46
フィラデルフィアの夜に、針金が作り出します。
夜、忘れ去られた小部屋。
音も立てず蜘蛛のみたいに天井より垂れる何かがあります。
針金。電気コードより一本、二本、数本と被膜の中から垂れ下がる。
それらは首をもたげ、電灯へと入り込む。
灯りがつきます。
月の様なスポットライト。
照らされる先には、針金。
様々な、何かを模したかに見える雑多なゴミを巻きつけたものたち。
それは人々のようで、動物のようで、街並みのよう。
色が変わる。
その形を維持したまま、色が変わっていきます。
それは光を浴びた時です。
無機質そのものだったその色合いは、急に命を得始める。
人の形のビニールテープを巻いた針金。人の肌の色になって動き出す。
その顔は人間そのもの。
歩いた一歩の、その地面を土色にして。
歩く度、殺風景な空間を命溢れさせる。
乾電池を針金で巻いた物は、大きな犬になり付き従い。
人の手見える置物は、柳になって緑を滴らせる。
埃を被らせた小さな針金の塊は、花々となってこの世界を彩らせ。
時計の部品に巻いた針金は、鳥となってさえずり歌う。
歌う声。
人と犬も歌うような声を上げて。
声と光届くその場所に、もう一人。
壊れた工具に針金巻いた何かは、人の肉を得て動き出す。
歌う声、踊る光、香る花、その中の人と生き物たち。
それは楽園でした。
ぷつん。
光が消えた。
声が消えました。
光と共に。
香りも消え、真っ暗闇の中何かが動く気配すらありません。
電気コードより垂れ下がってきた針金は、諦めたように元の場所に戻っていきます。
人も樹も犬も鳥も花も、踊りも緑も歌も香りも終わったのです。
そこには楽園がありました。
誰もが忘れ去った小部屋。
その夜の事。
誰も知らない、どこかの人が作った針金の像。
その針金たちが、一時の楽園を作り上げたのでした。




