18
フィラデルフィアの夜に、針金が夢を描いていきました。
何の目的も無く、ただただ彩っていくままに。
開かなくなったドアを無理矢理こじ開け、数人が部屋に入っていきました。
いなくなった男を捜すためでした。
しかし見つけてしまった物は、夢。
部屋を、きっと孤独な男の人生を、彩ったもの。
極彩色の、人形たちの。
暗く静かで、色の無い部屋。
そんな部屋に入り目にした物は、積み上げられた、紙がべこべこした本。
何かが挟まっています。
一冊、開いてみると。
原色。
部屋が、開いた一冊だけで輝き出す。
そして、本の上で踊りだす。
針金が。人の形をした、不格好な針金が。
樹脂を塗られ、鮮やかな人間が、そこに。
現実には無い世界で、踊る。
周囲を見渡せば、壁一面大量に積み上げられてます。
そんな本が。
もう一冊。
友人と思しき人と、冒険に。
もう一冊。
恋人と思しき人と、踊る。空の上で。
もう一冊。
平和な世界。数え切れない程の人形の、針金の人間と。
踊り、歌を唄う。
机の上に、さらに一冊。
それは落ち着いた色合いでした。
人形は酷くくすんだ赤色で、灰色の中に。
じっと、座っていました。
細い、隙間だらけの姿で。
きっと、それが男の実際の姿だったのでしょう。
灰色の世界に、そんなくすんだ赤い針金人形が、ぽつんといるばかり。
いくら、ページをめくっても。
最後に針金を貼り付けたと考えられるページです。
何も無い、世界。白。
そこに、いました。
黒い姿で、手を振って。
あとは、その後に続くページには何もありませんでした。
きっともう見つからないと、部屋に入った者たちは思います。
ただ最後、すっくと元気に手を振った姿が、そんな針金人形が、心に残りました。
その後、その本を開くと、酔いしれると、評判を呼びます。
孤独な男の極彩色の夢と、踊る針金人形に。




