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 フィラデルフィアの夜に、影が動きます。

まるで目の前の人物のために。


 夜に、泣き声が響きます。

そこは誰も来ない場所。

喧噪から遠く離れた、隙間。

そこに泣く声が。一人の少年の泣き声が。


 泣けども泣けども、気付かれない少年。

そこに光り差すのは、忘れ去られたかのような外灯。

切れかけ、点滅しがちな光。

 そこに少年とは別に動くものがあります。

影。細い影が。


 細く長い影が、動きます。

うねり揺れる影。

少年の目にも届き、不思議に思います。

 一体何の影なのか、わからないのです。

動く細い影ならば、そう言う機械か、蛇の影でしょう。

しかしその様なものはなく、ただ動くのは一本の影。

何のためにか蠢く影。

地面に落ちていた、壊れたライターに影が触れたときです。

巻き付きました。影がライタ-に。


 ライターの影に巻き付いたのではありません。

ライターそのものに巻き付きました。

外灯の弱い光の中でよく凝らして見れば、糸のような物が、地面から伸びてきて巻き付いてます。

 そして落ちていた釘を巻き込んで、人の様な姿を取りました。

不格好でもどこか存在感と威厳を湛えた、鈍く光る針金を纏った姿でした。

すると、引きずられる様に移動します。

影が、引きずっています。

すると、箱に入れられました。


またすぐ、影が伸びます。

さっき同じ箱から細長く、生きているかのように揺れ動いて。

泥に汚れた新聞の束に触れ、影が巻き付き、赤い布切れを取り込み、針金で輝く花束のように。

五本の万年筆にチューブ、枝に素早く巻き付き、何重にも巻き付き、白く光る掌のように。

黒く塗料に染まった2本のブラシに巻き付き、黒い牙を剥く白い犬の顔のように。

 次々に巻き込み巻き付き、何かの物に見える作品を作っていました。

全てを、あの箱の中に入れて。

細い影が伸びる、箱に入れて。



 何十、いや数百にも思える程。少年の目の前で。



 影がなおも揺れ動きます。

点滅しがちな外灯のせいで見にくいけれど、それは少年の方へ向かっているようでした。

 少年は後ろへ駆け出します。

彼を呼ぶ声が聞こえたから。


 出会えた親と、明るい喧噪の街へ歩いて行きます。

ふと後ろを見ると、何かが何かに巻き付いて、まるで何かのようになっている様に思いました。

よく見えないけれど。


 誰のためでも無く、あの作品は作り続けられる。あの箱自身のために。


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