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フィラデルフィアの夜に、風が吹きます。
少しだけ強い風。でも一瞬、強い風。
カサリと、落ちていた針金が動きました。
風が吹きます。
また、カサリ。
至る所で、風が。
カサリ。カサリ。カサリ。そしてカサリ。
誰も気付く事無く、カサリと。
そんな針金のうちの一本が、壊れたラジオの部品の元にたどり着きました。
カサリ。まず、寄り添うように。
グイ。巻き付き出します。
ギュゥ。強く、締め付け。
キュン。さらに巻き付き。
それは生きているかのようで。
しかし、あくまで風による物。
一瞬一瞬、それだけ強い風が、針金を動かす。
巻き付き、締め付け、作り出す。
針金が足りない。
カサリ。また別な針金。
ギギギ。また締め付け。
グギイ。作り出し続け。
動物のように。
このラジオの部品は、この世のどこかにいそうな、動物の姿に。
別なエンジンの部品は、何かの顔のように。
違うピストルの部品は、魚のようで。
人のように、鳥のように、樹のように、花のように、手のように、角のように。
そして至る所に、何かのような、針金。
風が強かった次の日。
多様なまるで何かのような部品に絡みついた針金を人々は見つけます。
明らかに誰かの意図によって作られたと、口々に言います。
探ります。
意図を、意味を、作った誰かを。
でも全て、風が吹いただけでした。