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フィラデルフィアの夜に、人々が殺到します。


 夜、叫びが、怒りが、悲鳴が轟く。

街の広場、そこに人が、人々が液体の様に溜まり、うねり、渦巻き、津波となる。

砕ける音に千切れる音、潰れる音に壊れる音。

人々が人でなくなる光景。

蛆虫の如く転がり、這いずり、またあの羽虫の様に本能のままに混乱へ飛び込んでいく。

警察も消防も救急も、あの中へ飛び込んでいく。

老若男女が半ば意識を失いながら。

 一か所へ。一点へ。

飲み込まれていく。

 月光に悶え絡む幼虫たちを思わせる。


それは一体何がきっかけだったのでしょう。

 それはあの広場に、一つの針金が転がった夜の事。

空から、何処とも知れぬ空から、一本の針金が落ちてきたのです。

 ただ輝く針金。

1つの目がそれを見つけ、2つが、3つが、ついには無数の無限の眼に止まった。

一人の少年が拾い、男が奪おうとし、女がそれを諫め、老婆が取ろうとする。

老人が盗もうとし、警察が捕まえ、少女が財布に入れようとした。

 次々に、次々に来る人々。一つの針金を巡り、無数の人々が、街の全てが群がってきた。

 警察官の一人が没収し、刑事が資料と称し奪い出す。

浮浪者が手早く隠し、紳士が泥まみれで探し出す。

殺到する手。暴動の人々。飛び跳ねるように宙を針金は舞う。

 畑の小麦の様に乱立する手、その上を。






 朝、死屍累々が転がります。

最早何も動く者がいなくなった広場に、死臭が漂う絶望的な光景が広がっていました。

 光が差しこんだ時。

一人、また一人、動き出す。

ゾンビ同然の人々。一体何があったのか、自分でもわからず、ただあの熱狂と全身の激痛を堪え、冷静に家へ、勉学しに学校へ、やらねばならない仕事へ、報告をどうしようかと頭を抱えながら役所へ警察署へ、怪我を癒そうと病院へと体を引きずっていくのでした。

人に戻った全ての存在は、いなくなりました。

 広場には、あの針金一本を残したまま。


 あの狂気を、作りかねない針金を残したまま。

夜を今か今かと待ち望む、綺麗に輝く針金を残したまま。


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