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フィラデルフィアの夜に、針金が弾けます。


 もう真っ暗になった街中。

その一角にある廃屋を壊すため、重機がゆっくりと進んでいきます。

本当なら作業をすることのない時間、延々と続いたトラブルのためにこんなにまで遅い時間になってしまいました。

明日に延期されるはずが、作業員も現場監督も役人も警察官も野次馬までもがらんらんと目が輝き、必要以上にライトが燃え上がるばかりに照らされ、壊される廃屋が夜の中浮き上がります。

 鉄球。

それを吊るしたクレーン。

真夜中の街にあるまじき轟音を立てて、廃屋を突き崩しました。

 その刹那、光が弾けたのです。


 光が弾けた。

それは廃屋の破壊された部位から。

そこから白く輝く光線が踊る様にのたうちながら、廃屋の木材から出てくる。

 同時に人々が殺到した。

規制線を押しのけ、作業員も警察も野次馬もその光に向かって走り出す。

廃屋からは焚きあげられたライトよりもまばゆい光が溢れに溢れ、人々は夜行昆虫の如く殺到し続ける。

 廃屋からの光が、ついに人々に触れた。


 その時、人々の頭から体から、光る線が飛び出したのです。


 その場にいた全ての人々の頭から体から、線が飛び出したその瞬間。



パン




 光がまばゆく弾け飛びました。この世から影と闇が消えたと思える程。

そして光が消えました。

もう真っ暗です。

 何も見えません。

あれだけ光にまみれたのです。目は夜を拒否し、何も見えなくなっていました。

燃え上がるばかりのライトも、廃屋の光も、人々の頭から体から出てきた光の線も消え、それどころか周囲のあらゆる光が失われていました。

携帯電話の電源も切れ、街灯も力を失って。


 人々は右往左往しながら、警察と作業員の声を耳に捕らえながら、安全な場所まで下がっていきます。

今さっきまで自分が一体何をやっていたのか首を捻りながら。



 朝になり、廃屋の木材には奇妙な事に膨大な量の針金が寄生虫が巣食うかのように中に通されていました。

またこの現場にいた光る線を頭から体から出した人々の頭と体には木の枝の如く針金が生えて、伸びていました。

病院に行き、また大工道具で頭から体からの針金を切り落としながら、不思議に思い続けます。

 この針金がライトに照らされ光輝いていたのでしょう。

それにしてもただただ不思議な夜の出来事でした。


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