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フィラデルフィアの夜に、針金が作り出します。


 夜、忘れ去られた小部屋。

音も立てず蜘蛛のみたいに天井より垂れる何かがあります。

針金。電気コードより一本、二本、数本と被膜の中から垂れ下がる。

それらは首をもたげ、電灯へと入り込む。

 灯りがつきます。

月の様なスポットライト。

照らされる先には、針金。

様々な、何かを模したかに見える雑多なゴミを巻きつけたものたち。

それは人々のようで、動物のようで、街並みのよう。

 色が変わる。

その形を維持したまま、色が変わっていきます。


 それは光を浴びた時です。

無機質そのものだったその色合いは、急に命を得始める。

人の形のビニールテープを巻いた針金。人の肌の色になって動き出す。

その顔は人間そのもの。

歩いた一歩の、その地面を土色にして。

歩く度、殺風景な空間を命溢れさせる。

 乾電池を針金で巻いた物は、大きな犬になり付き従い。

人の手見える置物は、柳になって緑を滴らせる。

埃を被らせた小さな針金の塊は、花々となってこの世界を彩らせ。

時計の部品に巻いた針金は、鳥となってさえずり歌う。

 歌う声。

人と犬も歌うような声を上げて。

声と光届くその場所に、もう一人。

壊れた工具に針金巻いた何かは、人の肉を得て動き出す。

 歌う声、踊る光、香る花、その中の人と生き物たち。

それは楽園でした。


 ぷつん。

光が消えた。


 声が消えました。

光と共に。

香りも消え、真っ暗闇の中何かが動く気配すらありません。

電気コードより垂れ下がってきた針金は、諦めたように元の場所に戻っていきます。

 人も樹も犬も鳥も花も、踊りも緑も歌も香りも終わったのです。

そこには楽園がありました。


 誰もが忘れ去った小部屋。

その夜の事。

誰も知らない、どこかの人が作った針金の像。

 その針金たちが、一時の楽園を作り上げたのでした。


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