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フィラデルフィアの夜に、何かが生まれてきます。
焼却炉に火が放たれ、次々にゴミが投げ込まれていきます。
本来、もう使ってはいけない街中の焼却炉。
でもあまりに多くのゴミができてしまったがために、久しぶりに火が灯りました。
煙で使っているのがばれないように、真っ暗な夜になってから、四方を囲まれた焼却炉は周りに知られない光を放ちます。
大量の廃材、プラスチック、ビニール。
ようやく燃やし終える。
次に待ち構えるのはゴミ袋。
今時使われない、真っ黒な。
他にゴミ袋がなかった、と聞きます。
手を伸ばした時。
ガサリ
動いた。
何か入っている。
いや、どうせネズミだ。
放り込む。
ゴソリ
また動く。
また、ネズミだ。
また投げ込む。
考えるな。光を放つ炎へ、次々に投げ込んでいく。
モゾリ
動く。何かが。
ゴミ袋の表面。それが、人の顔の輪郭を浮かび上がらせる。
叫ぶような、顔を。
大急ぎで焼却炉へ。
浄化を願う様に、蓋を勢いよく閉める。
鐘が鳴るような音。
それと同時に、焼却炉の光がおかしくなる。
白く、真っ白に。
焼却炉が溶け出した。
白い光が地面に零れ、滴る。
高温の溶けた鉄が、焼却炉が、投げ込んできたゴミが、地面を這い出す。
それは一つの細い線となる。
つぎにそれは絡み踊り、丸まり踊り、形を成していく。
人が、顔ができ上がる。
白く熱した針金で作り上げたような人が、叫んでいる。
声に、言葉にならない感情を、絶叫として。
未だ堆く積み上げられたゴミ袋。
真っ黒な何が入っているかわからない、小さな子宮。
呼応し生まれ出す。
同じような、針金とゴミでできた叫ぶ人々が。
焼却炉でゴミを燃やしていた、その人はあまりの事で逃げ出したと言います。
その絶叫は警察を消防を、野次馬までも呼び寄せました。
その時には、ただそこにあるのは熱でボロボロになった古びた焼却炉があるばかりだったそうです。




