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フィラデルフィアの夜に、蛾が編み込まれていきます。
夜に、花びらのような虫が飛び交います。
蛾です。
主に茶色や白、たまに赤を帯びた蛾が光と風の中を舞い踊りますが、それを気持ちよく思う人はいません。
だから、殺してしまうのです。
光と風の中で。
バチン、と音がします。
風が通る広場、光あふれる街灯のあるそこで、電流をもって蛾を焼き殺していました。
蛾は風の中を舞い、夜に光あふれるスポットライトに飛ぶのを好みます。
だからこのような罠が設置されていました。
仕方ない事ではあります。
仕方ないのです。
蛾が、あまりに多く飛び交い、舞い踊り、命尽き果て地に落ちていくのですから。
そんな蛾をおびき寄せる光が、届くか届かない位の夕闇の中で、蛾が編み込まれていきました。
ぶち、と何かが切れる音がする。
鉄線、銅線、真鍮線。それらが編み込まれ、組み込まれていく。
細い、太い、柔い、硬い。
それぞれの部位に準じて。
蛾が、生まれた。
針金でできた蛾が、夕闇からスポットライトへ飛んでいく。
昆虫の蛾と、針金の蛾、どちらも同じように舞い踊り、光の中で。
そして電流に触れた。
昆虫の蛾は燃え、地面に小さな光として消えていく。
針金の蛾、電流線に触れながら、未だ花びらを咲かせる。
焼け落ちず、火花を散らす花として、電流に溶接されながら、花としてそこになおも咲き続ける。
夕闇の中、また蛾が生まれる。
ぶちぶち、と何かが引きちぎられる音がして。
様々な針金の、無数の針金が編み込まれ組み込まれた蛾が、スポットライトへ次々飛び込んでいく。それは猛烈な勢いになっていく。
落ちるはずのブレーカーは、群がった蛾で占拠されて通電し続ける。
蛾が、スポットライトを浴び続ける。風の中で。
昆虫の蛾も、針金の蛾も。
火花を花びらとする、巨大な花を作り上げて。
朝、ようやく電気を切られました。
火事になりかけ、通電を止めなかったこの花をようやく止める事ができたのです。
その蛾を焼き殺す電流線には、膨大な数の針金でできた蛾が止まり、過剰な発熱によりそのどれもが完全に溶接されていて引き剥がすことができなくなっていました。
その様は遠目には、巨大な花そのものでした。
闇夜にその花を見た人が言うには、火花を放つ輝く燃えるような花がそこに咲き乱れていて、街中の蛾がその身を焦がしながら舞い踊っていた、と言います。
極上の花を祝うかのように。自分自身も花になれたのを喜ぶように。
どこかの誰かがこの花を作り上げたと、町中を探し回るもそれが誰なのか、結局わからないままでした。




