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フィラデルフィアの夜に、針金が惑わします。


 夜に、大急ぎで車が駆けていきます。

その中には顔を隠した男たち。その後ろには縛られた少女がいます。

物騒な夜、攫われてしまったのです。

 誰もいない森の中を車はますます速度を上げ、真っ暗闇の中へ中へと突き進んで行きます。

男たちが潜んでいる闇に沈み込んでいるかのような小屋に着き、車のヘッドライトがその小屋を照らしたその瞬間でした。

 小屋の前に、何かがいる。


 古い小屋、その入り口前。

何かが蠢きのたうつ。

警戒と共に男たちは近づいていく。

音もなくそれは立ち上がった。

針金だ。それが人の形を取って、立ち上がった。

そして、縛り上げたまま車の中に閉じ込めている少女の姿となる。


 一体なんだ。

男の一人が素早く車内をライトで照らす。

いない。

もう一度、小屋の前。

いない。

男たちの仲間がいるだけ。

消えてしまった、と茫然と口にして。


車の中、少女を縛っていたロープがテープが、転がっているだけでした。

少女の体と同じ量の針金が、絡みつきながら。







 誰も見ていない夜の闇の中。

針金が一本、地面から伸びてきました。

それは螺旋を描き、絡み捻じり、巻き上がり、立ち上る。

それは隙間なく合わさり、人形を作る。

色付き始める。それも本物の人間の色に。

色も形も本物の、本当の本物となっていく。

最早、それはあの誘拐されたはずの少女そのものでした。

 少女は気づきます。

ここは自分の家の近くだと。

それならあの誘拐された記憶はなんだったのか。

ちっともわからず、明るい光が零れるわが家へ入っていくのでした。

家族が心配して待っている家に。


 それを月だけが見ていました。

誰も何もわからない夜の出来事を、月だけが見ていたのです。


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