ない。

 本当に誰もいない街角。

誰も来ない突き当たり。


 ただ針金が、そこに。

ただ針金がそこに立っている。

細い針金に、廃材を絡みつかせ、毅然と立つ。


 誰も来ない、そこ。

男が、誰かが来るのを。

見つけてくれるのを。

踊ってくれるのを。


今は、じっと待つ。

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