20
フィラデルフィアの夜に、針金が光ります。
暗い夜のスポットライトに。
音が聞こえてきます。
引きずっている音。引きずられていく音。転がっている音。這いずり回る音。飛び跳ねる音。弾む音。軋む音。金属音。
小さく何十にも重なって。
木が折れ、曲がり、引き抜かれる音がたまに聞こえながら。
何も見えない暗闇に。
誰か来たのでしょうか。
今日に限って、それはない。今日のこの時に限ってそれは。
こんな暗い夜でもある。
音が聞こえる。
音だけが聞こえる。
何者が発しているのかわからない金属音。
音が。
音が。
音が。
音だけが。
光。
強い月明かりが、厚い雲から差し込んでくる。
ここだけに。
今夜初めて照らし出されました。
月明かりに、反射しきらめき光るクリスマスツリーが。
誰も訪れない墓場の上に。
かつてない雪に埋もれ、かろうじて顔を覗かせる墓石たちの上に。
寂しさだけが支配した世界に。
光る一本の樹が現れます。
磨かれた針金が、鉄線の銀と、銅線の赤と、真鍮線の金で、光を放つ。
粗雑に乱暴に念入りに、樹に巻き付けられ、神の生まれたこの日を祝います。
雪と土の下、眠る無縁の人々も。
月がまた雲に隠れ、辺りは漆黒に。
もう、光は来ませんでした。
でも光ったのです。
この場所で、あの時だけは。
また音が聞こえてきます。
引きずっている音。引きずられていく音。転がっている音。這いずり回る音。飛び跳ねる音。弾む音。軋む音。金属音。
小さく何十にも重なって。
草木が折れ、曲がり、引き抜かれる音がたまに聞こえながら。
何も見えない暗闇に。
樹に巻かれた針金がほどかれていく音でした。
祝うべき時は終わったのです。
遺されたのは、雪の上に引きずられた様な無数の線状の跡だけです。
そして雪が降り、この日の事は誰も知る事はありませんでした。




