16
フィラデルフィアの夜に、針金が差し込まれます。
地面に開いた穴に。
人通りの多い道の、その地面にいつしか小さい穴が開いてました。
誰も気付かず、気にも留めないまま。
ただただ、穴が開いていました。
なのに、それはいつだったのか。
誰かが針金を差し込みました。
多分、それはただのゴミで。
手元からそれをなくしたかっただけ。
また別な人、余ったいらない針金を、差し込み出す。
それも手元からなくしたかっただけ。
そして別に、差し込まれる針金。
同じようになくしたかっただけ。
でも次々に、針金。
誰が扇動した訳でも無く針金。時に別な細い物も差し込まれて。
穴から針金の頭が、覗きだしてきました。
どれだけの量を差し込んだのでしょう。
それでも、人々は針金を、穴に。
それはどれほどの時間が経ったのか。
何かに導かれるように、針金を穴に。
詰め込むように、穴に。
すると、地面にヒビが入り始めました。
針金や他の物を差し込み、押し込む度にヒビは大きく広がっていきます。
あまりのヒビの広がりに穴に近づくのすら禁止されるも、それでもみんな針金を穴へと入れるのです。
ある時ある人が無理に針金を差し込んだ時。
ビシ
そう、大きな音が街を驚かせました。
あの小さな穴を中心に、とてつもなく大きなひび割れが、道に張り巡らされています。
それは危険なほど。
補修しようと、アスファルトを引きはがし、地面を削り取ります。
その時でした。見つかったのです。
人が。
人が、表情がまるでにらみつけるかのようで。
何よりそれが、人そのものの様にしか見えなくて。
針金です。
人の形をした、等身大の針金の人形が、あの小さな穴の下から外に出てきたのです。
それは様々な種類の針金が複雑に絡み合い、穴から無理矢理押し込められ続けた結果生まれたと分かります。
ただ目は、針金では無い金属片でできていて、そして明らかに怒っているようで。
心臓の位置には赤いフィルムが、取り出せないように針金に挟まっていて。
まるで、自分は人間であると言いたげに思えてきて。
掘り出されたそれは、その場に安置されます。
どう扱えばいいのかわからないために。
どうやって作られたのでしょうか。
道端に開いた小さい穴。その下に人の型の空間が広がっていた事になります。
何故、どのように掘ったのか。
人々がどうして導かれるように、あの穴に針金を入れ続けたのか。
たとえそれらを考えないとしても、ただ針金を入れただけではこんなにも怒りを露わにした人が作り出せる訳が無いのに。
掘り出され安置された、針金の人は、一点を見つめるかのように、街全体を俯瞰するように、怒っています。
人々は目を合わす事さえできません。
針金の人は、何も言わず、怒っています。




