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フィラデルフィアの夜に、針金が集まる。


 夜、牧場。

餌、水、健康管理。掃除も整理も終わって人がいなくなった、牛たちが眠る小屋。

灯りも消されて、牛たちも眠りに落ちる。

でも牛たちは何も語らない。

何もないはずの牧場、毎夜起こる出来事を。


 僅かな月光。

換気で開きっぱなしの窓から入り込む、スポットライト。

 今日は左目の所が黒い牛の目の前。繋ぎっぱなしの乳牛の。

音も立てず、何かが集まる。

ゴミ屑同然の、埃にしか見えない、細かな針金。

人の姿を取って。

牛の前に立ち上がる。


 眠り付いていた牛、いつもの事だと思いつつ匂いかぎ、そんな針金を見つめる。

針金、バレエの足取り、軽やかに。

人が慌ただしく歩き回り、配合飼料散布するロボット動く、牛の目の前の通路をステージに。

踊る姿、歌う様。

 軽やかなステップ、月明りのはずのスポットライトが、踊り子の針金を追いかける。

次々舞い、次々に踊り、次々に。

食べ残しの牧草の上を跳ね、唾液が光るコーン飼料を飛び越え、時に牛の背、鼻、頭の上。

 牛舎は狭いと言わんばかり。

牛たち見つめ、匂いかぎ。興味深く、夜の劇場、密かに楽しむ。




 電灯が付きます。まばゆい光が牛舎の中はち切れます。

従業員が入ってきました。

 真夜中でも従業員は働きに牛舎に入ってくることがあるのです。

今日は子供を産みそうな牛の見回り。

乳房がひどく張って、予定日が過ぎた牛の様子を見に来たのです。

とはいえまだ子供を産む気配はなく、朝方産むのではないかと従業員は思い、あたたかい寝床へと戻っていくのでした。

 あの舞い踊っていた、針金を踏みつぶして。


 夜、牛舎。

人がいなくなった、大きな牛たちだけがいる空間。

何が起こっても、何も語る事のない牛たちだけの部屋。

 踏まれ牛糞に汚れながらも、埃の様な針金は再び立ち上がり、軽やかに滑る如く踊る。

朝、人が来るまで。

夜、牛たちと自分自身が楽しめるように。

 針金は踊る。

決して語られることない針金は踊る。


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