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フィラデルフィアの夜に針金が行進します。
聞こえてくる喧騒。時々飛び込んでくる光。
誰にも気づかれない街の片隅で、虫の息が続いています。
次第に次第に呼吸は浅く弱くなっていきそれはもう死ぬ人の、もう助からない呼吸へと変わっていっています。
もたれ掛かり項垂れた様はどこか王様を思わせる。
でもその人に仕える人も、看取る人さえもいません。
細い呼吸が聞こえなくなりました。
最後の眠りへと就いています。
夜、街の中で、一切の動きを止めました。
その右腕だけは例外に。
止まった呼吸を引き金に、右腕は動き始める。
肩から肘は操られる様に、手首は周り、指先は目にも止まらない。
指先からは何かを紡ぎ出し、組み立て、捻じりひねり、生み出していく。
飛び込んでくる光は生み出した何かを照らす。
楽器、それらを持った人たち。
針金の体を持った、楽器を携え演奏する。
指先からは何かを紡ぎ出し、組み立て、捻じりひねり、生み出していく。
光はさらに照らす。
動物たち。大小さまざまに。
陽気に跳ねて、走り回る。
指先からは何かを紡ぎ出し、組み立て、捻じりひねり、生み出していく。
光はさらに照らす。
色彩。まばゆく七色に彩る。
演奏する針金たちに、跳ねる針金たちに、踊る針金たちに。
項垂れる王様みたいな人に。
時々差し込んでくる光は、露わにする。
鮮やかなパレードを。
針金たちの歌声と演奏のパレードは、街の喧騒にかき消され誰にも気付かれない。
それでも続く。動きを止めた王様を先頭に、飛び込んでくる光を七色に染め上げて。
パレードは続いていく。
光が差し込まない闇へ向かって進んでいく。
闇に向かって飲み込まれていく。
闇に向かって沈んでいく。
もう、パレードがあったとは誰も思いません。
ただ光が、あのパレードの余韻を刻みつけていました。
夜ごと夜ごと、差し込んでくる光。
差し込むたびに、七色があの街角を鮮やかに、色豊かに、彩っているのです。




