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フィラデルフィアの夜に針金が炎上します。
それは赤く、大きな輝く火でした。
ある日、大きめの箱が、ゴミ捨て場に置いてありました。
昨日まで無かったそれは、堂々と鎮座してます。
何かがぎっしりと詰まっているものの、開けてみればあるのはゴミ。
ほとんどが針金。
それに、古びた雑貨や誰かの写真。
不法に捨てたと、誰もが思います。
そのまま、そこに。
ゴミなのは変わりないから。
次の日、箱が膨らんでいます。
見ると、前よりも明らかに物が詰まっているために。
はち切れんばかりに、無理矢理似たようなゴミを詰め込んだようです。
ですが、誰が。わざわざ箱に。
こんなにも力尽くに。
夜、何かが来ます。
赤ん坊のおもちゃ。写真。小さい靴。幼児の服。三輪車。使い古したクレヨン。
まるで足でも持ったかのように、こっちに来ます。
ゴミ捨て場へ。あの大きな箱へ。
無機質な小さい金属音が合唱し、街々に響く。
見ます。細い針金のような足で、走って行く様を。
分かる人は、分かります。あの写真、あの記事は、死んでしまった小さな子供のものだと。
亡くなってしまった子供たちの遺品が、足を持って走っていると。
箱に、子供たちの遺品が、思い出たちが、汚れ捨てられてしまったのだろう、それらが、入り込んでいきます。
箱がきしむも、次々に。
今日だけでどれだけ入ったのか。
昨日はどれだけそこに突入したのか。
箱は、明らかに壊れる寸前でした。
あまりに異様な風景だったために、人々は箱の周辺に集まっています。
息を潜め、じっと。
ボッ
箱から火が上がります。
火の気はなくとも、あまりの圧力で火が上がったのか、そう何人か考えます。
次の瞬間、一気に箱が炎上しました。
ガソリンタンクが炎上するかのような炎が、天まで昇り、街を煌々と照らし出す。
そして炎が揺らぎ、歪み、何かの形に。
胎児。
人の、生まれる前の姿。
そして街は紅く。
朝、ゴミ捨て場はいつもの平穏な風景でした。
あるのは、針金の残骸だけ。
もうすぐ崩れ去るだろう、胎児のような形の針金だけ。
あの時をかろうじて思い出させるものでした。
ゴミ捨て場の壁にいつしかこう書かれました。
「八万四千の子が埋葬された。あなたはそのうち誰を悼むのか」
そう、書かれました。




