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フィラデルフィアの夜に、処刑が始まります。
人気のない山奥の一角で車のライトに照らされて、一人の男が縛られ、目隠しをされ、膝まづいています。
取り囲むのは、男たち。
恐ろし気な空気を纏い、重い銃をそれぞれ身につけている。
行われるのは、処刑。
裏切ったという、男へ死を与える事。
信頼を得ていたこの男、取り囲む男たちの金を奪い、使い込んだ。
孤児院や病院へ、慈善のために。
その後、不思議な程大人しく捕まり、一言もしゃべらないまま、森の中で死が与えられる。
銃弾。銃声。
後頭部へ、一撃。
噴き出してくる。
本来なら血液が。
代わりに、針金が噴き出してくる。
決壊したかのように、尋常じゃない量が。
慌てふためく男たち。
数多くの死と恐怖を、人々に与えてきた凶悪な心の持ち主たちが、悲鳴を上げる。
噴出する針金は、宙を舞い、地面を這い、男たちの足元を暴れ、草木を打撃する。
次々に火を吹く男たちの銃器もそれを抑える事ができないまま。
針金が、この空間を支配した。
処刑された男にも銃弾が浴びせられるも、針金が出続け、ようやく終わりました。
男たちがほっとする間もなく、また針金が動き始めます。
この空間にまき散らされた針金が、今度は一か所に集まり始めました。
男たちは足を取られ、転びながらなんとかその流れに巻き込まれないよう耐え、見ました。
針金が人の形を作り出しているのを。
針金はライトの光を反射させる、黒光りした物でした。
それに、段々と色が彩られ生きている人間のようになります。
体はなまめかしい肌へ。頭は艶やかな髪へ。
針金は清らな女へ、変貌しました。
出現した女は、処刑された男を愛しそうに抱きしめ、地面に残る針金に足を踏み入れます。
すると、落とし穴へ落ちたかのように、消えていきました。
処刑された男も、針金から作り出された女も、消えました。
男たちはすぐに、消えた男と女がいた場所へ走る。
ただそこには針金が一抱えほど広がるばかり。
男たちの一人が蹴った小石がその地面に広がる針金の中へ入りました。
小石は、水音と共に消え、見えなくなる。
男たちは何もできず、見守るばかり。
広がっていた針金は次第に狭くなっていき、日が上がるころ、跡形もなくなりました。
全ては夢だったのかと男たちは言い合います。
でも、男たちがため込んだ金がなくなっていたことだけは事実でした。




