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フィラデルフィアの夜に、針金が飛翔します。


 夜、街中は人通りが絶えない。

でも歩くその一人一人を注意深く見守り、観察する人はいません。

その人に、気が付く人もまたいませんでした。


 真夜中の暗い路地から、昼の様に明るい照明の下にその人は出てきます。

自然に歩き、普通の顔の、そのような訳がない人がです。

歩き、歩きます。

不自然がでないように。誰にも怪しまれないように。

現に、今行きかう誰もが、その人を見ない。

歩き、歩きます。

街一番の照明がある場所へ。

壊れた太陽があるそこへ。


 作られたばかりの大きな街灯が突如壊れ、それは焼き尽くす様に、夜の街に照ります。

大きな人の波の洪水を、一人怪しまれてこなかったその人だけが向かっていくのです。

膨大な光から逃げ去ろうとした何人かは、気づきました。

歩き続けるその人から、男か女かもわからない歩きを止めない誰かから、その体から蟲が飛び立ち続けているのを。


 炎のような熱い光。

それに向かって、蟲が羽ばたきを始めた。

群衆の叫び声に、蟲の羽音が入り混じり、ついに街は蟲の気配に覆われる。

 ようやく全ての人々が気づいた。

街中で歩き続けていたその人が人間でないことを。

 次々に飛び続け、光へ飛び込み続ける。その人の体は、蟲たちでできあがっていた。

そんな蟲たちは、明らかに無機質で誰かが作り上げた物。

様々なガラクタが、ゴミが、針金で武骨に巻かれ、緻密な羽を持って夜空を飛翔する。

 暴力的な光に向かって。


 暴れるような光に向かって、闇から現れた誰かが作り上げた蟲たちが襲いかかる。

方々の穴から、陰からもゴミからできた蟲たちが出現し、太陽へ向かっていく。

焼かれ、焦げ落ちた悪臭も漂うも、濁流のように蟲たちが向かっていく。


 空が白くなり始めます。

本物の太陽が姿を現す頃。

ようやく壊れた光は収まりました。

蟲たちの形を留めない死骸が散乱する、惨状が現れます。

そして改めて蟲たちを見ると、間違いなく誰かが作った何かでした。


 あの壊れた街灯に通う電気を切っても、光は止む事がなかったと言います。

最新式で壊れるはずがないのに。

焼け落ちた蟲たちは廃棄物として処理されるも、その総重量は数十トンにも及び、そんな蟲をこの街の誰かが作り上げ、この街のどこかに隠していた事になりました。

何より、最初現れた街中を歩くあの人。

蟲たちがなぜ、人の形をとったのか。

誰にも、何もわからなかったのです。


 ただ、あの蟲のうちのいくつかが、“美しい物”として、また街を護った英雄として、飾られているのでした。


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