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フィラデルフィアの夜に雪が降りました。
夜、風もなく音もなく雪が降り積もっていました。
それは真っ暗な夜を、銀色の世界に変えてしまうほど。
自動車が埋もれ、動けなくなってしまうほど。
誰かがその降りしきる雪の中を歩いて行けば、遭難してしまうほど。
雪が、静かに街を支配下に置くかのように、いつまでも降り続けていました。
真夏の灼熱といえる夜の中で。
雲のない夜空の満月が雪に灯り、街を銀色に輝かせます。
それなのに雪は、降り続ける。
一切溶けもせず。
一体どこから降っているのか、これはなんなのか。
混乱続く夜。
交通に支障がきたし、停電も起き始め、家々が重みで悲鳴を上げ始める。
何もわからず、茫然とするも、どこにも行けない人々を尻目に。
雪が降りやまない。
ただただ、しんしんと降り積もる。
朝、人々の頭がようやく目覚め始めた。
雪、本来は氷の結晶。
なのに夜の間降り続いたこれは、金属。
小さな塵に、微細な棒状の金属片が幾重にも幾重にも巻き付いた、何か。
ゴミに緻密な針金が精密なまでに巻き付いた、白銀色の雪の様なもの。
それが街全体を覆いつくした。
そしてもう一つ気づく。
ある一か所にだけ、やけに多く降り積もっていると。
そこは公園の林でした。
その降り積もった雪の様な白銀は、木々が隠れて見えなくなるほど。
何かがある。
原因となった、何かが。
重機が、スコップがずっしりとした白銀を掘り始めました。
山となって積もった無謀ともいえる膨大な量を崩し、掻き出し、地面まで掘り進む。
一人、見つかった。
永遠に眠り続ける、みすぼらしい服の。
骨となった子供。
手にしていたのは、一つの靴下。
そこに入っていたのは、紙切れ。
“Give Me White X’mas”
そう書かれていただけの。
フィラデルフィアの夜に、ホワイトクリスマスがやってきていました。
溶けない雪が降りしきる、誰かが見たかったクリスマスが。
街に人々に甚大な被害を与えた、微細な針金細工が願いを叶えました。
どうやってこの事態を起こしたのかわからないまま。




