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フィラデルフィアの夜に、針金が咲きます。
暗い夜。その薄明かり。
少女が一人、眠れぬ夜の中にいました。
窓より、街灯がわずかに差し込み、薄明かりを作り出すだけ。
眠れない時間、ベットから窓をぼんやりと、のぞき込む。
「お花が欲しい」
そう思いながら。
ポトン。
何かが手元に落ちてくる。
針金。
冷たく、しなやかに長い。
ペンチ。
硬く、黒く重い。
なぜここに、と思う間もなく。
グジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャグジャ
勝手に、手が針金とペンチを握り動き出す。
グジャグジャグジャグジャグジャ、手が何かやっている。
目にも止まらぬ速度でひとりでに動く。
悪魔が乗り移ったかのように。
悲鳴を上げようとした、その時。
甘い香りがしました。
ほのかに香る、花の。
手には、花が。
薄明かりに照らし、見るとそれは、針金の花。
でもそれは、本物とそっくりでした。
どこから現れたのか、色のついた針金で作り上げてます。
もう一度、顔に近づけ香りをかぎます。
冷たい針金でできたはずなのに、あたたかな花の香りがしました。
気が付けば、手は自分のものに戻っていました。
そして針金もペンチも、どこにも見当たらなかったのです。
しばしば訪れる少女の眠れない夜。
その度に。
ポトリと針金とペンチがベットに、少女の手元に落ちてきます。
「暗闇さん、ゆっくり作って。私の手はか弱いから」
そう言うと、少女の手はゆっくりと針金とペンチを手に、花を作ります。
バラにユリにランの花。
少女のベットの下もある宝物はどれほどになったでしょう。
始め銀色だった針金は、折り曲げて形作ると、自然と色が付く。
「今度はひまわりだ」
黄色い花ができつつあります。
またひとつ宝物ができるでしょう。
「暗闇さん、ありがとう」
一人のはずの部屋に、お礼を言うのでした。




