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 フィラデルフィアの夜に、針金が光ります。

暗い夜のスポットライトに。


 音が聞こえてきます。

引きずっている音。引きずられていく音。転がっている音。這いずり回る音。飛び跳ねる音。弾む音。軋む音。金属音。

 小さく何十にも重なって。

木が折れ、曲がり、引き抜かれる音がたまに聞こえながら。

 何も見えない暗闇に。


 誰か来たのでしょうか。

今日に限って、それはない。今日のこの時に限ってそれは。

こんな暗い夜でもある。


音が聞こえる。

音だけが聞こえる。

何者が発しているのかわからない金属音。

音が。

音が。

音が。

音だけが。


 光。

強い月明かりが、厚い雲から差し込んでくる。

ここだけに。

今夜初めて照らし出されました。


月明かりに、反射しきらめき光るクリスマスツリーが。

誰も訪れない墓場の上に。


 かつてない雪に埋もれ、かろうじて顔を覗かせる墓石たちの上に。

寂しさだけが支配した世界に。

光る一本の樹が現れます。


 磨かれた針金が、鉄線の銀と、銅線の赤と、真鍮線の金で、光を放つ。

粗雑に乱暴に念入りに、樹に巻き付けられ、神の生まれたこの日を祝います。

 雪と土の下、眠る無縁の人々も。



 月がまた雲に隠れ、辺りは漆黒に。

もう、光は来ませんでした。


 でも光ったのです。

この場所で、あの時だけは。


 また音が聞こえてきます。

引きずっている音。引きずられていく音。転がっている音。這いずり回る音。飛び跳ねる音。弾む音。軋む音。金属音。

 小さく何十にも重なって。

草木が折れ、曲がり、引き抜かれる音がたまに聞こえながら。

 何も見えない暗闇に。


 樹に巻かれた針金がほどかれていく音でした。

祝うべき時は終わったのです。


 遺されたのは、雪の上に引きずられた様な無数の線状の跡だけです。

そして雪が降り、この日の事は誰も知る事はありませんでした。


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