63
フィラデルフィアの夜に、針金が実を付けます。
仄かな光が減り始め、ついには真っ暗になっていきます。
時計はまだ午後5時。
外はまだ明るいでしょう。
倒壊した建物に閉じ込められた少年は早くもこの世の帳の様な暗闇に閉じ込められていきます。
暗い。
音はする。崩れる音。機械の音。
差し込んでいた光は消え、ただ音だけがする。
目を閉じているのか、開けているのか。
どれくらい時間が経っているのか。いないのか。
左手の時計。ボタンを押してバックライトを照らす。
午後6時。
時間が経たない。
バックライトを消すと、また帳。
暗い。
光
まばゆい光に目がくらむ。
外の灯りじゃない。
でも光だ。
真鍮線のような針金が隙間から延び、実を付けるかのように丸くなり、そこが光る。
また隙間から、針金が伸び始める。
それはまた別なものを形作る。
一人でに曲がり、くねり、捻じれ、束になり、何かを作り上げていく。
しばらく見つめていると。
人の、女の顔を作り上げた。
女は口を開け、銅線のような何かを少年に向けて伸ばしていく。
「うわあああああああああああああああ!」
少年の足が、針金の女の頭に当った。
ボキり折れた首。
もう動くことがなかった。
悪い事をしてしまったかもしれない。
少年の罪悪感が降り、闇の様に蝕み始める。
でも、光は何かを探し当てる如く照らす。
瑞々しい何か。
岩みたいに動かない女。
そこから実り出す。
突き出してきた針金の先に、食物が。
針金が途中から植物の枝となって。
数多くの果物が結実する。
またつける時計、バックライト。
午前6時、暗くなる。
午後6時、明るくなる。
針金が照らして、明るくなる。
針金が消えて、帳が落ちる。
また暗い。
どれほど時間が経ったのか。
またつける時計、バックライト。
午前6時、暗くなる。
午後6時、明るくなる。
針金が照らして、明るくなる。
針金が消えて、帳が落ちる。
また暗い。
どれほど時間が経ったのか。
またつける時計、バックライト。
午前6時、暗くなる。
午後6時、明るくなる。
針金が照らして、明るくなる。
針金が消えて、帳が落ちる。
また暗い。
どれほど時間が経ったのか。
光
太陽の光。
助けの手が、少年の元に届きました。
10日あまりの間、飲まず食わずのはずの少年が、予想外に肥え太っていたのに皆が驚きました。
少年の不思議な話を聞き、その穴の中を覗き込んだ人がいます。
何もないがらんどうで、ただ帳が落ちたかのように真っ暗だったと言うだけでした。
その後、倒壊した建物の瓦礫は何もなかったかのように片付けられます。
夜の帳が落ちた時間には、未だ誰も訪れる事がないまま。
ただ今は、空き地の荒野になっています。




