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フィラデルフィアの夜に、針金が育ちます。
地下。
もはや誰も何も訪れる事のない、小さい空間。
わずかな隙間から、光が差し込み、一時明るくなる。
照らされたのは、トルソーの像。
それと、針金です。
トルソー、それは頭と手足がない像の事。
誰が打ち捨てたのか、ここにはむやみに乳房の大きい、トルソーがある。
光はもう一つ、露わにする。
針金。異様な、膨れ上がった針金。
両の乳房は、先端から何かを垂れ流す。
白い二筋の線となり、地面に落ち、その流れは、飲み込まれていきました。
針金の中へ。
白いはずの筋は、錆びて赤く、汚れて黒い針金の中へ。
ぐしゃぐしゃな、何の用にもなさないかたまりに。
白い筋は、どうしようもないゴミへと変わっていました。
ここで、日は傾き、光は途切れる。
光が差し込む。
トルソーは、乳房は、まだ白い筋を垂れ流している。
ただ、流すその筋を明らかに太くして。
今日は曇り出し、もう見えない。
天気が悪く、光は差し込まない。
そのままずっと。
あの空間は、暗闇に密封されたまま。
なにもわからなくなりました。
光。
久しぶりに、天から差し込みました。
トルソーは、両の乳房からほとばしる白いものを濁流のように流していました。
すぐに満ち溢れてしまうだろう、その洪水ごとき流れの行き着く先にあるのは。
針金。
錆びて赤く、汚れて黒い、塊。
トルソーが壊れたように押し流す、白い針金は、瞬く間に赤く黒い塊へ。
育っています。
明らかに肥え太り、育っています。
あの長い暗闇の中で。
夜のうちに成長をしてしまって。
頭の大きい、巨大な胎児のような形に。
光が差し込む穴は、崩れました。
もう光は差し込むことはありません。
これからずっと、あそこは夜です。
トルソーと白く赤く黒い針金がどうなったのか、どうなっていくのか。
わかりません。




