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フィラデルフィアの夜に、針金が保護しました。
夜、点々と鋭く光を弾く何かが、並んでいます。
かわいらしく見える丸い玉や角のない円柱、小さい子供でも積み上げられそうなブロック。
全て針金でできたもの。光弾く滑らかな針金の。
向こうが見えるほど粗く巻いていたり、みっしりと針金が詰まっていたり。
ただどれも先端がどこにあるかわからないようになっている。
まるで傷つけないためのように。
それに温かみが。
雰囲気ではなく、実際に針金からは熱を感じるのです。
今は夜。日の光で暖まらない。
火の気もなく、熱源もない。
針金を幾度も曲げるのなら金属疲労で熱は出る。
だが、誰がそんなことを?
光を先へ照らす。
点々と光は導くかのように、続く。
子供、というより赤ん坊が持ち上げられるような大きさの、玉にブロック。
人形のようなもの。恐竜のようなもの。球体を組み合わせた、架空の乗り物。
車や機関車を思わせる物。シルエットは熊に見える何か。
どれも針金。
触ればあたたかい、針金。
細い路地から、茂みの中へ。そして大きな壊れた自動車に。
周囲を照らす。
針金が、必死で何かを模している。膨大な数の針金。
おもちゃか、遊園地か、それとも人か。そう思える形を、不器用ながら形作る。
どれも傷つけないように先端を隠しながら。
不思議に人肌程度の暖かみを放って。
心の温かみさえ、感じさせて。
自動車の中、揺れている。
動きあるのは、その一つだけ。
かろうじて開く扉を開け、光をそれに照らします。
赤ん坊が、寝ている。
それはゆりかご。
精巧に編まれた、針金の。
その中にゆっくりと息をする、赤ん坊が。
自動車の中、見渡せば。
組み合わさり、編み込まれ、細工が施され、熱を持つ針金。
指でつまむように飴玉がゆりかご近くに吊るされ、程よく溶けています。
瓶には水。
瓶の口は、哺乳瓶のようになっていて。
ただしそれは、細く柔らかな針金細工。
必死に、必死に赤ん坊を守ろうとしたと、感じさせました。
赤ん坊を抱きあげ、自動車を、針金の園を後にする。
一歩、一歩と進むたびにかすかな音がします。
振り返り光を照らすと、針金が自然と徐々に徐々に解けてました。
もう役目は終えたと言わんばかりに。
赤ん坊が不意に泣き出します。
茂みに、路地に大きく木霊します。
一瞬、針金の解ける音が大きくなりました。
「さようなら」と言うかのように。
街の灯の輝きが目に入る頃には、赤ん坊の泣き声だけが聞こえます。
あの針金の園を思い出せるのは、赤ん坊が握る、あたたかな針金人形だけです。




