表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/87

65

フィラデルフィアの夜に針金が行進します。


 聞こえてくる喧騒。時々飛び込んでくる光。

誰にも気づかれない街の片隅で、虫の息が続いています。

次第に次第に呼吸は浅く弱くなっていきそれはもう死ぬ人の、もう助からない呼吸へと変わっていっています。

もたれ掛かり項垂れた様はどこか王様を思わせる。

でもその人に仕える人も、看取る人さえもいません。

細い呼吸が聞こえなくなりました。

最後の眠りへと就いています。

 夜、街の中で、一切の動きを止めました。


 その右腕だけは例外に。


 止まった呼吸を引き金に、右腕は動き始める。

肩から肘は操られる様に、手首は周り、指先は目にも止まらない。

指先からは何かを紡ぎ出し、組み立て、捻じりひねり、生み出していく。

飛び込んでくる光は生み出した何かを照らす。

楽器、それらを持った人たち。

針金の体を持った、楽器を携え演奏する。

指先からは何かを紡ぎ出し、組み立て、捻じりひねり、生み出していく。

光はさらに照らす。

動物たち。大小さまざまに。

陽気に跳ねて、走り回る。

指先からは何かを紡ぎ出し、組み立て、捻じりひねり、生み出していく。

光はさらに照らす。

色彩。まばゆく七色に彩る。

演奏する針金たちに、跳ねる針金たちに、踊る針金たちに。

項垂れる王様みたいな人に。

時々差し込んでくる光は、露わにする。

鮮やかなパレードを。


 針金たちの歌声と演奏のパレードは、街の喧騒にかき消され誰にも気付かれない。

それでも続く。動きを止めた王様を先頭に、飛び込んでくる光を七色に染め上げて。


 パレードは続いていく。

光が差し込まない闇へ向かって進んでいく。

闇に向かって飲み込まれていく。

闇に向かって沈んでいく。



 もう、パレードがあったとは誰も思いません。

ただ光が、あのパレードの余韻を刻みつけていました。

夜ごと夜ごと、差し込んでくる光。

差し込むたびに、七色があの街角を鮮やかに、色豊かに、彩っているのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ