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フィラデルフィアの夜に針金が、消えました。


 夜、少女が歩いていく。

たった一人、不用心に。

寒い風が吹く、夜の道を。


少女は思います。

「何故、今ここにいるんだろう」

まるで操られているように、足は歩みを止めません。

 歩いてはいけないはずのこの道を、危ないはずのこの路地を。

引きずられているように進んでいく。


 ガラスが割れ、銃声が聞こえ出す。聞きなれない音と共に。

野良犬が唸り、そこの住民が騒ぎ出す。

するともう、悪い香りのする人々が取り囲んでいた。

「ああ、ああ。なんで私は ざらん」

 ざらん。

さっきから聞こえてくる、聞きなれない音。

ざらん。

ざらん。 ざらん。

ざらん。

ざらん。  ざらん。 ざらん。

ざらん。  ざらん。

ざらん。       ざらん。   ざらん。

     ざらん。


 少女と取り囲む男たちがあまりに大きな異様な音に周囲を見回す。

そのうち一人の男が、指さす。

こいつだ、と。

少女を。

                   ざらん。

一瞬の静寂。

 少女は思わず、顔を覆う。

だが、その手の間から、飛び出してきた。

 針金が。

ざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらんざらん

 少女の顔の七つの穴々から。

濁流のとなって洪水となって、その一帯を満たしていく。その街を翻弄する。

 針金が。

全てを覆い、全てを飲み込んでいく。


      ざらん

すると。

少女の側に、針金が集まってきた。

それは、一つの柱の様に、樹木の様に、天へ伸びていく。

 天へ向かう針金。

その間に挟まっているのは、銃や刃物でした。

 他には危なさそうな物や、許されていないだろう代物。

それらが一斉に、針金が伴って登っていくのです、天へと。

 ざらん

 ざらん

 ざらん

ざらん

ざらん

ざらん

ざらん

そして天へ登り、消えていくのです。


 黒い針金は、真っ黒な夜空に飲み込まれていきます。

まるで天の帳に針金を引っ掛けて、登っていくかのように。

そうして何も見えなくなっしまいました。

 その街に遭った悪い物が、消えてしまったのです。

 針金と共に。



 ただ、それからと言うもの物陰や片隅に転がっているのを少女やその近くに住んでいる人は見つけます。

 人を傷つける事が出来なくなった銃や刃物の部品が、針金を纏ったオブジェになっている物を。

 また知るのです。

それらが何かを痛切に訴えている事を。


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