38
フィラデルフィアの夜に犬が鳴き叫びます。
何かに気付いてほしいかのように。
ある夜の事。
犬が突如ハッと目覚め、叫び始めました。
ただその犬は壁の方向を向いて鳴くばかり。
すると近くの家の犬も鳴き始める。
それは次々に鳴き声は拡散していく。
同心円状に広がる叫び声は、一点に向かっている。
野良犬が一匹、走っていくのが見えます。
その犬に続々と続いていくのも。
それは犬たちが鳴き吠える方向。
その方向へは繋がれていない犬たちが吠え叫び続け走っていく。
向かうのは街の中心。うなり上げ、駆けていく。
人々もまたその方向へ。
時に犬を連れ、時に各種の道具を携えて。
何があるか、何が起こっているかわからないがために。
犬たちと人々が向かう先。
八方から集まる警戒心と好奇心は、空き地となった空間に集まる。
人々は明りを照らし武器を持ち警戒し、犬たちは吠えながら鼻を地面つける。
一匹の犬が急に怯え、驚く。
人々のライトが一斉に照らすと、何かが蠢めいている。
何かのゴミ?
風のないこの日、動くはずもない。
犬が各所で怯え、驚く声を出す。
そこにはどれも、蠢く何かが絡み運ぶ、小さなゴミがありました。
ワン。
ある犬が通る声を出します。その一声をきっかけに。
犬たちはタガが外れたかのように吠え続ける。
今までと比べる事が出来ない、犬の鳴き声の濁流は明らかに何かを訴える。
犬たちが鳴きわめく一点、そこへゴミが集まっていく。
そして形作られていく。
様々なゴミに、そのゴミに絡み運ぶ針金がその場所に。
地面から少し浮かびながら、でき上がっていく。
小さな子供の姿を。
大きさは赤ん坊くらい。
遠目には本物と見えなくもない、赤ん坊が作られ、でき上がっていく。
吠え続ける犬たちと、茫然と武器を構える事ができない人々の前で。
そうして、でき上がってしまいました。
生まれてしまった。
ゴミと針金でできた赤ん坊が。
すると。
その赤ん坊は、地面へ溶けていくように、消えました。
いつの間にか、太陽が昇っています。
犬たちは黙り、一点を見ています。
スコップを持った人が、意を決してその場所を掘り出します。
少し掘ると、掘り当てました。
死んでいる人がいたのです。
それは本物の人間の死体で、妊婦でありました。
何があったのか、誰なのかわかりません。
その死体のすぐ側、あの赤ん坊がいたのです。
その死体に護られるように、護るように。
すぐに棺が用意され、二人を共に入れました。
犬たちはそれを見届けると、元の住処へ戻っていったのです。
あの妊婦の死体とゴミと針金の赤ん坊は一体誰で、何だったのか未だ判然としません。
ただあの二人を葬った墓地に、犬たちが集うことは事実でした。




