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フィラデルフィアの夜に、針金が生まれ出てきます。


 真っ暗な夜に、ライトの光線を伸ばしながら車が走っていきます。

夜のハイウェイは単調で何も見えないまま、エンジンの音しか聞こえないまま、夜道を進んでいきます。

今夜もそうなるはずでした。

 音が鳴り始める。

きりり、きりり、と。


 きりり、きりり。

その車の運転手にもその音は聞こえてくる。

だがライトが照らす、暗い前を見据えている。

それで見ない、気づきもしない。

 フロントガラスの端。そこからも聞こえてくる。

きりり、きりり。

旋盤で厚めに鉄柱を削り取るような音。

 それは針金が生まれ出てくる音でした。

旋盤で削られ出てくる鉄屑の様に、針金が伸びてくる。


 車には運転手一人。

誰もそんな事をする人も、道具もない。

なのに車の金属から、針金が出てくる。

 暗くて見えなかった車内にも、鏡で見れば針金が出てきている。

訳が分からず急いでブレーキを踏もうとします。

でも足には。針金が、巻き付いて。

 一瞬見えた足元の針金。

それは人型をしている。


 さっき見たフロントガラス端に、針金はいません。

それと同じ色合いの針金が、人型を取ってギアに巻き付いている。

 きりり、きりり、きりり、きりり。

次々に針金は生まれ出し、次々に運転の主導権を奪ってくる。

細い手をハンドルにさえも添えて。

人型を取って、絡みついて。

 的確なハンドリングとブレーキングを繰り返し、運転手の絶叫を載せて、夜のハイウェイを走り去る。


 見えない急カーブを豪快なドリフトでスピード落とさず、大勢の針金たちが精密にコントロール。

運転手の足は絡みつかれて止められて、針金たちが押し込むアクセルはフルスロットルでエンジンは唸りを上げて大爆走。

急な上り坂を駆け上がってからの、ハイジャンプ。

 何を求めているのか、なんでそこまで急いでいるのか。

いつしか道なき道を行くラリーを暗闇の中、車は雄叫びを上げて突き進んでいく。


 闇が、薄らいでいきます。

陽が少しずつ上り、その明りが増すごとに針金たちの力が弱まっていっていました。

 ようやくブレーキを自分の意志で踏むことができ、そこで車を止めました。

世界は明るくなっていきます。

外に出ました。そこにあったのは。

絶景。

街を見下ろせる場所にいました。

いつも住んでいる街が、宝石の如く輝く。


 いつも乗っている車が、ここに来たかったのだろうか。

何かの仕掛けが仕組まれていたのだろうか。

誰かが、ここに連れてきたのだろうか。

何もわからないまま、眺めていました。

針金たちと共に眺めていました。


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