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フィラデルフィアの夜に、針金を噛む人影がありました。
暗い地下室、彼女は固い針金に噛みつき、折り曲げています。
寂しくて寂しくて、それから逃れるために針金をなんとしても曲げたかったのです。
ギッ、ギッ、と針金の音が響きます。
口に針金を含み、さらに小さく折り曲げていきます。
針金に歯が負けそうになりながら、小さい球体を針金で作りました。
上がった息を整えると、手に何かが当たりました。
それは電池で。
枯れ木のような手を伸ばし、薬指と小指に挟んで拾い上げた。
それは輝く宝石のようで。
小さい球体の下、針金で巻き付けて行きます。
不器用に、不器用に、不器用に。
歯で。
友達が出来ました。
小さい針金の顔の、乾電池の宝石を胸にした。
光照らし出されるような、友達が。
見渡せば、暗い部屋には、宝物だらけで。
方々に光るアルミホイルが、危ない透明なガラス片が、重く鈍い光沢の蓋が。
彼女は再び針金を手にしました。
さっきよりも手に力を込めて。
それからどれだけ時間が経ったのか。
開けられた地下室に、異常な世界が生まれていた。
ありとあらゆる物が針金で結えられて、縛られて、つながって。
異様な臭気に、不思議な輝きを放つ、人形と化したゴミたちの針金による世界が。
少し目をやれば優しさを感じさせる、よく分からない針金の。
「このまま眠って貰おう」
そう、手を付けなかったと言います。
人知れず、その地下室の話は伝えられます。
ごくたまに、訪れる人がいるとも。
その臭気で威嚇されるも、なぜか優しさを感じさせる、小さな世界に。