第3章 魔界 38話 長い道のり
遅くなりすいません
ゼンたちは『善キノコ』の仕込みが終了した。
「もう頭がパンクするぅ~」
ダレオは頭を抱えていた。あれからゼンは数時間かけてダレオにみっちりとレクチャーした。なぜか熱が入ってしまったゼンは、本来教えるべきではない仕込みに関する細かい指導まで行ってしまい、結果ダレオの脳内は大変なことになっていた。
「なんか、すいません......」
「あのときのゼンさんはまさしく熱血教師というやつでしたよ!」
「は、恥ずかしい........」
自分の行ってしまった行為に反省するゼンであった。
「でも、これで完成なんですよね?」
「そうです、あとは——————」
――————そう、この『善キノコ』を入れれば完成する。あとは.....
「時間だけです」
今魔族が置かれている状況はお世辞でもいいとは言えない。そんな状況下で最も大事にされるのは時間である。数秒単位で魔族が負傷している事態に一刻も早く対処をしなければ、多くの命が救えない。現時点で少ないとは言えない数の魔族は亡くなっている。
この大きなフラスコから適量を取り、それを数万といる魔族に与える。数日はかかってしまう作業であり、ここまで不眠で過ごしているゼンにとってはこの上ない苦痛かもしれない。
だが、ゼンの隣には頼もしい魔族——————いや、仲間がいる。
「これからが本番と言っても過言ではありません。いいですか、覚悟は」
「余裕だっ!!!」
「私もです!」
そして、ダレオはなぜか右手に拳を作り差し出してきた。何をしているか分からない二人であったが、
「俺様達は既に仲間だろ? なら、こういうのがチームワード? というものを高めるからな! やっておくべきだ!!!」
「ガレオ様、ワークです」
「ええい、そんなものどうでもいいのだ! がはははははっ!!!」
疲れているはずのゼンにはなぜか笑みが零れていた。ガレオという何事にも前向きな性格がゼンたちに笑みを与えた。
「そうですね、ガレオさんの言う通りです。では」
「おう!」
「はい」
ゴンっという鈍い音が鳴り響いた。
◇
「ゼンさん、次はこのものたちです」
「はい、わかりました」
ゼンは負傷者である彼らを観察した。それは、傷の具合や健康状態など負傷者に関するものを調べる。
「ダレオさん、よろしくお願いします」
「おう!!」
負傷者によってポーションを適量に分け、ダレオに渡す。
これはゼンの極技ともいえる技である。これはゼンだけに備わっているものではなく、超一流な調合師なら自然と身に着くものだ。
ポーションという物は、量というものが決まっている。大量に摂取すればいいというものではない。大量に摂取した分、体にかかる負荷というものもかかるのだ。健康体の者が量を間違えて摂取しても大きな害は見られない。しかし、負傷者などはどうであろうか。負傷者にさらに負荷をかける。それは生死を彷徨っているものに関しては、大きなリスクとなるのだ。
だからこそ、1人1人に合わせたポーションの量を考え、そして与えているのだ。
気が遠くなる作業であるのは間違いない。このあとも数万人に同じことをするのだ。決して簡単な道ではないはずだ。しかし、ゼンは諦めるわけにはいかなかった。
傷ついている者が死んでいく光景。それだけはゼンの前では決してあってはならない。
――————そう、あの日のようにならないために
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