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「3日で書け! 第33回文学フリマ東京開催記念企画」(脊椎企画/渡辺八畳)にて「痛くない」というお題にそって書いた作品です。
フィラデルフィアの夜に、針金と踊ります。
病院。
電子音が心拍を微かに知らせる、重篤の患者。
全身はコードにチューブが巻き付くかのように覆っている。意識をずっと失ったまま。
でも一時、意識を明瞭に取り戻したのです。
意識は澄み渡り、今の自分の状況ははっきり知ります。
声は出せず、体は動かず、誰もいません。感じるのは痛み。心以外を動かせば、たちまち襲われる。
取り戻した意識はもうすぐ途切れ、体も心も動くことはありません。
ぼやけていきます。心が。視界が。痛みと共に。
体にまとわりついているコードとチューブが、一人でに蠢いている感覚だけが強く感じ始める。
いや、動いている。
コードとチューブの中の針金がそれらから皮を脱ぐ様に出てきている。
それらは体に絡み纏わり支え始める。不思議に苦痛が癒え、体が動く。
ああ、動く。
ああ、動く。
体が動く。
誰もいない、誰も知る事のない、真っ暗闇の狭い病室のベッドの上。
最高、最後のステージに。
膨大な針金を振り回し、海の様な針金に支えられ。
舞い踊る。
朝。
真っ白な病室。その人は昨日と全く同じベッドの上で眠っています。
ただ、一体誰が書いたのか、一文が大きくあったのです。
痛くない 私は踊る 光の中
壁に針金を張り付けて。




