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フィラデルフィアの夜に、雨が降ります。
雨。
静かな音を立て、フィラデルフィアの街に降り注ぎます。
その一角、誰も来ることのない壊れたビルの屋上。
近くの電飾に照らされる。
雨の様な、別な物が降りました。
それは、何やら形を作り出す。
人の様な姿。
それは雨と共に流れ消えて。
また、降る。
犬の様な姿。
流れ消えて。
また、降る。
銃の様な。
雨水と流れて。
また、降る。
胎児の様な。
消え去って。
また降る。
樹の様な。
ほどけて、いなくなる。
その一角にだけ、誰も見ないのに降り続け、その度に形を取り、いなくなっていく。
その様を見る人が見れば、言う。落ちる時のしなやかな音を聞く人がいれば、言う。
それは針金だと。
針金が、次々に形を作り、次々にいなくなっていく。
精巧な姿をとっては。消え去っていく。
流れ去った針金。どうなるのか。
誰かが拾う。
勝手に動き、勝手に現れ、人に何かを感じさせる。
誰かが手にし。
誰かが新たに形を作る。
夜の中で。
フィラデルフィアの、夜の中で。
針金が一角に振り続ける。
人の腕の様に。
球体に。
歯車に。
本に。
顔に。
箱に。
円筒に。
家に。
全てほどけ、流れ、消え去っていったのです。
晴れた朝、誰も気に留めないあのビルの屋上。
「どんな地位であっても、実行、あるいは忍耐によって貴くなりえないような地位はない」
そう、針金で書かれていました。
きれいな筆記体で、輝いてました。
針金で書かれた文字がありました。




