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 フィラデルフィアの夜に、針金が動かしました。


 ゆっくり。軋ませながら。

一歩一歩、悪臭を放ちながら。

ふらつきながら、前を見据えて

 突如大騒ぎが起こった街中。

駆け付けた警察官は、あってはならない者を見る。

死体。

骨ばかりになった、所々肉片をつけた歩く死体。

骨と骨の隙間からは向こうの景色が見え、死臭がつんざき、これは確かに現実の物。

「動くな」

向けられた言葉、銃口。

反応なく、背筋伸ばし、前を見、死体は歩く。

 次の瞬間、執拗なまでの弾丸が、少なくなった肉片を吹き飛ばしました。


 死体の汚れ変色した骨まで砕かれ、倒れました。

これは何なのか。

悪戯か。

警戒と共に警察官が近づくと、見たのは針金でした。

骨の中から、肉片の中から、細い針金が飛び出し、絡み合い、死体を元に戻していきます。

腕が動き、脚が動き、体が動き始め、起き上がり再び歩む。

右目だけにある眼は澄んで、まっすぐ見つめる。

骨の周りには細い針金が束になり、伸び縮み、筋肉のごとく動いています。

しかし、どのような原理で。

 警察官は気づきます。

死体が見つめる先、歩む先、それは花屋だと。


 死体は、銃弾の跡が残る何枚かの紙幣をレジに置きました。

腐葉土を飲み込むように体の中へ。

擦り込むように様々な種を体の各所に。

球根も植え付けて。

気が済んだのか、そして店の外へ

 そのまま死体は歩いていく。

警察官たちは死体の彼についていく。

敬意を示すためのように。


彼は、落ちていきます。マンホールを開け、その中へ。

深い深いその穴は、ライトを照らしても何も見えなかったのです。

それきり、彼を見失いました。


 花が咲きます。

人の形に。

地下、光差す下水の一角。

必死に探した警察官は、彼の痕跡を見つけました。

 彼はこれをやりたかったのです。

最後の時に。


 色彩豊かな花々が、暗い一画を満たします。

警察官たちが黙とうして、名前のわからない彼だっただろう骨と針金を棺に入れて。

その針金がどのようにして彼を動かしたのか、誰にもわからないまま。

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